[0207] 定常運動中の呼吸数調整が呼吸中枢出力の指標である気道閉塞圧に与える影響
キーワード:呼吸パターン, 呼吸困難感, 呼吸中枢出力
【目的】呼吸不全を有する対象者に対して歩行やエルゴメータによる持久性トレーニングを行うと,運動に見合わない呼吸数の増大が観察されることがある。このような浅速呼吸の出現は,呼吸困難感を増大させ運動強度の増大や持続時間の延長を制限するため問題となることが多い。そのため呼吸数の適切な調節は理学療法上重要視される。我々は呼吸中枢出力が呼吸困難感と関連があることから,呼吸中枢出力の指標である気道閉塞圧(P0.1)を用いて呼吸数の調整に関する研究を行い,安静状態では呼吸数の適切な是正が神経系の面からも有効である可能性について報告した。本研究ではさらに運動中の呼吸数の調整が呼吸中枢出力の指標であるP0.1,換気諸量,呼吸困難感に与える影響について若干の知見を得たので報告する。
【方法】健常成人17名(20.8±0.4才)を本研究の対象者とした。マスクに流量計とP0.1の測定のための気道閉塞装置を接続し,これを懸垂した状態でエルゴメータに着座した被験者に固定した。換気量の測定には呼気ガス分析器を,口腔内圧の測定にはチューブを介して接続した差圧トランスデューサーを用いた。それぞれの信号はADコンバーターを介しPCに記録し,呼吸数,一回換気量(VT),分時換気量(VE),酸素摂取量(VO2)を算出した。あらかじめ対象者にはエルゴメータによる20W/minのランプ負荷を行い,無酸素性作業閾値(AT)を測定した。次に呼吸調整を行わない至適呼吸数条件でAT観測時の運動強度のエルゴメータによる定常運動を5分実施し,運動中の換気量とP0.1を測定した(100%RR)。さらに同じ運動強度で運動を行いながら,至適呼吸条件時の50%,75%,125%,150%の呼吸数に3分ずつ連続的に調整をして,それぞれの状態での換気量とP0.1を,呼吸困難感を10cmのVisual Analog Scaleを用いて測定した(それぞれ50%RR,75%RR,125%RR,150%RR)。呼吸数の調整はソフトウェアメトロノームを利用して呼気のみ音声による指示に呼吸を合わせる方法で行った。呼吸数調整の順序はランダムとした。統計処理は反復測定による一元配置分散分析を行い,その後の検定として多重比較検定を行った。有意水準はP<0.05とした。
【説明と同意】本研究は本学研究倫理審査を経て実施した。またすべての対象者に研究の主旨を説明し,書面によるインフォームド・コンセントを得た。
【結果】呼吸数は至適呼吸条件では18.5±4.3回で,呼吸調整により9.9±2.3回,14.1±3.2回,23.3±5.5回,27.8±5.6回(それぞれ50%RR,75%RR,125%RR,150%RR)となり,それに伴い一回換気量も変化した(F=6.22,P<0.01)。VASは呼吸数調整の影響を受け(F=3.49,P<0.05),至適呼吸数よりも呼吸数が多くても少なくても有意に高かった。呼吸数の増大に伴いP0.1も変化し(F=24.49,P<0.001),100%RRに比べ呼吸数が多いとP0.1が大きくなるものの(125%RR,150%RR;P<0.01,P<0.001),至適呼吸数より呼吸数を減じてもP0.1には有意な差を認めなかった。
【考察】呼吸困難感は低酸素血症や高炭酸ガス血症以外に,呼吸中枢出力の増大や呼吸中枢出力増大に対する換気量の増加のミスマッチなどもその原因となる。これらを考慮すると,呼吸中枢出力の指標であるP0.1の増減は呼吸困難感の変化と関連があると考えることができるので本研究に応用した。呼吸調整による呼吸数の減少と1回換気量の増大は呼吸困難感の減少をもたらすが,これは死腔換気率の低下によるガス交換効率の改善以外にも呼吸中枢出力の減少も関係すると考えていた。それを裏付けるように呼吸数が至適呼吸数よりも高い条件では,P0.1は増加していき,呼吸困難感も増加していった。しかしながら呼吸数を至適呼吸数よりも少なく調整してもP0.1は減少せず,呼吸困難感はむしろ増大した。これは我々が行った安静条件での結果と一致するものであり,このことからもともとの至適呼吸数よりも過度に少なく呼吸数を減じるように調整しても,呼吸困難感減少には寄与しないことが推察された。今回のプロトコルでは呼吸数の増減と分時換気量や肺胞換気量の増減が一致しているため,呼吸数が少ない場合は低換気,呼吸数が多い場合は過換気になっているとも解釈できる。したがって呼吸困難感もこれに影響を受けていることは否定できない。今後はさらに研究方法の統制が必要だと考えられる。
【理学療法学研究としての意義】呼吸困難感を減少させる目的で呼吸数を減ずるように呼吸パターンを調整することは,呼吸中枢出力の減少の観点からも利点があると考えられる。しかしながら至適呼吸数を超えて呼吸数を減じても呼吸中枢出力の指標は減少しないし,呼吸困難感はむしろ増加することから,呼吸パターンの是正を行う際にはそれらを考慮すべきである。
【方法】健常成人17名(20.8±0.4才)を本研究の対象者とした。マスクに流量計とP0.1の測定のための気道閉塞装置を接続し,これを懸垂した状態でエルゴメータに着座した被験者に固定した。換気量の測定には呼気ガス分析器を,口腔内圧の測定にはチューブを介して接続した差圧トランスデューサーを用いた。それぞれの信号はADコンバーターを介しPCに記録し,呼吸数,一回換気量(VT),分時換気量(VE),酸素摂取量(VO2)を算出した。あらかじめ対象者にはエルゴメータによる20W/minのランプ負荷を行い,無酸素性作業閾値(AT)を測定した。次に呼吸調整を行わない至適呼吸数条件でAT観測時の運動強度のエルゴメータによる定常運動を5分実施し,運動中の換気量とP0.1を測定した(100%RR)。さらに同じ運動強度で運動を行いながら,至適呼吸条件時の50%,75%,125%,150%の呼吸数に3分ずつ連続的に調整をして,それぞれの状態での換気量とP0.1を,呼吸困難感を10cmのVisual Analog Scaleを用いて測定した(それぞれ50%RR,75%RR,125%RR,150%RR)。呼吸数の調整はソフトウェアメトロノームを利用して呼気のみ音声による指示に呼吸を合わせる方法で行った。呼吸数調整の順序はランダムとした。統計処理は反復測定による一元配置分散分析を行い,その後の検定として多重比較検定を行った。有意水準はP<0.05とした。
【説明と同意】本研究は本学研究倫理審査を経て実施した。またすべての対象者に研究の主旨を説明し,書面によるインフォームド・コンセントを得た。
【結果】呼吸数は至適呼吸条件では18.5±4.3回で,呼吸調整により9.9±2.3回,14.1±3.2回,23.3±5.5回,27.8±5.6回(それぞれ50%RR,75%RR,125%RR,150%RR)となり,それに伴い一回換気量も変化した(F=6.22,P<0.01)。VASは呼吸数調整の影響を受け(F=3.49,P<0.05),至適呼吸数よりも呼吸数が多くても少なくても有意に高かった。呼吸数の増大に伴いP0.1も変化し(F=24.49,P<0.001),100%RRに比べ呼吸数が多いとP0.1が大きくなるものの(125%RR,150%RR;P<0.01,P<0.001),至適呼吸数より呼吸数を減じてもP0.1には有意な差を認めなかった。
【考察】呼吸困難感は低酸素血症や高炭酸ガス血症以外に,呼吸中枢出力の増大や呼吸中枢出力増大に対する換気量の増加のミスマッチなどもその原因となる。これらを考慮すると,呼吸中枢出力の指標であるP0.1の増減は呼吸困難感の変化と関連があると考えることができるので本研究に応用した。呼吸調整による呼吸数の減少と1回換気量の増大は呼吸困難感の減少をもたらすが,これは死腔換気率の低下によるガス交換効率の改善以外にも呼吸中枢出力の減少も関係すると考えていた。それを裏付けるように呼吸数が至適呼吸数よりも高い条件では,P0.1は増加していき,呼吸困難感も増加していった。しかしながら呼吸数を至適呼吸数よりも少なく調整してもP0.1は減少せず,呼吸困難感はむしろ増大した。これは我々が行った安静条件での結果と一致するものであり,このことからもともとの至適呼吸数よりも過度に少なく呼吸数を減じるように調整しても,呼吸困難感減少には寄与しないことが推察された。今回のプロトコルでは呼吸数の増減と分時換気量や肺胞換気量の増減が一致しているため,呼吸数が少ない場合は低換気,呼吸数が多い場合は過換気になっているとも解釈できる。したがって呼吸困難感もこれに影響を受けていることは否定できない。今後はさらに研究方法の統制が必要だと考えられる。
【理学療法学研究としての意義】呼吸困難感を減少させる目的で呼吸数を減ずるように呼吸パターンを調整することは,呼吸中枢出力の減少の観点からも利点があると考えられる。しかしながら至適呼吸数を超えて呼吸数を減じても呼吸中枢出力の指標は減少しないし,呼吸困難感はむしろ増加することから,呼吸パターンの是正を行う際にはそれらを考慮すべきである。