[0209] COPD患者の上肢支持姿勢が呼気流量制限と肺気量位に与える影響
キーワード:COPD, 上肢支持, EFL
【はじめに,目的】慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者の呼吸困難感は,呼気流量制限(EFL)やその結果生じる動的肺過膨張といった異常な肺気量位変化が要因の一つといわれている。一方で,COPD患者の呼吸困難感に対して上肢支持姿勢は有効であり,呼吸リハビリテーションマニュアルにもパニックコントロールの一つとして推奨されている。そのため,上肢支持姿勢での呼吸困難感改善は,EFLや肺気量位に影響を受けている可能性が考えられるが,これまで健常人での報告が多く,COPD患者における変化は検討されていない。本研究の目的は,COPD患者の上肢支持姿勢におけるEFLや肺気量位変化を検討することである。
【方法】対象は,当院の入院または外来リハビリテーションを施行している症状安定期にあるCOPD患者14名(男性10名,女性4名,年齢:80.6±6.6歳,身長:158.3±8.3cm,体重:54.3±11.1kg,%肺活量:68.8±14.2%,%一秒量:50.5±18.6%)と呼吸機能に問題のないコントロール群14名(男性:6名,女性:8名,年齢:76.4±6.6歳,身長:154.3±8.9cm,体重:51.9±9.6kg,%肺活量:91.5±10.8%,%一秒量:91.2±12.2%)とした。測定肢位は,直立位と体幹前傾位,上肢支持位の3姿勢とした。上肢支持位は,立位で体幹を前傾させ,前方に設置した台に両肘を支持した姿勢とし,対象者の最も安楽な状態となるように体幹前傾角度及び台の高さを調節した。体幹前傾位は,上肢支持位から上肢支持をなくした姿勢とし,体幹前傾角度が変わらないように保持させた。測定順序は,直立位で最大吸気・呼気を行わせた後,同肢位で安静呼吸を30秒間測定し,その後,体幹前傾位,上肢支持位の安静呼吸をランダムに30秒間測定した。肺気量位や流量の測定は呼気ガス分析器(ミナト医科学社製,AE-300S)を用いて測定した。肺気量,流量の波形からduty cycle(吸気時間/全呼吸時間),呼吸数,一回換気量,分時換気量を算出した。また,得られた肺気量位,流量の変化から各姿勢時の安静呼吸中のflow-volume loop(restFVL)をそれぞれ作成し,最大吸気・呼気時のflow-volume loop(MFVL)の中に描くことでEFL及び肺気量位の変化を観察した。EFLの程度は,呼気時にrestFVLがMFVLに接している,平行に推移している,または超えている肺気量を一回換気量で除した値を用いた。終末吸気肺気量位(EILV),終末呼気肺気量位(EELV)については,各対象者の肺活量を100%として正規化した。また,各姿勢時の呼吸困難感を修正ボルグスケール(BS)にて聴取し,パルスオキシメータを用いてSpO2や脈拍を測定した。統計学的検定として,両群の年齢や性別,身体組成,呼吸機能の比較は,χ2検定及びMann-WhitneyのU検定を行った。また,各群の呼吸パラメータや肺気量位,EFL,BS,SpO2,脈拍の比較は,反復測定による分散分析を行い,有意差がみられたときはTukeyの方法にて多重比較を行った。有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】対象者に対して本研究の目的,方法を説明し,書面にて研究参加への同意を得た。また,本研究は兵庫医科大学倫理審査委員会の承認を得て実施した。
【結果】両群で年齢や性別,身体組成に有意差はみられなかった。また,duty cycle,呼吸数,一回換気量,分時換気量も姿勢による有意な変化はみられなかった。肺気量位は,COPD群では直立位や体幹前傾位と比べて上肢支持位で有意(P<0.05)に増加した(EILV:67.2±10.0%,72.3±10.0%,78.7±11.2%,EELV:30.6±13.0%,34.3±12.2%,42.8±11.5%)。コントロール群においても直立位や体幹前傾位と比べて上肢支持位で有意(P<0.05)に増加した(EILV:56.9±10.9%,59.8±9.0%,66.1±11.5%,EELV:35.3±7.9%,38.4±12.0%,42.1±11.8%)。一方で,COPD群においてはEFL(59.0±36.1%,55.4±35.2%,24.9±32.7%)やBS(2.8±0.9,3.1±1.1,2.0±0.7)も上肢支持位で有意(P<0.05)に低下した。SpO2,脈拍は,両群とも姿勢による有意な変化はみられなかった。
【考察】両群とも直立位や体幹前傾位と比べて上肢支持位で肺気量位は有意に増加したが,COPD患者においてはEFLや自覚症状も有意に低下していた。EFLは呼気筋活動を増加させ,気道の動的圧迫から動的肺過膨張などの異常な肺気量位変化や換気制限を引き起こし,呼吸困難感の原因になるといわれている。これらの結果から,上肢支持による呼吸困難感軽減の一要因として安静時より高い肺気量位での呼吸によるEFLの減少が影響している可能性が考えられた。
【理学療法学研究としての意義】COPD患者の上肢支持姿勢において呼吸困難感が軽減するメカニズムの一つが明らかになり,根拠をもって呼吸困難感軽減のための動作指導の実施が可能になると考えられた。
【方法】対象は,当院の入院または外来リハビリテーションを施行している症状安定期にあるCOPD患者14名(男性10名,女性4名,年齢:80.6±6.6歳,身長:158.3±8.3cm,体重:54.3±11.1kg,%肺活量:68.8±14.2%,%一秒量:50.5±18.6%)と呼吸機能に問題のないコントロール群14名(男性:6名,女性:8名,年齢:76.4±6.6歳,身長:154.3±8.9cm,体重:51.9±9.6kg,%肺活量:91.5±10.8%,%一秒量:91.2±12.2%)とした。測定肢位は,直立位と体幹前傾位,上肢支持位の3姿勢とした。上肢支持位は,立位で体幹を前傾させ,前方に設置した台に両肘を支持した姿勢とし,対象者の最も安楽な状態となるように体幹前傾角度及び台の高さを調節した。体幹前傾位は,上肢支持位から上肢支持をなくした姿勢とし,体幹前傾角度が変わらないように保持させた。測定順序は,直立位で最大吸気・呼気を行わせた後,同肢位で安静呼吸を30秒間測定し,その後,体幹前傾位,上肢支持位の安静呼吸をランダムに30秒間測定した。肺気量位や流量の測定は呼気ガス分析器(ミナト医科学社製,AE-300S)を用いて測定した。肺気量,流量の波形からduty cycle(吸気時間/全呼吸時間),呼吸数,一回換気量,分時換気量を算出した。また,得られた肺気量位,流量の変化から各姿勢時の安静呼吸中のflow-volume loop(restFVL)をそれぞれ作成し,最大吸気・呼気時のflow-volume loop(MFVL)の中に描くことでEFL及び肺気量位の変化を観察した。EFLの程度は,呼気時にrestFVLがMFVLに接している,平行に推移している,または超えている肺気量を一回換気量で除した値を用いた。終末吸気肺気量位(EILV),終末呼気肺気量位(EELV)については,各対象者の肺活量を100%として正規化した。また,各姿勢時の呼吸困難感を修正ボルグスケール(BS)にて聴取し,パルスオキシメータを用いてSpO2や脈拍を測定した。統計学的検定として,両群の年齢や性別,身体組成,呼吸機能の比較は,χ2検定及びMann-WhitneyのU検定を行った。また,各群の呼吸パラメータや肺気量位,EFL,BS,SpO2,脈拍の比較は,反復測定による分散分析を行い,有意差がみられたときはTukeyの方法にて多重比較を行った。有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】対象者に対して本研究の目的,方法を説明し,書面にて研究参加への同意を得た。また,本研究は兵庫医科大学倫理審査委員会の承認を得て実施した。
【結果】両群で年齢や性別,身体組成に有意差はみられなかった。また,duty cycle,呼吸数,一回換気量,分時換気量も姿勢による有意な変化はみられなかった。肺気量位は,COPD群では直立位や体幹前傾位と比べて上肢支持位で有意(P<0.05)に増加した(EILV:67.2±10.0%,72.3±10.0%,78.7±11.2%,EELV:30.6±13.0%,34.3±12.2%,42.8±11.5%)。コントロール群においても直立位や体幹前傾位と比べて上肢支持位で有意(P<0.05)に増加した(EILV:56.9±10.9%,59.8±9.0%,66.1±11.5%,EELV:35.3±7.9%,38.4±12.0%,42.1±11.8%)。一方で,COPD群においてはEFL(59.0±36.1%,55.4±35.2%,24.9±32.7%)やBS(2.8±0.9,3.1±1.1,2.0±0.7)も上肢支持位で有意(P<0.05)に低下した。SpO2,脈拍は,両群とも姿勢による有意な変化はみられなかった。
【考察】両群とも直立位や体幹前傾位と比べて上肢支持位で肺気量位は有意に増加したが,COPD患者においてはEFLや自覚症状も有意に低下していた。EFLは呼気筋活動を増加させ,気道の動的圧迫から動的肺過膨張などの異常な肺気量位変化や換気制限を引き起こし,呼吸困難感の原因になるといわれている。これらの結果から,上肢支持による呼吸困難感軽減の一要因として安静時より高い肺気量位での呼吸によるEFLの減少が影響している可能性が考えられた。
【理学療法学研究としての意義】COPD患者の上肢支持姿勢において呼吸困難感が軽減するメカニズムの一つが明らかになり,根拠をもって呼吸困難感軽減のための動作指導の実施が可能になると考えられた。