第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 口述 » 生活環境支援理学療法 口述

健康増進・予防3

Fri. May 30, 2014 1:30 PM - 2:20 PM 第6会場 (3F 304)

座長:山田実(筑波大学大学院人間総合科学研究科)

生活環境支援 口述

[0211] 地域在住高齢者の歩行開始時および定常歩行時における歩行特性と筋機能・バランス機能との関連

小林拓也1, 池添冬芽1, 木村みさか2, 佐久間香1, 小山優美子1, 正木光裕1, 市橋則明1 (1.京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻, 2.京都学園大学バイオ環境学部バイオサイエンス学科)

Keywords:高齢者, 歩行開始, 歩行特性

【はじめに,目的】
近年,高齢者の歩行開始動作に着目した研究が散見され,二重課題下での歩行開始時の反応時間は非転倒経験者と比べ転倒経験者で有意に遅かったことや転倒経験者の歩行開始時の歩行周期変動係数が非転倒経験者に比べ有意に大きかったことなどが報告されている。このように歩行開始時の歩行特性は高齢者の転倒と密接な関連がみられるとされているが,この歩行開始時の歩行特性がどのようなバランス機能や筋機能と関連しているのか詳細に検討した研究は見当たらない。そこで,本研究の目的は歩行開始時および定常歩行時の歩行特性と筋機能・バランス機能との関連を明らかにすることとした。
【方法】
対象は地域在住の健常高齢者105名(男性30名,女性75名,年齢75.2±5.7歳,身長155.5±9.2cm,体重53.5±8.7kg)とした。なお,測定に大きな支障を及ぼすほど重度の神経学的・整形外科的障害や認知障害を有する者は対象から除外した。
筋機能の評価について,下肢筋力としてセッティング筋力および最大等尺性膝伸展筋力を測定した。セッティング筋力は長座位で骨盤と外果部を固定し,下肢筋力測定器(アルケア製ロコモスキャン)を膝下に入れて測定した。下肢筋パワーとして垂直跳び,下肢筋持久力として30秒立ち座り回数(CST)を測定した。バランス機能として,開眼片脚立位保持時間,Functional Reach(FR),Lateral Reach(LR)を測定した。歩行課題は最大歩行とした。歩行路のスタート地点から2m,8m,12m地点に光電管を設置し,各地点の通過時間を計測した。スタート地点から2mまでを歩行開始時,8m~12m間を定常歩行時と規定し,各区間の歩行速度をそれぞれ算出した。また,多機能三軸加速度計(ベルテックジャパン製G-WALK)を腰部に装着し,ステップごとの踵接地時間を測定し,6ステップ分の踵接地時間の平均値および標準偏差値から変動係数(Coefficient of variation;CV)を算出した(CV=標準偏差/平均×100)。なお,1~6歩目の踵接地時間のCVを歩行開始CV,9~14歩目の踵接地時間のCVを定常歩行CVと定義した。
統計解析は,目的変数を歩行特性(歩行開始速度,定常歩行速度,歩行開始CV,定常歩行CV),説明変数を筋機能(股関節伸展筋力,膝関節伸展筋力,垂直跳び,CST)およびバランス機能(片脚立位,FR,LR)とした重回帰分析(ステップワイズ法)を行った。有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
すべての対象者に研究に関する十分な説明を行い,書面にて同意を得た。なお,本研究は本学倫理委員会の承認を得て実施している(承認番号E-1141)。
【結果】
歩行開始速度は1.0±0.12 m/sec,定常歩行速度は2.1±0.33 m/sec,歩行開始CVは8.5±3.5%,定常歩行CVは5.1±3.2%であった。歩行開始速度を目的変数とした重回帰分析の結果,開眼片脚立位(標準偏回帰係数0.26)のみ有意な因子として抽出された。定常歩行速度を目的変数とした重回帰分析では股関節伸展筋力(標準偏回帰係数0.27)およびCST(標準偏回帰係数0.39)が抽出された。歩行開始CVを目的変数とした重回帰分析ではいずれの項目も抽出されなかった。また定常歩行CVを目的変数とした重回帰分析では股関節伸展筋力(標準偏回帰係数0.30)のみ抽出された。
【考察】
歩行開始時の歩行速度を目的変数とした重回帰分析の結果,筋機能およびバランス機能の中でも片脚立位保持のみ関連因子として抽出され,歩行開始時の速度には筋機能よりもバランス機能が関連していることが示唆された。歩行開始時は歩行周期の中でもより不安定な状態であるため,特に片脚支持能力が関連因子として抽出されたと考えられた。また,定常歩行時の歩行速度およびCVを目的変数とした重回帰分析の結果,筋持久力および股関節伸展筋力が抽出されたことから,定常歩行時にはバランス機能よりも筋機能が関連していることが示唆された。また,歩行速度およびCVいずれも股関節伸展筋力が関連因子として抽出されたことから,筋力水準の高い健常な地域在住高齢者においては,膝関節伸展筋力よりも股関節伸展筋力のほうが定常歩行時の歩行特性に影響を及ぼしていることが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
本研究の結果,歩行開始時の歩行特性にはバランス機能,定常歩行時の歩行特性には股関節伸展筋力や筋持久力が関連していることが明らかとなった。本研究より高齢者の歩行能力改善を目指した理学療法を行うにあたり,歩行開始時および定常歩行時に分けて評価・介入する必要性が示唆された。