[0215] スマートフォン操作による二重課題が動的バランス機能に与える影響について
Keywords:二重課題, 動的バランス, 転倒
【目的】高齢者の転倒は,高齢社会の抱える重大な問題であり,近年では二重課題への対応能力の低下が転倒発生と関連するという報告がある。若年者では,携帯電話やスマートフォンの普及に伴い,電車に乗っている間に携帯電話やスマートフォンを操作することで,立位安定性の低下が起こることが予想出来る。本研究の目的は,立位時にスマートフォンの両手使用による認知課題を与え,動的バランス機能に影響があるかを明らかにすることである。
【方法】対象は,研究に同意の得られた整形外科的既往のない女子学生20名とした。測定はNeuroCom製のEquiTestを使用し,Adaptation Testの足関節回転刺激(toes up刺激,toes down刺激)を加えた。手順は,まず問診で除外基準の確認をし,その後被験者の情報を聴取し機器に入力した。次にEquiTestの説明と,二重課題遂行群(dual task群:DT群)にはアプリケーションソフトウェア(アプリ:IQテスト)に関する説明をし,同意を得た上でスマートフォンにアプリをダウンロードしてもらい,準備をした。そしてEquiTestに乗ってもらい,転倒予防のハーネスを装着し測定を実施した。測定に際して,DT群は開始後2分間の時間をとりスマートフォンのアプリ操作をさせた後,開始2分後から6分後まで,1分ごとに計5回起立板を動かした。toes up刺激後休憩を入れ,その後再びアプリ操作を2分間させ,toes down刺激でも同様に測定した。通常の測定をする群(single task群:ST群)は,何も持たずに静止立位をとってもらい,DT群と同様に測定した。測定項目はSES(身体動揺を抑える努力量)とした。なお,分析は,群内では各測定後のSESの比較を反復測定の一元配置分散分析を用いて行った。群間の比較には,正規分布に従えば対応のないt検定,正規分布に従わない場合にはMann-Whitney検定を用いて,toes up刺激,toes down刺激それぞれについてSESを比較した。有意水準はすべて5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】本研究への協力は任意であり,研究実施前や実施中などいつの時点でも協力の拒否,撤回を認めた。また,対象者に対して本研究の目的,方法を書面および口頭にて説明し,同意が得られたことの確認として同意書を得た。なお,所属の倫理委員会にて承認を得た上で実施した(第24811号)。
【結果】群内の比較では,ST群ではtoes up刺激で開始2分後よりも4分後と5分後のSESが有意に減少していた(それぞれp<.05)。toes down刺激では,2分後よりも4分後のSESが有意に減少していた(p<.05)。DT群では,それぞれの測定値で有意に減少している項目はなかった。また,DT群ではtoes up刺激で6分後,toes down刺激で5分後にSESの増加が認められた。群間の比較では,2種類の刺激どちらもST群とDT群の測定値に有意差は認められなかった。
【考察】SESは,ST群では時間経過に伴い有意に減少していた。DT群でも4分後までは時間経過に伴い減少しているが有意な減少ではなく,5分後,6分後には若干の増加が認められた。この傾向から,二重課題により外乱刺激に対する順応性が低下することが考えられた。これは,中枢神経系の処理過程においてIQテストの問題を解くという課題が加わったことで生じたと考える。また,DT群では6分後までの測定でSESの増加が生じており,toes up刺激では6分後,toes down刺激では5分後に認められた。これに関して,toes up刺激では2分後よりも6分後,toes down刺激では2分後よりも5分後の方がスマートフォン操作に集中しており,外乱刺激に対する身体反応に遅延が生じたことが考えられる。よって,スマートフォン操作に集中すると動的バランス機能が低下し,より危険性が高くなるといえる。今後は,Motor Control Testで反応潜時の測定を行い,二重課題のバランス機能への影響に関して,身体反応の遅延についても考察する必要があると考える。
【理学療法学研究としての意義】スマートフォン操作による二重課題が動的バランス機能,とくに外乱刺激に対する順応性に影響を及ぼすことが示唆された。この結果から,若年者に対して電車内のスマートフォン操作により立位安定性の低下や転倒が生じる可能性があるかもしれないと注意喚起できる。理学療法プログラムとして二重課題負荷による動的バランス練習を取り入れれば,若年者や高齢者の転倒予防につながる可能性がある。
【方法】対象は,研究に同意の得られた整形外科的既往のない女子学生20名とした。測定はNeuroCom製のEquiTestを使用し,Adaptation Testの足関節回転刺激(toes up刺激,toes down刺激)を加えた。手順は,まず問診で除外基準の確認をし,その後被験者の情報を聴取し機器に入力した。次にEquiTestの説明と,二重課題遂行群(dual task群:DT群)にはアプリケーションソフトウェア(アプリ:IQテスト)に関する説明をし,同意を得た上でスマートフォンにアプリをダウンロードしてもらい,準備をした。そしてEquiTestに乗ってもらい,転倒予防のハーネスを装着し測定を実施した。測定に際して,DT群は開始後2分間の時間をとりスマートフォンのアプリ操作をさせた後,開始2分後から6分後まで,1分ごとに計5回起立板を動かした。toes up刺激後休憩を入れ,その後再びアプリ操作を2分間させ,toes down刺激でも同様に測定した。通常の測定をする群(single task群:ST群)は,何も持たずに静止立位をとってもらい,DT群と同様に測定した。測定項目はSES(身体動揺を抑える努力量)とした。なお,分析は,群内では各測定後のSESの比較を反復測定の一元配置分散分析を用いて行った。群間の比較には,正規分布に従えば対応のないt検定,正規分布に従わない場合にはMann-Whitney検定を用いて,toes up刺激,toes down刺激それぞれについてSESを比較した。有意水準はすべて5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】本研究への協力は任意であり,研究実施前や実施中などいつの時点でも協力の拒否,撤回を認めた。また,対象者に対して本研究の目的,方法を書面および口頭にて説明し,同意が得られたことの確認として同意書を得た。なお,所属の倫理委員会にて承認を得た上で実施した(第24811号)。
【結果】群内の比較では,ST群ではtoes up刺激で開始2分後よりも4分後と5分後のSESが有意に減少していた(それぞれp<.05)。toes down刺激では,2分後よりも4分後のSESが有意に減少していた(p<.05)。DT群では,それぞれの測定値で有意に減少している項目はなかった。また,DT群ではtoes up刺激で6分後,toes down刺激で5分後にSESの増加が認められた。群間の比較では,2種類の刺激どちらもST群とDT群の測定値に有意差は認められなかった。
【考察】SESは,ST群では時間経過に伴い有意に減少していた。DT群でも4分後までは時間経過に伴い減少しているが有意な減少ではなく,5分後,6分後には若干の増加が認められた。この傾向から,二重課題により外乱刺激に対する順応性が低下することが考えられた。これは,中枢神経系の処理過程においてIQテストの問題を解くという課題が加わったことで生じたと考える。また,DT群では6分後までの測定でSESの増加が生じており,toes up刺激では6分後,toes down刺激では5分後に認められた。これに関して,toes up刺激では2分後よりも6分後,toes down刺激では2分後よりも5分後の方がスマートフォン操作に集中しており,外乱刺激に対する身体反応に遅延が生じたことが考えられる。よって,スマートフォン操作に集中すると動的バランス機能が低下し,より危険性が高くなるといえる。今後は,Motor Control Testで反応潜時の測定を行い,二重課題のバランス機能への影響に関して,身体反応の遅延についても考察する必要があると考える。
【理学療法学研究としての意義】スマートフォン操作による二重課題が動的バランス機能,とくに外乱刺激に対する順応性に影響を及ぼすことが示唆された。この結果から,若年者に対して電車内のスマートフォン操作により立位安定性の低下や転倒が生じる可能性があるかもしれないと注意喚起できる。理学療法プログラムとして二重課題負荷による動的バランス練習を取り入れれば,若年者や高齢者の転倒予防につながる可能性がある。