[0224] 自宅退院を目指す大腿骨頚部/転子部骨折術後患者における退院先の予測因子について
Keywords:大腿骨頚部/転子部骨折, 退院先, 予測
【はじめに,目的】
近年,急性期病院においては入院期間の短縮が求められている。そのため,大腿骨頚部/転子部骨折においても,入院の長期化などを回避するため,早期リハビリテーションを含む急性期治療後の退院先の予測を,可及的早期より行う必要がある。
諸家による先行研究では,大腿骨頚部/転子部骨折術後患者の退院先に関連する因子として,認知症の有無や年齢等の基本属性,介護力等の社会的背景,受傷前または退院時の歩行状態などが報告されている。一方,運動機能の詳細について報告されているものは少なく,その中でも術後早期の評価により退院先の予測の可否を検討したものは見当たらない。
そのような背景の中,我々は2012年関東甲信越ブロック理学療法士学会において,社会的背景や受傷前歩行能力などの因子を統一した上で,大腿骨頚部/転子部骨折術後患者において,自宅へ退院した群と回復期病院へ転院した群の術後1週目の運動機能を比較したところ,前者の運動機能が有意に高いことを報告した。そこで本研究では,さらに運動機能から退院先に関連する因子を抽出し,術後早期の評価において退院先を予測できるか検討することを目的とした。
【方法】
対象は2010年3月から2013年7月の期間に,大腿骨頚部/転子部骨折でT病院に入院し手術を施行された連続400症例中,取り込み基準を満たした70名(男性21名,女性49名,平均年齢74.89±10.97歳)である。取り込み基準は,(1)自宅退院が目標,(2)長谷川式認知症スケール20点以上,(3)合併症がなくプロトコール通りにリハビリテーションが進んだもの,(4)入院前は自宅で生活し屋内歩行自立可能,(5)自宅に介助者がいるものとした。
運動機能は術後1週目に,握力,等尺性膝伸展筋力体重比(以下下肢筋力),片脚立位時間を評価した。また診療録より,性別,年齢,身長,体重,BMIを調査した。
統計学的検討は,対象を自宅退院した群(自宅群:n=35)と回復期病院へ転院した群(回復期群:n=35)の2群に分類し,χ2検定,t検定,Mann-WhitneyのU検定にて各項目の2群間での比較を行った。次に単回帰分析を行い,p<0.2であった因子にてロジスティック回帰分析を行った。また退院先と関連が認められた運動機能因子について,受信者動作特性曲線(ROC曲線)を作成した。統計解析にはSPSSver12を用い,有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は,T病院倫理委員会(承認番号91号)の承認を得て実施した。
【結果】
2群間を比較した結果について,平均値±標準偏差もしくは中央値(四分位範囲)を以下に示す。自宅群は回復期群に対して,年齢(歳)が若く(68.91±10.34vs80.86±7.99,p<0.001),身長(cm)が高く(156.00(12.00)vs150.00(16.00),p=0.023),BMI(kg/m2)は低値を示した(18.83(2.85)vs21.41(3.06),p=0.001)。運動機能は,自宅群は回復期群に対して握力(kg)(18.00(9.05)vs14.50(9.00),p=0.013),下肢筋力(%)(健側43.57±12.52vs28.09±7.85,p<0.001,患側22.89±8.52vs15.29±5.67,p<0.001),片脚立位時間(sec)(健側15.29(25.80)vs0.69(5.00),p<0.001,患側0.00(1.10)vs0.00(0.00),p=0.006)でいずれも高値を示した。その他の項目は有意差が認められなかった。
単回帰分析にてp>0.2であった患側片脚立位時間を除いて行ったロジスティック回帰分析の結果,年齢(オッズ比:0.60,95%信頼区間:0.39-0.91,単位変化量:5歳),BMI(オッズ比:0.75,95%信頼区間:0.59-0.97,単位変化量:1kg/m2),健側下肢筋力(オッズ比:1.67,95%信頼区間:1.13-2.48,単位変化量:5.0%)が抽出された。さらに健側下肢筋力のROC曲線を作成した結果,カットオフ値は41.5%,曲線下面積0.85,感度0.60,特異度0.97であった。
【考察】
本研究は,大腿骨頚部/転子部骨折術後患者の社会的背景や受傷前歩行能力を統一し,退院先に関連する運動機能の因子を検討した。その結果,健側下肢筋力が抽出され,カットオフ値は41.5%と算出された。この理由としては,まず,先行研究で退院先の因子として報告されている,受傷前または退院時歩行能力に,下肢筋力が関係しているためと考えられた。また,本研究における評価測定時期は荷重開始時で,患側の筋力が十分に発揮し難い時期であったため,下肢筋力でも健側のみが関連したものと考えられた。
一方,受傷前の歩行能力は統一したものの,受傷前の筋力水準や,ロジスティック回帰分析でも抽出された年齢が筋力と関連することが考えられる。しかし,本研究にて得られた健側下肢筋力のカットオフ値は,術後早期において,退院先予測の一つの目安になることが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
大腿骨頚部/転子部骨折術後患者の属性や運動機能から,術後早期に自宅もしくは回復期病院への退院先の予測が可能であることが示唆された。このことは,理学療法士による早期からの積極的な介入の根拠になると考えられた。
近年,急性期病院においては入院期間の短縮が求められている。そのため,大腿骨頚部/転子部骨折においても,入院の長期化などを回避するため,早期リハビリテーションを含む急性期治療後の退院先の予測を,可及的早期より行う必要がある。
諸家による先行研究では,大腿骨頚部/転子部骨折術後患者の退院先に関連する因子として,認知症の有無や年齢等の基本属性,介護力等の社会的背景,受傷前または退院時の歩行状態などが報告されている。一方,運動機能の詳細について報告されているものは少なく,その中でも術後早期の評価により退院先の予測の可否を検討したものは見当たらない。
そのような背景の中,我々は2012年関東甲信越ブロック理学療法士学会において,社会的背景や受傷前歩行能力などの因子を統一した上で,大腿骨頚部/転子部骨折術後患者において,自宅へ退院した群と回復期病院へ転院した群の術後1週目の運動機能を比較したところ,前者の運動機能が有意に高いことを報告した。そこで本研究では,さらに運動機能から退院先に関連する因子を抽出し,術後早期の評価において退院先を予測できるか検討することを目的とした。
【方法】
対象は2010年3月から2013年7月の期間に,大腿骨頚部/転子部骨折でT病院に入院し手術を施行された連続400症例中,取り込み基準を満たした70名(男性21名,女性49名,平均年齢74.89±10.97歳)である。取り込み基準は,(1)自宅退院が目標,(2)長谷川式認知症スケール20点以上,(3)合併症がなくプロトコール通りにリハビリテーションが進んだもの,(4)入院前は自宅で生活し屋内歩行自立可能,(5)自宅に介助者がいるものとした。
運動機能は術後1週目に,握力,等尺性膝伸展筋力体重比(以下下肢筋力),片脚立位時間を評価した。また診療録より,性別,年齢,身長,体重,BMIを調査した。
統計学的検討は,対象を自宅退院した群(自宅群:n=35)と回復期病院へ転院した群(回復期群:n=35)の2群に分類し,χ2検定,t検定,Mann-WhitneyのU検定にて各項目の2群間での比較を行った。次に単回帰分析を行い,p<0.2であった因子にてロジスティック回帰分析を行った。また退院先と関連が認められた運動機能因子について,受信者動作特性曲線(ROC曲線)を作成した。統計解析にはSPSSver12を用い,有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は,T病院倫理委員会(承認番号91号)の承認を得て実施した。
【結果】
2群間を比較した結果について,平均値±標準偏差もしくは中央値(四分位範囲)を以下に示す。自宅群は回復期群に対して,年齢(歳)が若く(68.91±10.34vs80.86±7.99,p<0.001),身長(cm)が高く(156.00(12.00)vs150.00(16.00),p=0.023),BMI(kg/m2)は低値を示した(18.83(2.85)vs21.41(3.06),p=0.001)。運動機能は,自宅群は回復期群に対して握力(kg)(18.00(9.05)vs14.50(9.00),p=0.013),下肢筋力(%)(健側43.57±12.52vs28.09±7.85,p<0.001,患側22.89±8.52vs15.29±5.67,p<0.001),片脚立位時間(sec)(健側15.29(25.80)vs0.69(5.00),p<0.001,患側0.00(1.10)vs0.00(0.00),p=0.006)でいずれも高値を示した。その他の項目は有意差が認められなかった。
単回帰分析にてp>0.2であった患側片脚立位時間を除いて行ったロジスティック回帰分析の結果,年齢(オッズ比:0.60,95%信頼区間:0.39-0.91,単位変化量:5歳),BMI(オッズ比:0.75,95%信頼区間:0.59-0.97,単位変化量:1kg/m2),健側下肢筋力(オッズ比:1.67,95%信頼区間:1.13-2.48,単位変化量:5.0%)が抽出された。さらに健側下肢筋力のROC曲線を作成した結果,カットオフ値は41.5%,曲線下面積0.85,感度0.60,特異度0.97であった。
【考察】
本研究は,大腿骨頚部/転子部骨折術後患者の社会的背景や受傷前歩行能力を統一し,退院先に関連する運動機能の因子を検討した。その結果,健側下肢筋力が抽出され,カットオフ値は41.5%と算出された。この理由としては,まず,先行研究で退院先の因子として報告されている,受傷前または退院時歩行能力に,下肢筋力が関係しているためと考えられた。また,本研究における評価測定時期は荷重開始時で,患側の筋力が十分に発揮し難い時期であったため,下肢筋力でも健側のみが関連したものと考えられた。
一方,受傷前の歩行能力は統一したものの,受傷前の筋力水準や,ロジスティック回帰分析でも抽出された年齢が筋力と関連することが考えられる。しかし,本研究にて得られた健側下肢筋力のカットオフ値は,術後早期において,退院先予測の一つの目安になることが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
大腿骨頚部/転子部骨折術後患者の属性や運動機能から,術後早期に自宅もしくは回復期病院への退院先の予測が可能であることが示唆された。このことは,理学療法士による早期からの積極的な介入の根拠になると考えられた。