[0231] 急性期脳画像所見と回復期病院での下肢装具作成内容との関係
キーワード:中大脳動脈領域脳梗塞患者, 梗塞域, 下肢装具
【はじめに】
脳卒中治療ガイドライン2009において,発症後早期から下肢装具を用いて積極的なリハビリテーションを行うことが強く勧められている。また,市村ら(2002)は早期に装具を作成することが日常生活動作能力の改善に有効であると報告している。しかし,装具作成には医療コストが掛かり,機能改善の予測も踏まえる必要があるため判断が難しく早期に装具の作成が的確に行えていない場合がある。脳血管障害の中でも脳梗塞は比較的病変部分が特定しやすく,臨床において脳梗塞症例に対する下肢装具の適応は病態の重症度,つまり病変の位置や大きさが影響するという印象がある。そこで,本研究では,中大脳動脈領域の脳梗塞患者を対象に,急性期磁気共鳴画像(MRI)を用いた梗塞域の定量的評価と回復期病院で作成した下肢装具内容との関連を調査し,脳画像所見が早期の装具作成判断の一助となるかを検討することを目的とした。
【方法】
対象は2008年1月~2013年10月に当院を入退院した中大脳動脈領域の脳梗塞患者60例(男性36例,女性24例,平均年齢70.9±10.8歳,発症~当院退院までの平均期間106.5±36.8日)であった。既往に脳損傷がなく積極的な立位・歩行練習が行え,梗塞域が側脳室体部・基底核レベルの両スライスに認めた者を採用した。これらの症例を,長下肢装具作成群(KAFO群)8例,短下肢装具作成群(AFO群)20例,非装具作成群(なし群)32例の3群に分けた。梗塞域の測定は,発症数日後のMRI撮影法(FLAIR)による側脳室体部・基底核レベルの画像を用い,大脳縦裂と垂直に交わる直線L1を引き,L1上の脳室外側を始点とした脳実質最大横径距離(A),梗塞域内側端までの距離(B),外側端までの距離(C)を測定し,内側比をB/A×100,横径比を(C-B)/A×100にて算出した。なお,側脳室体部レベルは側脳室中央やや後方,基底核レベルは第三脳室中央0~20mm前方の外側の範囲にて計測を行った。MRIは医師の処方の下,放射線技師が撮影した。統計学的解析は,脳画像所見4項目をそれぞれ3群間で比較検討するため,一元配置分散分析を行い,有意な主効果がみられた場合Tukeyによる多重比較を行った。有意水準は5%とした。
【説明と同意】
本人もしくは家族に本研究の概要と倫理的配慮について口頭及び書面にて説明し,署名にて同意を得た。なお,本研究は当院倫理委員会の承認を得て実施した。
【結果】
側脳室体部レベルの内側比では,KAFO群(1.8±3.3%),AFO群(7.4±8.4%),なし群(23.0±14.4%)それぞれの間で有意差を認めた。側脳室体部レベルの横径比については,KAFO群(71.0±31.2%)はAFO群(40.2±27.4%),なし群(29.3±19.6%)より有意に高値を示した。基底核レベルの内側比については,なし群(38.1±11.6%)はKAFO群(27.5±8.1%),AFO群(30.7±7.2%)より有意に高値を示した。基底核レベルの横径比については,KAFO群(57.6±28.6%)はAFO群(32.4±18.9%),なし群(26.8±18.2%)より有意に高値を示した。
【考察】
北井ら(1991)の皮質脊髄路は側脳室体部側方に近接する白質部を走行するとの報告に従うと,側脳室体部レベル内側比が低値であるということは梗塞域が内側まで拡がっていることを意味し,皮質脊髄路の損傷度と装具作成内容が関連していることが示された。しかし,基底核レベル内側比ではAFO群-なし群では有意差を認めたが,KAFO群-AFO群では有意差を認めなかった。宮村ら(1958)は内包後脚の栄養支配は中大脳動脈分岐前の内頸動脈から分岐する前脈絡叢動脈が主であると報告しており,基底核レベルでの内側への拡がりの程度は皮質脊髄路の損傷度を十分に反映しておらず,装具作成内容と関連を認めなかったと推察された。また,横径比に関しては,両スライス共にKAFO群-AFO群で有意差を認めたが,AFO群-なし群では有意差を認めなかった。これは,広範囲の梗塞では麻痺が重篤になりやすく,さらに姿勢制御系の損傷も著しくなるために長下肢装具が必要となるが,梗塞範囲が軽~中等度では麻痺の程度にも差が生じ,またセラピスト間で装具を作成するか否かの判断に差が生じるために関連を認めなかったと考えた。以上のことから,多角的に判断していくことは重要であるが,脳画像所見を用いて装具作成内容を検討することは一定範囲で可能であると示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
本研究の結果は,急性期脳画像所見と回復期病院での装具作成内容の関係を示し,早期に装具作成内容を判断する評価方法として臨床現場で簡易に用いることができる可能性を示した。
脳卒中治療ガイドライン2009において,発症後早期から下肢装具を用いて積極的なリハビリテーションを行うことが強く勧められている。また,市村ら(2002)は早期に装具を作成することが日常生活動作能力の改善に有効であると報告している。しかし,装具作成には医療コストが掛かり,機能改善の予測も踏まえる必要があるため判断が難しく早期に装具の作成が的確に行えていない場合がある。脳血管障害の中でも脳梗塞は比較的病変部分が特定しやすく,臨床において脳梗塞症例に対する下肢装具の適応は病態の重症度,つまり病変の位置や大きさが影響するという印象がある。そこで,本研究では,中大脳動脈領域の脳梗塞患者を対象に,急性期磁気共鳴画像(MRI)を用いた梗塞域の定量的評価と回復期病院で作成した下肢装具内容との関連を調査し,脳画像所見が早期の装具作成判断の一助となるかを検討することを目的とした。
【方法】
対象は2008年1月~2013年10月に当院を入退院した中大脳動脈領域の脳梗塞患者60例(男性36例,女性24例,平均年齢70.9±10.8歳,発症~当院退院までの平均期間106.5±36.8日)であった。既往に脳損傷がなく積極的な立位・歩行練習が行え,梗塞域が側脳室体部・基底核レベルの両スライスに認めた者を採用した。これらの症例を,長下肢装具作成群(KAFO群)8例,短下肢装具作成群(AFO群)20例,非装具作成群(なし群)32例の3群に分けた。梗塞域の測定は,発症数日後のMRI撮影法(FLAIR)による側脳室体部・基底核レベルの画像を用い,大脳縦裂と垂直に交わる直線L1を引き,L1上の脳室外側を始点とした脳実質最大横径距離(A),梗塞域内側端までの距離(B),外側端までの距離(C)を測定し,内側比をB/A×100,横径比を(C-B)/A×100にて算出した。なお,側脳室体部レベルは側脳室中央やや後方,基底核レベルは第三脳室中央0~20mm前方の外側の範囲にて計測を行った。MRIは医師の処方の下,放射線技師が撮影した。統計学的解析は,脳画像所見4項目をそれぞれ3群間で比較検討するため,一元配置分散分析を行い,有意な主効果がみられた場合Tukeyによる多重比較を行った。有意水準は5%とした。
【説明と同意】
本人もしくは家族に本研究の概要と倫理的配慮について口頭及び書面にて説明し,署名にて同意を得た。なお,本研究は当院倫理委員会の承認を得て実施した。
【結果】
側脳室体部レベルの内側比では,KAFO群(1.8±3.3%),AFO群(7.4±8.4%),なし群(23.0±14.4%)それぞれの間で有意差を認めた。側脳室体部レベルの横径比については,KAFO群(71.0±31.2%)はAFO群(40.2±27.4%),なし群(29.3±19.6%)より有意に高値を示した。基底核レベルの内側比については,なし群(38.1±11.6%)はKAFO群(27.5±8.1%),AFO群(30.7±7.2%)より有意に高値を示した。基底核レベルの横径比については,KAFO群(57.6±28.6%)はAFO群(32.4±18.9%),なし群(26.8±18.2%)より有意に高値を示した。
【考察】
北井ら(1991)の皮質脊髄路は側脳室体部側方に近接する白質部を走行するとの報告に従うと,側脳室体部レベル内側比が低値であるということは梗塞域が内側まで拡がっていることを意味し,皮質脊髄路の損傷度と装具作成内容が関連していることが示された。しかし,基底核レベル内側比ではAFO群-なし群では有意差を認めたが,KAFO群-AFO群では有意差を認めなかった。宮村ら(1958)は内包後脚の栄養支配は中大脳動脈分岐前の内頸動脈から分岐する前脈絡叢動脈が主であると報告しており,基底核レベルでの内側への拡がりの程度は皮質脊髄路の損傷度を十分に反映しておらず,装具作成内容と関連を認めなかったと推察された。また,横径比に関しては,両スライス共にKAFO群-AFO群で有意差を認めたが,AFO群-なし群では有意差を認めなかった。これは,広範囲の梗塞では麻痺が重篤になりやすく,さらに姿勢制御系の損傷も著しくなるために長下肢装具が必要となるが,梗塞範囲が軽~中等度では麻痺の程度にも差が生じ,またセラピスト間で装具を作成するか否かの判断に差が生じるために関連を認めなかったと考えた。以上のことから,多角的に判断していくことは重要であるが,脳画像所見を用いて装具作成内容を検討することは一定範囲で可能であると示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
本研究の結果は,急性期脳画像所見と回復期病院での装具作成内容の関係を示し,早期に装具作成内容を判断する評価方法として臨床現場で簡易に用いることができる可能性を示した。