第49回日本理学療法学術大会

Presentation information

発表演題 口述 » 神経理学療法 口述

脳損傷理学療法3

Fri. May 30, 2014 1:30 PM - 2:20 PM 第13会場 (5F 503)

座長:松田淳子(医療法人同仁会(社団)京都九条病院リハビリテーション部)

神経 口述

[0232] CT画像を用いた被殻出血の予後予測に関する検討

山口祐太郎, 乾哲也, 吉尾雅春 (千里リハビリテーション病院)

Keywords:被殻出血, CT画像, 予後予測

【はじめに】
被殻の周囲には内包後脚を通る皮質脊髄路をはじめ多数の連絡線維が縦横無尽に走行する。被殻出血後は運動麻痺のみならず高次脳機能障害や姿勢定位障害なども生じるため画像読影には出血の進展方向,解剖学的な神経線維走行を考慮して予後予測をしていく必要がある。今回,回復期リハビリテーション病院で一般的に画像読影されている頭部CT画像を用いて被殻出血による損傷部位とFunctional Independence Measure(以下;FIM)認知項目と移動能力の関係性について検討した。
【方法】
対象は被殻出血患者24名で男性17名,女性7名,年齢は平均61.1(35-75)歳。損傷側は左12名,右12名であった。発症後2か月の頭部CT画像を採用し脳梁体部,視床背側核,松果体が観察される3つのレベルの画像を用いた。出血部位を客観的に把握するために脳梁体部レベルは側脳室前後径を参考にして放線冠を前部,中部,後部に3等分し,側脳室外側後端部を基準に内外側に2分割し内側前部,内側中部,内側後部,外側前部,外側中部,外側後部の計6部位とした。視床背側核レベルも同様に放線冠を前部,中部,後部に3等分し,視床背側核と尾状核体を加えた計5部位とした。松果体レベルでは内包前脚,内包膝と内包後脚前部,内包後脚後部,尾状核頭に加えて被殻と島をそれぞれ前後に2等分して計8部位とし,合計19部位の出血による損傷の有無を確認した。認知機能の評価として退院時のFIM認知項目を,歩行能力の評価として退院時FIM移動能力を後方視的に調査した。FIM移動能力の1~5点を独歩不可能群(以下;不可能群),6~7点を独歩可能群(以下;可能群)とした。各々の損傷部位の合計を総人数で除した値を百分率で算出し不可能群,可能群で比較した。各対象者のFIM認知項目とFIM移動能力に対して損傷部位との関係性を3つのそれぞれのレベルで比較するためにPearsonの積率相関係数を用いて統計学的に検討した。有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は当院倫理委員会の承認を得て実施した。
【結果】
FIM移動能力と3つそれぞれのレベルにおける各対象者の損傷部位の合計をPearsonの積率相関係数を用いた結果,脳梁体部レベルの損傷部位の合計で負の相関(r=-0.58)が認められた。その中でも不可能群の全例が脳梁体部レベルの放線冠内側中部を損傷していた。さらに,不可能群の80%が放線冠内側後部も損傷していた。一方で,可能群では放線冠内側後部の損傷は14%に留まった。松果体レベルの損傷部位の合計においても負の相関(r=-0.62)を認めた。不可能群の60~70%に内包前脚~内包後脚前部にかけての損傷がみられた。一方で可能群では内包前脚が損傷している者は21%であり,島前部,被殻前部の損傷は7%に留まった。FIM認知項目は背側核の損傷の合計(r=-0.42)と松果体の損傷の合計(r=-0.46)で弱い負の相関を認めた。
【考察】
脳梁体部レベルにおいて放線冠の内側中部と内側後部が損傷すると独歩不可になる傾向がみられた。放線冠の内側中部と内側後部は概ね中心前回,中心後回とを結ぶ部位であり,皮質脊髄路,皮質網様体路,視床皮質路が損傷している可能性がある。それにより随意運動の障害,四肢近位筋の筋緊張制御の障害,体性感覚障害が生じて独歩獲得に影響したのではないかと考えられる。とりわけ皮質脊髄路や皮質網様体路に関係する内側中部の損傷に注目する必要がある。松果体レベルにおいても内包前脚~後脚前部にかけての障害で同様のことが推察できる。さらに内包前脚~後脚前部に加えて島前部や被殻前部等を含むような広範囲の損傷では独歩不可となる傾向があった。内包前脚~後脚前部が損傷すると前頭橋路,皮質脊髄路,皮質網様体路に障害が起こる。前頭橋路や被殻の上外側を通る上縦束の損傷は認知機能にも影響すると予測できる。さらに島前部と被殻前部は情動機能に関与するため出血により視床背側核レベルや松果体レベルで広範囲に損傷したことでFIM認知項目に影響を及ぼしたのかもしれない。被殻出血において松果体レベルにおける内包の損傷を読影することは重要であるが,さらに脳梁体部レベルで尾状核の外側を走行する皮質脊髄路,皮質網様体路,視床皮質路の損傷の有無にも注意を払う必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
被殻出血の進展方向と出血部位周辺を走行する神経線維,核の損傷を読影することで病態理解に繋がり予後予測の一助となり得る。