[0237] 末梢神経電気刺激による皮質運動野興奮性の変動
Keywords:電気刺激, 磁気刺激, 運動誘発電位
【はじめに,目的】
末梢神経への電気刺激により一次運動野の興奮性が変動することが知られている。先行研究では,高頻度高強度の電気刺激を末梢神経に持続的に与えることにより,運動野の興奮性が一時的に増大し,低頻度低強度の電気刺激では,運動野の興奮性が一時的に減弱することが報告されている(Chipchase, 2011)。しかし反対に,高頻度の電気刺激により運動野の興奮性が減弱するという報告(Schabrum, 2012)や,低頻度の電気刺激により運動野の興奮性が増大するという報告(Ridding, 2000)もあり,運動野の興奮性を増大または減弱させる最適な電気刺激条件は明らかとなっていない。またこれらの報告はいずれも末梢神経を持続的に電気刺激した際の報告であり,末梢神経を短期的に電気刺激した際の運動野の興奮性の変動については検討されていない。そこで,本研究では正中神経への電気刺激が一次運動野の興奮性に与える影響について,電気刺激の刺激間隔および刺激回数による影響を検討した。
【方法】
対象は実験内容を十分に説明し同意が得られた健常成人11名(24.3±5.0歳)であった。一次運動野の興奮性の評価として運動誘発電位(Motor evoked potentials:MEP)を用いた。MEPの計測には,経頭蓋磁気刺激装置Magstim200および8の字コイルを使用した。右正中神経への電気刺激の400-600 ms後に左一次運動野に磁気刺激を与え,右短母指外転筋からMEPを記録した。磁気刺激強度は安静時に1 mVのMEPが1/2の頻度で記録される強度とし,磁気刺激の頻度は0.2 Hzとした。電気刺激強度は右短母指外転筋における運動閾値(Motor threshold:MT)の95%とした。電気刺激の刺激間隔は2条件(10 ms,250 ms)設定した。また電気刺激の刺激回数は3条件(1発,3発,6発)設定した。電気刺激条件5条件(1発条件,10 ms_3発条件,250 ms_3発条件,10 ms_6発条件,250 ms_6発条件)に,磁気刺激のみの単発磁気刺激条件を加えた計6条件をランダムに施行した。各条件で得られたMEP振幅10波形の加算平均値を算出した。各条件のMEP振幅値はDunnet法による検定を用いて比較検討した。なお有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は,ヘルシンキ宣言の趣旨に則り,かつ我々が所属する機関の倫理委員会の承認を得て行った。また被験者に実験内容を十分に説明し,書面にて同意を得た上で行った。
【結果】
被験者11名の内,7名において1発電気刺激に対してMEP振幅の減弱が認められ,他4名では1発電気刺激に対してMEP振幅の増大が認められた。1発電気刺激に対してMEP振幅の減弱が認められた7名におけるMEP振幅値(平均値±標準誤差)は,磁気刺激のみの単発磁気刺激条件0.82±0.1 mV,1発電気刺激条件0.60±0.07 mV,10 ms_3発条件0.61±0.04 mV,250 ms_3発条件0.58±0.07 mV,10 ms_6発条件0.54±0.04 mV,250 ms_6発条件0.56±0.04 mVとなった。単発磁気刺激条件に比べ,250 ms_3発条件(p<0.05),10 ms_6発条件(p<0.05),250 ms_6発条件(p<0.05)においてMEP振幅の有意な減弱が認められた。また,1発電気刺激に対してMEP振幅の増大が認められた4名におけるMEP振幅値は,単発磁気刺激条件0.67±0.08 mV,1発条件0.90±0.14 mV,10 ms_3発条件0.93±0.14 mV,250 ms_3発条件0.79±0.14 mV,10 ms_6発条件0.85±0.11 mV,250 ms_6発条件0.69±0.13 mVであった。
【考察】
先行研究では,先行する末梢神経刺激の200-1000 ms後に運動野へ磁気刺激することによりMEP振幅が減弱することが報告されているが(Chen, 1999),本研究では1発電気刺激による抑制効果が11名中7名しか観察できなかった。さらに,1発電気刺激でMEP減弱が認められた7名においても,単発磁気刺激条件に比べて統計的な有意差は認められなかった。これは,導出されたデータのバラツキが大きかったためと考えられる。しかし,3発条件および6発条件においてはMEP振幅が有意に減弱した。このことから,先行する末梢神経電気刺激の条件によりMEP振幅の減弱度合いに違いがみられるものと考えられた。また10 ms条件と250 ms条件におけるMEP振幅の減弱度合いには明確な差は認められず,今後の検討課題である。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は,末梢神経電気刺激に対する運動野の興奮性の変化を明らかにすることを目的としており,脳機能解明の一助となると共に,理学療法分野における臨床場面において,大脳皮質の興奮性増大を目的とした電気刺激療法の効果的な介入方法の発展に繋がるものとが考えられる。
末梢神経への電気刺激により一次運動野の興奮性が変動することが知られている。先行研究では,高頻度高強度の電気刺激を末梢神経に持続的に与えることにより,運動野の興奮性が一時的に増大し,低頻度低強度の電気刺激では,運動野の興奮性が一時的に減弱することが報告されている(Chipchase, 2011)。しかし反対に,高頻度の電気刺激により運動野の興奮性が減弱するという報告(Schabrum, 2012)や,低頻度の電気刺激により運動野の興奮性が増大するという報告(Ridding, 2000)もあり,運動野の興奮性を増大または減弱させる最適な電気刺激条件は明らかとなっていない。またこれらの報告はいずれも末梢神経を持続的に電気刺激した際の報告であり,末梢神経を短期的に電気刺激した際の運動野の興奮性の変動については検討されていない。そこで,本研究では正中神経への電気刺激が一次運動野の興奮性に与える影響について,電気刺激の刺激間隔および刺激回数による影響を検討した。
【方法】
対象は実験内容を十分に説明し同意が得られた健常成人11名(24.3±5.0歳)であった。一次運動野の興奮性の評価として運動誘発電位(Motor evoked potentials:MEP)を用いた。MEPの計測には,経頭蓋磁気刺激装置Magstim200および8の字コイルを使用した。右正中神経への電気刺激の400-600 ms後に左一次運動野に磁気刺激を与え,右短母指外転筋からMEPを記録した。磁気刺激強度は安静時に1 mVのMEPが1/2の頻度で記録される強度とし,磁気刺激の頻度は0.2 Hzとした。電気刺激強度は右短母指外転筋における運動閾値(Motor threshold:MT)の95%とした。電気刺激の刺激間隔は2条件(10 ms,250 ms)設定した。また電気刺激の刺激回数は3条件(1発,3発,6発)設定した。電気刺激条件5条件(1発条件,10 ms_3発条件,250 ms_3発条件,10 ms_6発条件,250 ms_6発条件)に,磁気刺激のみの単発磁気刺激条件を加えた計6条件をランダムに施行した。各条件で得られたMEP振幅10波形の加算平均値を算出した。各条件のMEP振幅値はDunnet法による検定を用いて比較検討した。なお有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は,ヘルシンキ宣言の趣旨に則り,かつ我々が所属する機関の倫理委員会の承認を得て行った。また被験者に実験内容を十分に説明し,書面にて同意を得た上で行った。
【結果】
被験者11名の内,7名において1発電気刺激に対してMEP振幅の減弱が認められ,他4名では1発電気刺激に対してMEP振幅の増大が認められた。1発電気刺激に対してMEP振幅の減弱が認められた7名におけるMEP振幅値(平均値±標準誤差)は,磁気刺激のみの単発磁気刺激条件0.82±0.1 mV,1発電気刺激条件0.60±0.07 mV,10 ms_3発条件0.61±0.04 mV,250 ms_3発条件0.58±0.07 mV,10 ms_6発条件0.54±0.04 mV,250 ms_6発条件0.56±0.04 mVとなった。単発磁気刺激条件に比べ,250 ms_3発条件(p<0.05),10 ms_6発条件(p<0.05),250 ms_6発条件(p<0.05)においてMEP振幅の有意な減弱が認められた。また,1発電気刺激に対してMEP振幅の増大が認められた4名におけるMEP振幅値は,単発磁気刺激条件0.67±0.08 mV,1発条件0.90±0.14 mV,10 ms_3発条件0.93±0.14 mV,250 ms_3発条件0.79±0.14 mV,10 ms_6発条件0.85±0.11 mV,250 ms_6発条件0.69±0.13 mVであった。
【考察】
先行研究では,先行する末梢神経刺激の200-1000 ms後に運動野へ磁気刺激することによりMEP振幅が減弱することが報告されているが(Chen, 1999),本研究では1発電気刺激による抑制効果が11名中7名しか観察できなかった。さらに,1発電気刺激でMEP減弱が認められた7名においても,単発磁気刺激条件に比べて統計的な有意差は認められなかった。これは,導出されたデータのバラツキが大きかったためと考えられる。しかし,3発条件および6発条件においてはMEP振幅が有意に減弱した。このことから,先行する末梢神経電気刺激の条件によりMEP振幅の減弱度合いに違いがみられるものと考えられた。また10 ms条件と250 ms条件におけるMEP振幅の減弱度合いには明確な差は認められず,今後の検討課題である。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は,末梢神経電気刺激に対する運動野の興奮性の変化を明らかにすることを目的としており,脳機能解明の一助となると共に,理学療法分野における臨床場面において,大脳皮質の興奮性増大を目的とした電気刺激療法の効果的な介入方法の発展に繋がるものとが考えられる。