[0239] 実動作直後は運動イメージは強化され体性感覚野の入力動態を変化させるか
キーワード:体性感覚誘発電位, 運動イメージ, gating効果
【はじめに,目的】
ヒトは食事,排泄,移動などの日常生活動作を行う際,様々な随意運動を組み合わせてその目的を達成している。多くの先行研究より,運動実行の直前の運動準備段階と運動イメージを想起した際の脳活動は類似していると言われている(Jeannerod, 1995)。また,この運動イメージは,ワーキングメモリによって再生される身体運動を伴わない心的な運動の表象であると定義されている(Decety, 1996)。これらのことから,運動実行により得られる固有受容感覚を実際に経験した直後に運動イメージを想起することで,その運動イメージはより鮮明になる可能性がある。
近年,運動イメージを利用したメンタルプラクティスのリハビリテーションへの応用や,同課題中の脳血流動態に関する報告は多く見られる(Sharma, 2006)。また,イメージ想起の種類の違いによる体性感覚野の興奮性の変化に関する報告もある(Rudy, 2001)。一方,同様の課題中の体性感覚野への入力動態について電気生理学的手法を用いて明らかにした報告は数少ない。今回は,把持動作に言及した課題設定で,ゴムボールを手指にて把持するようにイメージ想起させた。その際,イメージ想起の誘導方法を変化させて,各条件における体性感覚野の興奮性の変化を体性感覚誘発電位(Somatosensory evoked potentials;SEPs)を用いて測定し,イメージの鮮明度とSEPsの振幅変化の関係性について検討した。
【方法】
右利きの健常成人7名(男性4名,女性3名),平均年齢21.9±2.0歳を対象とし,SEPsの測定にはNeuropack・μを使用し,EPLIZERIIで解析した。実験条件は,椅子座位で,机上に前腕中間位で両上肢をリラックスした状態で置き,被験者に対して「眼を閉じて,手指にてゴムボールを繰り返し握るようにイメージしてください」と指示した。そのイメージ想起の誘導方法を,①言語にて指示するのみ(言語条件),②ゴムボールを見てイメージ想起(視覚条件),③ゴムボールを触った後にイメージ想起(固有受容感覚条件)と変化させ,さらに安静条件での測定を行い,合計4条件での比較を行った。尚,イメージ想起条件ではSEPsの刺激頻度と同調するように指示した。
SEPsの計測方法は,刺激部位を右手関節部の正中神経とし,0.3msecの矩形波を1Hzの頻度で1条件につき200発電気刺激した。刺激強度は短母指外転筋から導出したM波閾値の1.3倍とし,M波は常時モニターした。記録電極は,塩化銀皿電極を使用し,国際10/20法に基づきC3’,C4’から導出し,基準電極は両耳朶とした。得られた200回の加算平均波形より短潜時SEPs(N18,P24,N33),長潜時SEPs(N140)各成分を同定し,Friedman検定を用いて頂点間振幅を比較し,多重比較にはBonferroni法を行った。また,イメージ想起条件ではVASを用いて鮮明度に関する主観的評価を実施した。
【倫理的配慮,説明と同意】
被験者全員に対して研究の主旨やその内容,倫理面について紙面及び口頭で説明を行い,同意書に署名を得られた者に対してのみ実験を行った。
【結果】
C3’より得られたN33成分における各条件の振幅は,安静条件,言語条件,視覚条件,固有受容感覚条件の順で有意に大きかった(p<0.05)。多重比較より,安静条件と比較して固有感覚条件にて有意に低値を示した(p<0.05)。その他N18,P24,N140における振幅の著明な変化は認められなかった。また,イメージ想起条件における主観的な鮮明度を示すVASの値は,固有受容感覚条件で最大で,視覚条件,言語条件の順であった。
【考察】
上肢刺激による短潜時SEPsは,一次体性感覚野を中心とした大脳皮質がその起源と考えられている。また,手の随意運動中にSEPsを記録すると,安静時よりも短潜時SEPsの振幅が低下する。このような振幅の低下をgating効果という(西平,1995)。発生部位は主に皮質レベルとされており,そのメカニズムは①中枢遠心性,②中枢求心性の2つに大別される。本研究の結果においても,安静条件と比較して固有受容感覚条件のN33成分の振幅低下が認められる。運動に伴う求心性インパルスが生じない条件で,このgating効果が見られることから,中枢遠心性メカニズムの影響が関与しているものと考える。さらにVASの結果も合わせて考えると,運動実行により得られる固有受容感覚を経験した直後にイメージ想起することで,運動イメージがより鮮明になる可能性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
運動イメージをリハビリテーションへ応用する際,視覚や聴覚を利用してその鮮明度を向上させる手法を選択することがある。本研究により,運動イメージを想起する直前に運動実行により得られる固有受容感覚を経験することで,運動イメージを促進あるいは補完できる可能性が示唆された。
ヒトは食事,排泄,移動などの日常生活動作を行う際,様々な随意運動を組み合わせてその目的を達成している。多くの先行研究より,運動実行の直前の運動準備段階と運動イメージを想起した際の脳活動は類似していると言われている(Jeannerod, 1995)。また,この運動イメージは,ワーキングメモリによって再生される身体運動を伴わない心的な運動の表象であると定義されている(Decety, 1996)。これらのことから,運動実行により得られる固有受容感覚を実際に経験した直後に運動イメージを想起することで,その運動イメージはより鮮明になる可能性がある。
近年,運動イメージを利用したメンタルプラクティスのリハビリテーションへの応用や,同課題中の脳血流動態に関する報告は多く見られる(Sharma, 2006)。また,イメージ想起の種類の違いによる体性感覚野の興奮性の変化に関する報告もある(Rudy, 2001)。一方,同様の課題中の体性感覚野への入力動態について電気生理学的手法を用いて明らかにした報告は数少ない。今回は,把持動作に言及した課題設定で,ゴムボールを手指にて把持するようにイメージ想起させた。その際,イメージ想起の誘導方法を変化させて,各条件における体性感覚野の興奮性の変化を体性感覚誘発電位(Somatosensory evoked potentials;SEPs)を用いて測定し,イメージの鮮明度とSEPsの振幅変化の関係性について検討した。
【方法】
右利きの健常成人7名(男性4名,女性3名),平均年齢21.9±2.0歳を対象とし,SEPsの測定にはNeuropack・μを使用し,EPLIZERIIで解析した。実験条件は,椅子座位で,机上に前腕中間位で両上肢をリラックスした状態で置き,被験者に対して「眼を閉じて,手指にてゴムボールを繰り返し握るようにイメージしてください」と指示した。そのイメージ想起の誘導方法を,①言語にて指示するのみ(言語条件),②ゴムボールを見てイメージ想起(視覚条件),③ゴムボールを触った後にイメージ想起(固有受容感覚条件)と変化させ,さらに安静条件での測定を行い,合計4条件での比較を行った。尚,イメージ想起条件ではSEPsの刺激頻度と同調するように指示した。
SEPsの計測方法は,刺激部位を右手関節部の正中神経とし,0.3msecの矩形波を1Hzの頻度で1条件につき200発電気刺激した。刺激強度は短母指外転筋から導出したM波閾値の1.3倍とし,M波は常時モニターした。記録電極は,塩化銀皿電極を使用し,国際10/20法に基づきC3’,C4’から導出し,基準電極は両耳朶とした。得られた200回の加算平均波形より短潜時SEPs(N18,P24,N33),長潜時SEPs(N140)各成分を同定し,Friedman検定を用いて頂点間振幅を比較し,多重比較にはBonferroni法を行った。また,イメージ想起条件ではVASを用いて鮮明度に関する主観的評価を実施した。
【倫理的配慮,説明と同意】
被験者全員に対して研究の主旨やその内容,倫理面について紙面及び口頭で説明を行い,同意書に署名を得られた者に対してのみ実験を行った。
【結果】
C3’より得られたN33成分における各条件の振幅は,安静条件,言語条件,視覚条件,固有受容感覚条件の順で有意に大きかった(p<0.05)。多重比較より,安静条件と比較して固有感覚条件にて有意に低値を示した(p<0.05)。その他N18,P24,N140における振幅の著明な変化は認められなかった。また,イメージ想起条件における主観的な鮮明度を示すVASの値は,固有受容感覚条件で最大で,視覚条件,言語条件の順であった。
【考察】
上肢刺激による短潜時SEPsは,一次体性感覚野を中心とした大脳皮質がその起源と考えられている。また,手の随意運動中にSEPsを記録すると,安静時よりも短潜時SEPsの振幅が低下する。このような振幅の低下をgating効果という(西平,1995)。発生部位は主に皮質レベルとされており,そのメカニズムは①中枢遠心性,②中枢求心性の2つに大別される。本研究の結果においても,安静条件と比較して固有受容感覚条件のN33成分の振幅低下が認められる。運動に伴う求心性インパルスが生じない条件で,このgating効果が見られることから,中枢遠心性メカニズムの影響が関与しているものと考える。さらにVASの結果も合わせて考えると,運動実行により得られる固有受容感覚を経験した直後にイメージ想起することで,運動イメージがより鮮明になる可能性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
運動イメージをリハビリテーションへ応用する際,視覚や聴覚を利用してその鮮明度を向上させる手法を選択することがある。本研究により,運動イメージを想起する直前に運動実行により得られる固有受容感覚を経験することで,運動イメージを促進あるいは補完できる可能性が示唆された。