[0241] 実運動および運動イメージの一次運動野脳活動の神経相関
Keywords:実運動, 運動イメージ, 運動関連脳磁界
【はじめに,目的】
ブレイン・マシン・インターフェースは脳信号を用いてコンピュータや義手など外部装置をコントローする技術であり,近年,四肢の運動障害を持つ患者の機能補完や神経リハビリテーションにおいて重要な役割を果たすと期待されている。外部装置をコントロールするためには,特に実運動や運動イメージにより活性化する一次運動野(M1)の脳信号が重要である。近年になり,実運動と運動イメージの神経生理学的関連性に着目した研究が認められるようになっているが,神経信号解読の観点から両条件の関連性を調べた研究はあまり認められない。そこで,本研究では神経生理学的ならびに計算論的手法を用いて実運動と運動イメージの類似点と相違点を明らかにし,両条件の脳活動の神経相関を明らかにすることを目的とした。
【方法】
9名の健常被験者(男性4名,女性5名;年齢32.8±14.2)に対し右上肢の握り・つまみ・肘曲げ動作を実運動および運動イメージにて各動作60回ずつ行わせた。運動時の脳信号は160チャンネル全頭型脳磁計(MEG vision NEO,横河電気)を用いて計測した。その後,空間フィルタ法を用いて左側のM1領域に40チャンネルの仮想センサーを配置し,各チャンネルより運動関連の脳磁界反応を抽出し,各課題における運動内容解読に使用した。また,実運動および運動イメージ時の脳活動の空間分布を明らかにするために各課題時の脳磁界反応を用いて電流源推定を行った。
【倫理的配慮,説明と同意】
被験者に対し本研究の目的および実験を行うことで起こりうる結果について説明し,研究参加に対する同意を得て実験を行った。なお,本研究は大阪大学医学部附属病院の倫理審査委員会による承認を得て行った。
【結果】
実運動課題では運動関連脳磁界(Movement-related cortical fields;MRCFs)の構成成分である運動磁界(Motor field;MF),運動誘発磁界I(Movement-evoked field;MEF-I)および運動誘発磁界II(MEF-II)が明瞭に認められたが,運動イメージ課題ではMRCFsが不明瞭で,特にMEF-Iは全被験者で認められなかった。運動内容の解読結果は実運動課題が65.4±15.6%(偶然の一致は33.3%),運動イメージ課題が46.1±9.7%であり,両課題共に有意に高い解読正答率が得られた(p<0.05,Binomial test)。また,両課題の解読精度の相関を求めたところ,両課題開始時に有意な正の相関が認められた(p<0.05,Pearson’s correlation)。しかしながら,MEF-Iが出現する潜時においては両課題間で解読精度の有意な相関は得られなかった。また,各課題時の電流源解析では両課題ともM1の手の領域に高い電流源が認められた。電流源の強度は運動イメージと比較して実運動で高い傾向があったが有意差は認められなかった(p<0.11,Mann-Whitney U-test)。しかしながら,実運動あるいは運動イメージ開始後0ms,100ms,275ms(それぞれMF,MEF-I,MEF-IIの潜時に対応)の3時点で電流源強度を比較したところ,実運動あるいは運動イメージ開始後100msのみ有意な電流源強度の違いが認められた(p<0.05,Mann-Whitney U-test)。
【考察】
本研究の結果,実運動と運動イメージ時にはMFおよびMEF-IIが共通して出現することが明らかとなった。過去の研究により,MFは運動を実行する際のM1から抹消の筋への最終的なアウトプット信号であることが,またMEF-IIは運動後に生じるM1の再活動であることが報告されている。一方,両課題間の相違点としてはMEF-Iが関連することが示唆された。MEF-Iは運動後に生じる筋紡錘から一次感覚野への感覚フィードバック反応であることが示されていることから,両課題時の筋紡錘からの感覚フィードバックの有無により電流源の強度に有意差が生じたものと考えられる。以上のことから,実運動および運動イメージの際の脳活動はMF,MEF-IIにおいて神経相関を示し,さらにこれらの成分には運動の種類を表現できるような豊富な脳信号が含まれていることが明らかとなった。
【理学療法学研究としての意義】
運動イメージ時のMF,MEF-IIなどの脳信号を適切に抽出しフィードバックすることで実際の運動のパフォーマンスを向上できる可能性がある。このような手法を利用することにより,新たな神経リハビリテーションの開発につながると考えられる。
ブレイン・マシン・インターフェースは脳信号を用いてコンピュータや義手など外部装置をコントローする技術であり,近年,四肢の運動障害を持つ患者の機能補完や神経リハビリテーションにおいて重要な役割を果たすと期待されている。外部装置をコントロールするためには,特に実運動や運動イメージにより活性化する一次運動野(M1)の脳信号が重要である。近年になり,実運動と運動イメージの神経生理学的関連性に着目した研究が認められるようになっているが,神経信号解読の観点から両条件の関連性を調べた研究はあまり認められない。そこで,本研究では神経生理学的ならびに計算論的手法を用いて実運動と運動イメージの類似点と相違点を明らかにし,両条件の脳活動の神経相関を明らかにすることを目的とした。
【方法】
9名の健常被験者(男性4名,女性5名;年齢32.8±14.2)に対し右上肢の握り・つまみ・肘曲げ動作を実運動および運動イメージにて各動作60回ずつ行わせた。運動時の脳信号は160チャンネル全頭型脳磁計(MEG vision NEO,横河電気)を用いて計測した。その後,空間フィルタ法を用いて左側のM1領域に40チャンネルの仮想センサーを配置し,各チャンネルより運動関連の脳磁界反応を抽出し,各課題における運動内容解読に使用した。また,実運動および運動イメージ時の脳活動の空間分布を明らかにするために各課題時の脳磁界反応を用いて電流源推定を行った。
【倫理的配慮,説明と同意】
被験者に対し本研究の目的および実験を行うことで起こりうる結果について説明し,研究参加に対する同意を得て実験を行った。なお,本研究は大阪大学医学部附属病院の倫理審査委員会による承認を得て行った。
【結果】
実運動課題では運動関連脳磁界(Movement-related cortical fields;MRCFs)の構成成分である運動磁界(Motor field;MF),運動誘発磁界I(Movement-evoked field;MEF-I)および運動誘発磁界II(MEF-II)が明瞭に認められたが,運動イメージ課題ではMRCFsが不明瞭で,特にMEF-Iは全被験者で認められなかった。運動内容の解読結果は実運動課題が65.4±15.6%(偶然の一致は33.3%),運動イメージ課題が46.1±9.7%であり,両課題共に有意に高い解読正答率が得られた(p<0.05,Binomial test)。また,両課題の解読精度の相関を求めたところ,両課題開始時に有意な正の相関が認められた(p<0.05,Pearson’s correlation)。しかしながら,MEF-Iが出現する潜時においては両課題間で解読精度の有意な相関は得られなかった。また,各課題時の電流源解析では両課題ともM1の手の領域に高い電流源が認められた。電流源の強度は運動イメージと比較して実運動で高い傾向があったが有意差は認められなかった(p<0.11,Mann-Whitney U-test)。しかしながら,実運動あるいは運動イメージ開始後0ms,100ms,275ms(それぞれMF,MEF-I,MEF-IIの潜時に対応)の3時点で電流源強度を比較したところ,実運動あるいは運動イメージ開始後100msのみ有意な電流源強度の違いが認められた(p<0.05,Mann-Whitney U-test)。
【考察】
本研究の結果,実運動と運動イメージ時にはMFおよびMEF-IIが共通して出現することが明らかとなった。過去の研究により,MFは運動を実行する際のM1から抹消の筋への最終的なアウトプット信号であることが,またMEF-IIは運動後に生じるM1の再活動であることが報告されている。一方,両課題間の相違点としてはMEF-Iが関連することが示唆された。MEF-Iは運動後に生じる筋紡錘から一次感覚野への感覚フィードバック反応であることが示されていることから,両課題時の筋紡錘からの感覚フィードバックの有無により電流源の強度に有意差が生じたものと考えられる。以上のことから,実運動および運動イメージの際の脳活動はMF,MEF-IIにおいて神経相関を示し,さらにこれらの成分には運動の種類を表現できるような豊富な脳信号が含まれていることが明らかとなった。
【理学療法学研究としての意義】
運動イメージ時のMF,MEF-IIなどの脳信号を適切に抽出しフィードバックすることで実際の運動のパフォーマンスを向上できる可能性がある。このような手法を利用することにより,新たな神経リハビリテーションの開発につながると考えられる。