[0242] 手指対立運動の運動イメージが上肢脊髄神経機能の興奮性に及ぼす影響
―イメージ明瞭性の評価を用いた検討―
Keywords:運動イメージ, F波, 手指対立運動
【はじめに,目的】
運動イメージは,随意運動が困難な患者に対し身体的負荷を増加することなく,運動機能の改善を図る有効な治療手段の一つと考えられる。我々は先行研究において,単純な手指対立運動の運動イメージに比べ複雑な手指対立運動の運動イメージでは,上肢脊髄神経機能の興奮性がより増加するものの,運動イメージの想起が難しければ上肢脊髄神経機能の興奮性は変化しないと報告した。運動イメージの効果には,イメージの明瞭性・統御可能性からなるイメージ想起能力が影響するとされている。しかしながら,イメージ想起能力を考慮した報告はほとんどみられない。そこで,本研究はイメージ想起能力と手指対立運動の運動イメージの効果の関連性についてF波を用いて検討した。
【方法】
対象は健常成人14名(平均年齢25.1±4.7歳)とした。三人称および一人称イメージの明瞭性については,実験前にVividness of Movement Imagery Questionnaire(VMIQ)を用いて測定した。VMIQは24の行動項目からなり,評定は5段階(1.実像のように明確かつ鮮明に生き生きとイメージできる-5.まったくイメージできない)で,合計点が低いほどイメージの明瞭性が高いことを示す。F波はViking Quest(Nicolet)を用いて,安静時,右手指での運動イメージ試行中に右母指球筋より導出した。検査姿勢は背臥位とし,運動イメージ試行中は身体を動かさないように指示した。運動イメージ課題は,1Hzの頻度での複雑性の異なる3種類の右手指対立運動とした。課題1は右母指と示指による対立運動のイメージ,課題2は右母指と他指の対立運動を示指,中指,環指,小指の順でイメージ,課題3は右母指と他指の対立運動を示指,環指,中指,小指の順でイメージした。また,今回の運動イメージは一人称イメージを用い,各運動イメージ課題はランダムに実施した。F波導出の刺激条件は,強度を最大上刺激,頻度を0.5Hz,持続時間を0.2msとして,右手関節部正中神経を連続30回刺激した。記録条件として探査電極は右母指球筋の筋腹上,基準電極は右母指基節骨上に配置した。F波の分析項目は,振幅F/M比,出現頻度,立ち上がり潜時とした。安静時と課題1,課題2,課題3の振幅F/M比,出現頻度,立ち上がり潜時の比較には,Freidman検定とWilcoxonの符号付順位検定を用いた。各課題の振幅F/M比,出現頻度とイメージ想起能力の関係については,Spearmanの順位相関係数を用いて検定した。有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
被験者には本研究の趣旨に加え,実験データは厳重に保管することなどを十分に説明し,同意が得られた場合には研究同意書にサインを得た。なお,本研究は所属機関倫理委員会の承認を受けて実施した。
【結果】
安静時に比べて課題1と課題2で振幅F/M比は有意に増加した(課題1:p<0.05,課題2:p<0.01)。出現頻度と立ち上がり潜時は,各試行間で有意差を認めなかった。また,課題1,課題2,課題3の出現頻度はVMIQの一人称得点と有意な相関を認めた(課題1:rs=-0.521,p<0.05,課題2:rs=-0.59,p<0.05,課題3:rs=-0.536,p<0.05)。
【考察】
F波は運動神経軸索の末梢部での刺激によるα運動ニューロンの逆行性興奮に由来すると考えられており,振幅F/M比,出現頻度はα運動ニューロンの興奮性の指標の一つといわれている。本結果より,複雑な手指対立運動の運動イメージでは上肢脊髄神経機能の興奮性がより増加するものの,イメージの想起が難しければ上肢脊髄神経機能の興奮性は変化しない可能性が示唆された。VMIQは三人称および一人称イメージの明瞭性の評価である。また,効果的に運動イメージを行うには一人称イメージが有効とされている。このような点から,本研究においても一人称イメージの明瞭性と脊髄神経機能の興奮性に相関がみられた可能性を考えた。
【理学療法学研究としての意義】
本研究により,イメージ想起能力は運動イメージの結果に影響を及ぼす可能性が示唆された。理学療法を行う際には,対象者のイメージ想起能力を考慮した上で,運動イメージによる介入を行う必要がある。
運動イメージは,随意運動が困難な患者に対し身体的負荷を増加することなく,運動機能の改善を図る有効な治療手段の一つと考えられる。我々は先行研究において,単純な手指対立運動の運動イメージに比べ複雑な手指対立運動の運動イメージでは,上肢脊髄神経機能の興奮性がより増加するものの,運動イメージの想起が難しければ上肢脊髄神経機能の興奮性は変化しないと報告した。運動イメージの効果には,イメージの明瞭性・統御可能性からなるイメージ想起能力が影響するとされている。しかしながら,イメージ想起能力を考慮した報告はほとんどみられない。そこで,本研究はイメージ想起能力と手指対立運動の運動イメージの効果の関連性についてF波を用いて検討した。
【方法】
対象は健常成人14名(平均年齢25.1±4.7歳)とした。三人称および一人称イメージの明瞭性については,実験前にVividness of Movement Imagery Questionnaire(VMIQ)を用いて測定した。VMIQは24の行動項目からなり,評定は5段階(1.実像のように明確かつ鮮明に生き生きとイメージできる-5.まったくイメージできない)で,合計点が低いほどイメージの明瞭性が高いことを示す。F波はViking Quest(Nicolet)を用いて,安静時,右手指での運動イメージ試行中に右母指球筋より導出した。検査姿勢は背臥位とし,運動イメージ試行中は身体を動かさないように指示した。運動イメージ課題は,1Hzの頻度での複雑性の異なる3種類の右手指対立運動とした。課題1は右母指と示指による対立運動のイメージ,課題2は右母指と他指の対立運動を示指,中指,環指,小指の順でイメージ,課題3は右母指と他指の対立運動を示指,環指,中指,小指の順でイメージした。また,今回の運動イメージは一人称イメージを用い,各運動イメージ課題はランダムに実施した。F波導出の刺激条件は,強度を最大上刺激,頻度を0.5Hz,持続時間を0.2msとして,右手関節部正中神経を連続30回刺激した。記録条件として探査電極は右母指球筋の筋腹上,基準電極は右母指基節骨上に配置した。F波の分析項目は,振幅F/M比,出現頻度,立ち上がり潜時とした。安静時と課題1,課題2,課題3の振幅F/M比,出現頻度,立ち上がり潜時の比較には,Freidman検定とWilcoxonの符号付順位検定を用いた。各課題の振幅F/M比,出現頻度とイメージ想起能力の関係については,Spearmanの順位相関係数を用いて検定した。有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
被験者には本研究の趣旨に加え,実験データは厳重に保管することなどを十分に説明し,同意が得られた場合には研究同意書にサインを得た。なお,本研究は所属機関倫理委員会の承認を受けて実施した。
【結果】
安静時に比べて課題1と課題2で振幅F/M比は有意に増加した(課題1:p<0.05,課題2:p<0.01)。出現頻度と立ち上がり潜時は,各試行間で有意差を認めなかった。また,課題1,課題2,課題3の出現頻度はVMIQの一人称得点と有意な相関を認めた(課題1:rs=-0.521,p<0.05,課題2:rs=-0.59,p<0.05,課題3:rs=-0.536,p<0.05)。
【考察】
F波は運動神経軸索の末梢部での刺激によるα運動ニューロンの逆行性興奮に由来すると考えられており,振幅F/M比,出現頻度はα運動ニューロンの興奮性の指標の一つといわれている。本結果より,複雑な手指対立運動の運動イメージでは上肢脊髄神経機能の興奮性がより増加するものの,イメージの想起が難しければ上肢脊髄神経機能の興奮性は変化しない可能性が示唆された。VMIQは三人称および一人称イメージの明瞭性の評価である。また,効果的に運動イメージを行うには一人称イメージが有効とされている。このような点から,本研究においても一人称イメージの明瞭性と脊髄神経機能の興奮性に相関がみられた可能性を考えた。
【理学療法学研究としての意義】
本研究により,イメージ想起能力は運動イメージの結果に影響を及ぼす可能性が示唆された。理学療法を行う際には,対象者のイメージ想起能力を考慮した上で,運動イメージによる介入を行う必要がある。