[0245] 発声出力の変化が下肢骨格筋支配の脊髄興奮準位に与える影響
Keywords:音圧パルス化装置, 発声, 脊髄興奮準位
【はじめに,目的】運動療法場面において対象者が発声をともなうことが観察されている。そこで我々は,運動出力をともなう運動療法の一助に発声が応用できるか可能性を探るため基礎的研究を進めている。これまで第21回埼玉県理学療法学会と第31回・32回の関東甲信越ブロック理学療法士学会等で報告し,握力や膝関節伸展筋力を増強させるためには,発声出力がある一定以上必要であることを示唆した。そこで今回われわれは,発声出力の変化が下肢骨格筋支配の脊髄興奮準位に及ぼす影響について,発声出力の程度と電気刺激のタイミングを工夫するため,音圧が機器で設定した閾値を超えた時に電気刺激装置を掃引する装置(以下,音声パルス化装置)を用いて検討した。
【方法】対象は,健常成人21名(男性16名,女性5名)とした。平均年齢は29歳(21~42歳)であった。被験者の課題は,60dB程度の発声をする条件(以下,P1)と90dB程度の発声をする条件(以下,P2)において,「Ya」と発声することである。被験者は事前に,60dBと90dB程度の発声練習を実施した。H波測定は,発声前の安静条件(以下,T1),P1,P2の3条件で実施した。測定順は,T1の後P1またはP2をランダムに実施した。なお,いずれの条件も5分間隔とした。H波の測定姿位は,頭頸部中間位・膝関節屈曲60°・足関節底屈30°とした安楽なリクライニング座位とした。脛骨神経の電気刺激は,電気刺激装置(H-0745,日本光電社製)を用いて持続1msecの方形波を設定し,定電流式アイソレータ(SS-104J,日本光電社製)に接続した。発声出力をともなう条件では,機器で設定した閾値を音圧が超えた時点で電気刺激装置を掃引する音声パルス化装置(特注)を外部トリガとして電気刺激装置に接続した。電気刺激強度の設定は,閾下二発刺激法を用いて刺激閾値を求め1.12倍した値とした。H波導出は,軸足ヒラメ筋とし,皮膚インピーダンスは5kΩ以下に前処理した。電極間距離は2.5cmとして表面電極(M-150,日本光電社製)を貼付した。表面電極より導出したH波を,筋電アンプ(特注)にて増幅し,A/D変換ボードからサンプリング周波数2kHzでPCに取り込み,誘発電位研究用プログラム(EPLYZERII,キッセイコムテック社製)を用いてH波を16回加算平均した。加算平均によって得られたH波の振幅値を記録した。統計処理は,統計処理解析ソフト(SPSS for windows ver.21.0)を使用し,H波振幅値(mV)を用いてシャピロウイルク検定を実施した後,多重比較検定(Tukey)を有意水準5%で実施した。また,H波振幅値の変化率を観察するために,T1を100%として正規化し,P1とP2の変化率を算出した。
【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,こおりやま東都学園研究倫理委員会の承認(承認番号:倫理委R1101)を得て行われた。全ての対象者には事前に本研究の目的と内容を口頭および書面で説明し,書面にて研究協力の同意を得た。
【結果】得られたH波元波形の振幅値(mV)は,T1:1.02±0.69,P1:1.51±0.76,P2:1.13±0.59であった。多重比較検定の結果,60dBの発声を行うP1とT1間,P1とP2間に有意差を認めた。90dBの発声を行うP2とT1間には有意差を認められなかった。T1を100%としたH波変化率は,P1で170%,P2で134%であった。
【考察】発声が下肢骨格筋支配の脊髄興奮準位に及ぼす影響については,諸説混在の状況である。先行研究から,誘発するための末梢神経刺激のタイミングが一定でなかったことが考えられる。そのため,発声された音圧が一定以上に成った時点で電気刺激装置を掃引する音声パルス化装置(特注)を用いることとした。今回の研究結果に限及すれば,発声することで下肢骨格筋支配の脊髄興奮準位が増強することが明らかになった。増強効果は,60dBの発声が大きく,90dBの発声は増強効果が小さい結果であった。このことは,発声出力が増大することで,体幹や上肢を固定する筋や努力呼気時に作用する骨格筋収縮がより混在したため90dBの発声をするP2条件で,増強効果が小さく成ったことが考えられる。そのため,体幹や上肢および努力呼気時に作用する骨格筋収縮を最小限にし,可及的に発声出力による影響を観察する目的で設定した60dBの発声するP1条件で増強効果が大きかったことが考えられる。今後の課題として,固定に関与する骨格筋の筋活動,及び,目的筋を支配する運動ニューロンにおける特異的,非特異的増強効果についても検討を進めて行きたい。
【理学療法学研究としての意義】発声により下肢骨格筋支配の脊髄興奮準位を増強させることが確かめられた。したがって,運動出力をともなう運動療法場面における活用が期待できる可能性が示唆された。
【方法】対象は,健常成人21名(男性16名,女性5名)とした。平均年齢は29歳(21~42歳)であった。被験者の課題は,60dB程度の発声をする条件(以下,P1)と90dB程度の発声をする条件(以下,P2)において,「Ya」と発声することである。被験者は事前に,60dBと90dB程度の発声練習を実施した。H波測定は,発声前の安静条件(以下,T1),P1,P2の3条件で実施した。測定順は,T1の後P1またはP2をランダムに実施した。なお,いずれの条件も5分間隔とした。H波の測定姿位は,頭頸部中間位・膝関節屈曲60°・足関節底屈30°とした安楽なリクライニング座位とした。脛骨神経の電気刺激は,電気刺激装置(H-0745,日本光電社製)を用いて持続1msecの方形波を設定し,定電流式アイソレータ(SS-104J,日本光電社製)に接続した。発声出力をともなう条件では,機器で設定した閾値を音圧が超えた時点で電気刺激装置を掃引する音声パルス化装置(特注)を外部トリガとして電気刺激装置に接続した。電気刺激強度の設定は,閾下二発刺激法を用いて刺激閾値を求め1.12倍した値とした。H波導出は,軸足ヒラメ筋とし,皮膚インピーダンスは5kΩ以下に前処理した。電極間距離は2.5cmとして表面電極(M-150,日本光電社製)を貼付した。表面電極より導出したH波を,筋電アンプ(特注)にて増幅し,A/D変換ボードからサンプリング周波数2kHzでPCに取り込み,誘発電位研究用プログラム(EPLYZERII,キッセイコムテック社製)を用いてH波を16回加算平均した。加算平均によって得られたH波の振幅値を記録した。統計処理は,統計処理解析ソフト(SPSS for windows ver.21.0)を使用し,H波振幅値(mV)を用いてシャピロウイルク検定を実施した後,多重比較検定(Tukey)を有意水準5%で実施した。また,H波振幅値の変化率を観察するために,T1を100%として正規化し,P1とP2の変化率を算出した。
【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,こおりやま東都学園研究倫理委員会の承認(承認番号:倫理委R1101)を得て行われた。全ての対象者には事前に本研究の目的と内容を口頭および書面で説明し,書面にて研究協力の同意を得た。
【結果】得られたH波元波形の振幅値(mV)は,T1:1.02±0.69,P1:1.51±0.76,P2:1.13±0.59であった。多重比較検定の結果,60dBの発声を行うP1とT1間,P1とP2間に有意差を認めた。90dBの発声を行うP2とT1間には有意差を認められなかった。T1を100%としたH波変化率は,P1で170%,P2で134%であった。
【考察】発声が下肢骨格筋支配の脊髄興奮準位に及ぼす影響については,諸説混在の状況である。先行研究から,誘発するための末梢神経刺激のタイミングが一定でなかったことが考えられる。そのため,発声された音圧が一定以上に成った時点で電気刺激装置を掃引する音声パルス化装置(特注)を用いることとした。今回の研究結果に限及すれば,発声することで下肢骨格筋支配の脊髄興奮準位が増強することが明らかになった。増強効果は,60dBの発声が大きく,90dBの発声は増強効果が小さい結果であった。このことは,発声出力が増大することで,体幹や上肢を固定する筋や努力呼気時に作用する骨格筋収縮がより混在したため90dBの発声をするP2条件で,増強効果が小さく成ったことが考えられる。そのため,体幹や上肢および努力呼気時に作用する骨格筋収縮を最小限にし,可及的に発声出力による影響を観察する目的で設定した60dBの発声するP1条件で増強効果が大きかったことが考えられる。今後の課題として,固定に関与する骨格筋の筋活動,及び,目的筋を支配する運動ニューロンにおける特異的,非特異的増強効果についても検討を進めて行きたい。
【理学療法学研究としての意義】発声により下肢骨格筋支配の脊髄興奮準位を増強させることが確かめられた。したがって,運動出力をともなう運動療法場面における活用が期待できる可能性が示唆された。