[0248] 胸郭可動域トレーニングによる肋間筋の柔軟性および肺機能の即時変化
キーワード:胸郭可動域トレーニング, 肋間筋, せん断波エラストグラフィー
【はじめに,目的】
胸郭可動域トレーニングは,胸郭周囲筋の柔軟性の改善や筋緊張抑制による胸郭可動性および呼吸機能改善を目的とし,呼吸器疾患のみならず,神経筋疾患や廃用症候群といった様々な疾患に対して適応となる治療手技である。胸郭可動域トレーニングがもたらす効果についての報告は散見されるが,そのほとんどが胸郭拡張差や肺活量といった総合的な呼吸機能を介して検証されているもので,肋間筋や肋骨で構成される胸郭の柔軟性が改善したかは不明である。近年開発された超音波診断装置のせん断波エラストグラフィー機能を用いることで,組織の硬さを表す指標である弾性率が算出可能となった。先行研究では,ストレッチング前後で筋の弾性率が減少することは軟部組織の柔軟性が増加したことを表すと報告されている。そこで本研究では,胸郭の運動を制限する要因の1つとして考えられる肋間筋の柔軟性に着目し,せん断波エラストグラフィー機能を用いて,胸郭可動域トレーニングが肋間筋の柔軟性および肺機能に与える影響を検討することを目的とした。
【方法】
対象は喫煙歴のない健常若年男性15名とした。介入前評価を行った後,胸郭可動域トレーニングを行い,その後直ちに介入後評価を行った。評価肢位は全て端座位とし,評価項目は超音波診断装置(SuperSonic Imagine社製)のせん断波エラストグラフィー機能による肋間筋の弾性率の評価とスパイロメーターによる肺機能の評価とした。肋間筋の弾性率の評価は,各筋の筋腹に設定した関心領域の弾性率(kPa)を求めた。測定部位は,上部胸郭の指標として,右側の鎖骨内側1/3から下ろした垂線上の第2肋間,下部胸郭の指標として,同側の前腋窩線上の第6肋間とした。これら2つの観測点において,肺気量を変化させ,呼吸を止めた状態で肋間筋の弾性を測定した。測定を行った肺気量位としては安静吸気位および呼気位,最大吸気位の3つの肺気量位とした。肺機能は,対標準肺活量(%VC),1秒量(FEV1)を測定した。約15分間の胸郭可動域トレーニングの内容は,徒手胸郭伸張法,肋間筋のダイレクトストレッチング,シルベスター法,体幹回旋運動,肋骨捻転運動の順に全て行った。統計学的解析は,4つの肺気量位において,第2肋間と第6肋間の肋間筋それぞれの弾性率,%VCおよびFEV1について,対応のあるt検定を用いてトレーニング介入前後の値を比較した。なお,有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
対象者には研究の内容を説明し,研究に参加することの同意を得た。
【結果】
肺機能について,胸郭可動域トレーニング後に%VC(前:99.2±10.7%,後:103.6±10.0%)は有意に増加したが,FEV1は介入前後で有意な差は認められなかった。肋間筋の弾性率について,第2肋間では安静呼気位(前:27.7±8.3 kPa,後:22.6±7.8 kPa),最大吸気位(前:45.6±16.4 kPa,後:36.5±17.8 kPa)における弾性率は介入後に有意に低下した。また,第6肋間では最大吸気位(前:26.4±8.6 kPa,後:22.5±6.8 kPa)で介入後に弾性率が有意に低下した。しかし安静吸気位での弾性率は第2・6両肋間で介入前後の有意な差は認められなかった。
【考察】
本研究の結果から,胸郭可動域トレーニング後に安静呼気位における第2肋間および最大吸気位における第2・6肋間の弾性率が有意に低下したことから,胸郭可動域トレーニングにより肋間筋の弾性率を低下させ得る事が示された。近年,せん断波エラストグラフィー機能を用いた研究において,筋の弾性率の低下は筋の柔軟性の増加を意味すると示されている。今回の研究では胸郭可動域トレーニング後に肋間筋の弾性率が低下していたため,胸郭可動域トレーニングにより肋間筋の柔軟性が増加したと考えられた。これらの結果と胸郭可動域トレーニング後に%VCが増加した事を統合すると,胸郭可動域トレーニングにより,肋間筋の柔軟性が向上したことが肺活量の増大に繋がった可能性が考えられた。
先行研究では慢性呼吸不全患者に対しての胸郭可動域トレーニングがもたらす効果について%VCの増加と胸郭拡張差の増加のみが確認され,肋間筋をはじめとする呼吸筋の柔軟性の向上によって胸郭可動性が改善するということは推測に過ぎなかった。しかし今回,せん断波エラストグラフィー機能による肋間筋の弾性率の評価によって胸郭可動域トレーニングがもたらす肋間筋への直接的効果を確認することができ,本研究で用いた胸郭可動域トレーニングが肋間筋の柔軟性を増加させるのに有効であることを示した。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は,胸郭可動域トレーニングが胸郭の構成体の1つである肋間筋の柔軟性を向上させる手技として有効であるかを検証したもので,呼吸理学療法手技の客観的効果を示した。
胸郭可動域トレーニングは,胸郭周囲筋の柔軟性の改善や筋緊張抑制による胸郭可動性および呼吸機能改善を目的とし,呼吸器疾患のみならず,神経筋疾患や廃用症候群といった様々な疾患に対して適応となる治療手技である。胸郭可動域トレーニングがもたらす効果についての報告は散見されるが,そのほとんどが胸郭拡張差や肺活量といった総合的な呼吸機能を介して検証されているもので,肋間筋や肋骨で構成される胸郭の柔軟性が改善したかは不明である。近年開発された超音波診断装置のせん断波エラストグラフィー機能を用いることで,組織の硬さを表す指標である弾性率が算出可能となった。先行研究では,ストレッチング前後で筋の弾性率が減少することは軟部組織の柔軟性が増加したことを表すと報告されている。そこで本研究では,胸郭の運動を制限する要因の1つとして考えられる肋間筋の柔軟性に着目し,せん断波エラストグラフィー機能を用いて,胸郭可動域トレーニングが肋間筋の柔軟性および肺機能に与える影響を検討することを目的とした。
【方法】
対象は喫煙歴のない健常若年男性15名とした。介入前評価を行った後,胸郭可動域トレーニングを行い,その後直ちに介入後評価を行った。評価肢位は全て端座位とし,評価項目は超音波診断装置(SuperSonic Imagine社製)のせん断波エラストグラフィー機能による肋間筋の弾性率の評価とスパイロメーターによる肺機能の評価とした。肋間筋の弾性率の評価は,各筋の筋腹に設定した関心領域の弾性率(kPa)を求めた。測定部位は,上部胸郭の指標として,右側の鎖骨内側1/3から下ろした垂線上の第2肋間,下部胸郭の指標として,同側の前腋窩線上の第6肋間とした。これら2つの観測点において,肺気量を変化させ,呼吸を止めた状態で肋間筋の弾性を測定した。測定を行った肺気量位としては安静吸気位および呼気位,最大吸気位の3つの肺気量位とした。肺機能は,対標準肺活量(%VC),1秒量(FEV1)を測定した。約15分間の胸郭可動域トレーニングの内容は,徒手胸郭伸張法,肋間筋のダイレクトストレッチング,シルベスター法,体幹回旋運動,肋骨捻転運動の順に全て行った。統計学的解析は,4つの肺気量位において,第2肋間と第6肋間の肋間筋それぞれの弾性率,%VCおよびFEV1について,対応のあるt検定を用いてトレーニング介入前後の値を比較した。なお,有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
対象者には研究の内容を説明し,研究に参加することの同意を得た。
【結果】
肺機能について,胸郭可動域トレーニング後に%VC(前:99.2±10.7%,後:103.6±10.0%)は有意に増加したが,FEV1は介入前後で有意な差は認められなかった。肋間筋の弾性率について,第2肋間では安静呼気位(前:27.7±8.3 kPa,後:22.6±7.8 kPa),最大吸気位(前:45.6±16.4 kPa,後:36.5±17.8 kPa)における弾性率は介入後に有意に低下した。また,第6肋間では最大吸気位(前:26.4±8.6 kPa,後:22.5±6.8 kPa)で介入後に弾性率が有意に低下した。しかし安静吸気位での弾性率は第2・6両肋間で介入前後の有意な差は認められなかった。
【考察】
本研究の結果から,胸郭可動域トレーニング後に安静呼気位における第2肋間および最大吸気位における第2・6肋間の弾性率が有意に低下したことから,胸郭可動域トレーニングにより肋間筋の弾性率を低下させ得る事が示された。近年,せん断波エラストグラフィー機能を用いた研究において,筋の弾性率の低下は筋の柔軟性の増加を意味すると示されている。今回の研究では胸郭可動域トレーニング後に肋間筋の弾性率が低下していたため,胸郭可動域トレーニングにより肋間筋の柔軟性が増加したと考えられた。これらの結果と胸郭可動域トレーニング後に%VCが増加した事を統合すると,胸郭可動域トレーニングにより,肋間筋の柔軟性が向上したことが肺活量の増大に繋がった可能性が考えられた。
先行研究では慢性呼吸不全患者に対しての胸郭可動域トレーニングがもたらす効果について%VCの増加と胸郭拡張差の増加のみが確認され,肋間筋をはじめとする呼吸筋の柔軟性の向上によって胸郭可動性が改善するということは推測に過ぎなかった。しかし今回,せん断波エラストグラフィー機能による肋間筋の弾性率の評価によって胸郭可動域トレーニングがもたらす肋間筋への直接的効果を確認することができ,本研究で用いた胸郭可動域トレーニングが肋間筋の柔軟性を増加させるのに有効であることを示した。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は,胸郭可動域トレーニングが胸郭の構成体の1つである肋間筋の柔軟性を向上させる手技として有効であるかを検証したもので,呼吸理学療法手技の客観的効果を示した。