第49回日本理学療法学術大会

講演情報

発表演題 ポスター » 内部障害理学療法 ポスター

呼吸3

2014年5月30日(金) 13:30 〜 14:20 ポスター会場 (内部障害)

座長:野添匡史(甲南女子大学看護リハビリテーション学部理学療法学科)

内部障害 ポスター

[0250] 骨盤,脊柱アラインメントが胸郭可動性と呼吸機能に及ぼす影響

武田広道, 岡山裕美, 大工谷新一 (医療法人盈進会岸和田盈進会病院リハビリテーション部)

キーワード:骨盤傾斜角, 胸郭可動性, 呼吸機能

【はじめに,目的】
日々の臨床において円背姿勢を呈する高齢患者を経験する機会がある。円背姿勢を呈する症例は胸郭可動性や呼吸機能の低下をきたすと考えられる。しかし,骨盤後傾角度や脊柱アラインメントのどの因子が呼吸機能や胸郭可動性に影響を及ぼしているかは明らかになっていない。そこで,本研究では胸郭可動性や呼吸機能に影響を与えている要因とその程度を明らかにすることを目的とした。
【方法】
呼吸器系および整形外科学的に問題がなく,喫煙歴のない健常成人男性14名を対象とした。平均年齢は26.3±3.4歳(平均±標準偏差),平均身長は171.3±6.0cm,平均体重は62.6±6.2kgであった。
測定姿勢は,骨盤前後傾中間位,骨盤10°後傾位,骨盤30°後傾位,骨盤50°後傾位の4肢位とした。各々の肢位で呼吸機能検査,および胸郭拡張差,胸腰椎彎曲角度の測定を行った。呼吸機能検査はスパイロメータ(フクダ電子社製)を使用し,肺活量(VC),%肺活量(%VC),予備吸気量(IRV),努力肺活量(FVC),%努力肺活量(%FVC)を測定した。胸郭拡張差は腋窩部レベル(以下,上部)と剣状突起レベル(以下,下部)をメジャーで測定した。胸腰椎彎曲角度はスパイナルマウス(インデックス社製)を使用し計測した。得られた結果から,独立変数を胸椎後彎角度,腰椎後彎角度,骨盤後傾角度,従属変数を呼吸機能と胸郭拡張差として重回帰分析(強制投入法)を行った。なお,有意水準はα=0.05とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
対象者には実験の趣旨及び方法について,十分に説明し同意を得た。
【結果】
得られた重回帰式,標準化係数(以下,β)を以下に示す。
VC=4.17+0.001×胸椎後彎角度+0.08×腰椎後彎角度+(-0.02)×骨盤後傾角度
〔β:胸椎後彎角度=0.02,腰椎後彎角度=0.27,骨盤後傾角度=-0.73〕
FVC=4.14+0.003×胸椎後彎角度+0.02×腰椎後彎角度+(-0.02)×骨盤後傾角度
〔β:胸椎後彎角度=0.08,腰椎後彎角度=0.48,骨盤後傾角度=-0.95〕
IRV=1.95+(-0.05)×胸椎後彎角度+(-0.03)×腰椎後彎角度+(-0.03)×骨盤後傾角度
〔β:胸椎後彎角度=-0.24,腰椎後彎角度=-0.18,骨盤後傾角度=-0.16〕
上部胸郭拡張差=3.64+0.02×胸椎後彎角度+(-0.002)×腰椎後彎角度+(-0.06)×骨盤後傾角度
〔β:胸椎後彎角度=-0.15,腰椎後彎角度=-0.02,骨盤後傾角度=-0.76〕
VC,FVCのβ値から骨盤後傾角度,腰椎後彎角度,胸椎後彎角度の順に影響が大きいことが示された。また影響を与える強さの順番は%VC,%FVCでも同じ結果となった。また,IRVのβ値からは,胸椎後彎角度,腰椎後彎角度,骨盤後傾角度の順に影響が大きいことが示された。同様に,上部胸郭拡張差においては骨盤後傾角度,胸椎後彎角度,腰椎後彎角度の順に影響が大きいことが示された。また影響を与える強さの順番は下部胸郭拡張差でも同じ結果となった。
【考察】
本研究では,呼吸機能と胸郭可動性に影響を及ぼす要因について,胸椎後彎角度,腰椎後彎角度,骨盤後傾角度から検討した。その結果,VC,%VC,FVC,%FVC,は骨盤後傾角度に最も影響され,次に腰椎後彎角度,胸椎後彎角度の順であることが明らかとなった。胸椎後彎角度が増加すると肋骨は下垂し,それに伴い横隔膜前方部も垂れ下がり横隔膜の可動性は低下する。これは,吸気の肋骨後方回旋の制限や,横隔膜の収縮効率低下をきたすためIRVを最も低下させる要因になったと考える。また腰椎後彎角度の増加は強制呼気筋である腹筋群の起始停止間距離の短縮による静止張力の減少を引き起こす。これは呼気機能の低下の要因となると考える。このように胸腰椎後彎角度の増加は呼吸機能や胸郭拡張差に影響を与える要因である。しかし,臨床において胸椎や腰椎後彎角度が単独で増加することは考えにくく,これらは胸腰椎の土台となる骨盤の後傾角度に依存していると推測する。そのためIRV以外は骨盤後傾角度の増加が最も呼吸機能や胸郭拡張差に影響を及ぼしている結果となったと考える。
本研究ではIRV以外は,骨盤後傾角度の増加が最も呼吸機能や胸郭拡張差に影響を及ぼす因子であることが明らかとなった。以上のことより,骨盤アラインメントの改善を優先的に図ることで,呼吸機能や胸郭可動性の改善効果が高いことが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
呼吸機能や胸郭可動性に影響を与えている因子の強弱を明らかにすることで,骨盤,脊柱アラインメントのアプローチを行う上で有用となる。