[0254] 地域在住高齢者における外出頻度と認知機能との関係
キーワード:認知機能, 運動器, 高齢者
【はじめに,目的】
認知症の予防戦略を構築するためには,認知症や認知機能低下に関連する生活習慣を同定することが重要である。近年は,外出を行うことが,認知機能の維持や認知症の予防に関連していることが示され始めている。外出に注目することの利点として,特別な知識・動機づけや環境が不要なため,高齢者にとって行動変容しやすい生活習慣と考えられる点が挙げられる。また,先行研究の動向を踏まえると,外出は,運動器機能が低下した認知機能に対して,特に重要である可能性がある。しかし,運動器機能が,外出と認知機能との関連性に及ぼす影響は不明である。そこで本研究では,地域在住高齢者の運動器機能の程度によって,外出と認知機能との関連性が異なるかどうかを検証した。
【方法】
本研究では,2011年8月~2012年2月に,国立長寿医療研究センター老年学・社会科学研究センターが実施したObu Study of Health Promotion for the Elderly(OSHPE)のデータを解析した。OSHPEは,65歳以上の地域在住高齢者5104名を対象に実施された。本研究では,1)要介護・要支援認定,2)基本的ADLの低下,3)抑うつ・パーキンソン病・脳卒中・アルツハイマー病の既往・現病,および4)解析に用いた変数に欠損のある者を除いた4463名を解析対象者とした。解析に用いた項目は,Mini-Mental State Examination(MMSE),週1回以上の外出の有無,運動器機能の低下有無(基本チェックリストより抜粋),基本属性・疾病状況(性別,年齢,教育歴,高血圧,糖尿病など)であった。MMSEを連続変量とした解析として,週1回以上の外出と運動器機能の低下を独立変数,MMSE得点(0-30点)を従属変数,基本属性・疾病状況を共変量とした二元配置共分散分析を行った。また,カテゴリカルな解析として,対象者を運動器の機能低下の有無で層化した上で,週1回以上の外出を独立変数,MMSE24点以上/未満を従属変数,基本属性・疾病状況の影響を調整変数とした層別ロジスティック回帰分析を行った。
【倫理的配慮,説明と同意】
OSHPEは,国立長寿医療研究センターの倫理・利益相反委員会の承認を得た上で,ヘルシンキ宣言を遵守して実施された。対象者にはOSHPEの主旨・目的を説明し,書面にて同意を得た。
【結果】
共分散分析の結果,MMSE得点(0-30点)に対する外出と運動器機能の交互作用は有意であった。共分散分析後の多重比較を行ったところ,運動器機能が低下していない高齢者では,週1回以上の外出とMMSE得点との間に,有意な関連性は認められなかった(週1回以上:平均26.3点,週1回未満:平均26.0点)。一方,運動器機能が低下した高齢者では,週1回以上外出している者(平均26.0点)の方が,外出していない者(平均24.4点)よりも,MMSE得点が有意に高かった(p<0.001)。また,層別ロジスティック回帰分析により,運動器機能が低下していない高齢者においては,週1回以上の外出が,MMSEが24点以上であることと有意には関連していなかった(調整オッズ比=1.02,95%信頼区間=0.72-1.46)。しかし,運動器機能が低下した高齢者においては,週1回以上外出していることが,MMSEが24点以上であることと有意に関連していた(調整オッズ比=2.16,95%信頼区間=1.04-4.50)。
【考察】
本研究により,運動器機能が低下した高齢者において,外出頻度は認知機能と関連していることが明らかとなった。このことは,外出を行うことは,運動器機能が低下した高齢者の認知機能に対して,特に重要であることを示唆している。先行研究では,外出と認知機能との関連性が報告されているものの,高齢者の特性によって,両者の関連性が異なるかどうかは検証されていない。本研究により,両者の関連性は,高齢者の運動器機能の程度によって異なることが確認された。運動器機能が低下した高齢者においてのみ両者の関連性が認められた理由として,運動器機能が低下した高齢者は,身体・社会活動など認知機能の維持向上に役立つ行動を実践する機会が減少するため,外出という強度の低い行動であっても効果的に作用する可能性が考えられる。一方,運動器機能が維持されている高齢者においては,外出よりも,より強度の高い活動(例:身体活動)の方が,認知機能に対して重要であるかもしれない。今後は縦断的検討により,これらの横断的相互関連性がより厳密に解明されることが期待される。
【理学療法学研究としての意義】
高齢者の自立した生活を維持するためには,認知機能・身体機能の低下を防ぐことが重要である。そのための介入方法を開発することは,理学療法学研究の大きな課題の1つである。外出を促すという介入手法が,一部の高齢者の認知機能向上に効果的である可能性を示した点で,本研究は理学療法研究としての意義があると思われる。
認知症の予防戦略を構築するためには,認知症や認知機能低下に関連する生活習慣を同定することが重要である。近年は,外出を行うことが,認知機能の維持や認知症の予防に関連していることが示され始めている。外出に注目することの利点として,特別な知識・動機づけや環境が不要なため,高齢者にとって行動変容しやすい生活習慣と考えられる点が挙げられる。また,先行研究の動向を踏まえると,外出は,運動器機能が低下した認知機能に対して,特に重要である可能性がある。しかし,運動器機能が,外出と認知機能との関連性に及ぼす影響は不明である。そこで本研究では,地域在住高齢者の運動器機能の程度によって,外出と認知機能との関連性が異なるかどうかを検証した。
【方法】
本研究では,2011年8月~2012年2月に,国立長寿医療研究センター老年学・社会科学研究センターが実施したObu Study of Health Promotion for the Elderly(OSHPE)のデータを解析した。OSHPEは,65歳以上の地域在住高齢者5104名を対象に実施された。本研究では,1)要介護・要支援認定,2)基本的ADLの低下,3)抑うつ・パーキンソン病・脳卒中・アルツハイマー病の既往・現病,および4)解析に用いた変数に欠損のある者を除いた4463名を解析対象者とした。解析に用いた項目は,Mini-Mental State Examination(MMSE),週1回以上の外出の有無,運動器機能の低下有無(基本チェックリストより抜粋),基本属性・疾病状況(性別,年齢,教育歴,高血圧,糖尿病など)であった。MMSEを連続変量とした解析として,週1回以上の外出と運動器機能の低下を独立変数,MMSE得点(0-30点)を従属変数,基本属性・疾病状況を共変量とした二元配置共分散分析を行った。また,カテゴリカルな解析として,対象者を運動器の機能低下の有無で層化した上で,週1回以上の外出を独立変数,MMSE24点以上/未満を従属変数,基本属性・疾病状況の影響を調整変数とした層別ロジスティック回帰分析を行った。
【倫理的配慮,説明と同意】
OSHPEは,国立長寿医療研究センターの倫理・利益相反委員会の承認を得た上で,ヘルシンキ宣言を遵守して実施された。対象者にはOSHPEの主旨・目的を説明し,書面にて同意を得た。
【結果】
共分散分析の結果,MMSE得点(0-30点)に対する外出と運動器機能の交互作用は有意であった。共分散分析後の多重比較を行ったところ,運動器機能が低下していない高齢者では,週1回以上の外出とMMSE得点との間に,有意な関連性は認められなかった(週1回以上:平均26.3点,週1回未満:平均26.0点)。一方,運動器機能が低下した高齢者では,週1回以上外出している者(平均26.0点)の方が,外出していない者(平均24.4点)よりも,MMSE得点が有意に高かった(p<0.001)。また,層別ロジスティック回帰分析により,運動器機能が低下していない高齢者においては,週1回以上の外出が,MMSEが24点以上であることと有意には関連していなかった(調整オッズ比=1.02,95%信頼区間=0.72-1.46)。しかし,運動器機能が低下した高齢者においては,週1回以上外出していることが,MMSEが24点以上であることと有意に関連していた(調整オッズ比=2.16,95%信頼区間=1.04-4.50)。
【考察】
本研究により,運動器機能が低下した高齢者において,外出頻度は認知機能と関連していることが明らかとなった。このことは,外出を行うことは,運動器機能が低下した高齢者の認知機能に対して,特に重要であることを示唆している。先行研究では,外出と認知機能との関連性が報告されているものの,高齢者の特性によって,両者の関連性が異なるかどうかは検証されていない。本研究により,両者の関連性は,高齢者の運動器機能の程度によって異なることが確認された。運動器機能が低下した高齢者においてのみ両者の関連性が認められた理由として,運動器機能が低下した高齢者は,身体・社会活動など認知機能の維持向上に役立つ行動を実践する機会が減少するため,外出という強度の低い行動であっても効果的に作用する可能性が考えられる。一方,運動器機能が維持されている高齢者においては,外出よりも,より強度の高い活動(例:身体活動)の方が,認知機能に対して重要であるかもしれない。今後は縦断的検討により,これらの横断的相互関連性がより厳密に解明されることが期待される。
【理学療法学研究としての意義】
高齢者の自立した生活を維持するためには,認知機能・身体機能の低下を防ぐことが重要である。そのための介入方法を開発することは,理学療法学研究の大きな課題の1つである。外出を促すという介入手法が,一部の高齢者の認知機能向上に効果的である可能性を示した点で,本研究は理学療法研究としての意義があると思われる。