[0260] 携帯型加速度モニタ装置を用いた転倒経験者のSit-to-Walk taskの特徴
Keywords:携帯型加速度モニタ装置, 転倒, Sit-to-Walk task
【目的】
近年,体重心加速度を計測することによって,歩行能力を評価する方法が多くの研究で行われている。これらの研究では,歩行開始や停止を除いた歩行速度の安定した時期を主な分析対象としている。しかし歩行能力を高齢者の転倒から考えた場合,歩行開始時や停止時などの歩行速度に大きな変化がある時期が想定できる。立ち上がって歩く能力を評価する方法に,Sit-to-Walkがある。先行研究では,歩幅や歩隔,振り出しの時間や重心の軌跡は転倒への恐怖心と関係が認められている。しかしSit-to-Walkを三次元動作解析装置および床反力計という高額な機器を用いて評価をしており,現場での導入は容易ではない。そこで本研究において,臨床応用が比較的容易な携帯型加速度モニタ装置を用いてSit-to-Walkを計測し,解析することで,転倒経験のある高齢者の特徴を示すことを目的とした。
【方法】
実験参加者は,元気づくり体操参加者56名,介護老人保健施設の入所者およびデイケア利用者の15名の計71名(平均年齢71±9歳)とした。実験参加者に対して,過去1年以内に屋内平地歩行中に起こった転倒の有無をアンケートにて調査し,転倒群15名と非転倒群56名の2群に分けた。
Sit-to-Walkは,背もたれにもたれた椅坐位からスタートの合図とともに立ち上がり,あらかじめ前方に引いた3mのラインまで歩く動作とした。その際,携帯型加速度モニタ装置を腰部後面に装着し,動作中の加速度をサンプリング周波数50Hzで計測した。
計測されたデータから,開始から1歩目まで,1歩目から2歩目まで,2歩目から3歩目まで,さらに停止の3歩前から停止の2歩前まで,停止の2歩前から停止の1歩前まで,停止の1歩前から停止まで(それぞれ以下,開始1歩目,開始2歩目,開始3歩目,停止3歩前,停止2歩前,停止1歩とする。)に区分した。統計処理は,各区分の鉛直,左右および前後方向の加速度の大きさと転倒の有無について,2要因の分散分析を用いて比較を行った。鉛直,左右および前後方向のピーク値が判別できない転倒群3名,動作遂行の際,6歩に満たない非転倒群7名を除いて分析を行った。さらに交互作用があり,単純主効果があった項目を独立変数,転倒の有無を従属変数とした判別分析(ステップワイズ法)を行った。なお,有意水準は5%未満をもって有意とした。
【説明と同意】
立命館大学研究倫理委員会の承認のもと,全ての被験者に本研究の目的および内容について十分に説明し,同意を得た上で実施した。
【結果】
転倒×加速度の2要因の分散分析を行った結果,転倒と停止3歩前,停止2歩前,停止1歩の前後方向の加速度の大きさのみの交互作用が有意であった(F(2,118)=3.57,p<.05)。単純主効果は停止3歩前(F(1,177)=29.69,p<.01),停止2歩前(F(1,177)=23.71,p<.01),停止1歩(F(1,177)=8.79,p<.01)とも有意であった。さらに下位検定では,転倒群の停止3歩前と停止1歩,非転倒群の停止3歩前と停止2歩前,停止3歩前と停止1歩,停止2歩前と停止1歩が有意であった(それぞれp<.01)。
判別分析の結果は,判別率80.3%(ウィルクスのλ=0.71,p<.01)で転倒群と非転倒群を判別することができ,感度が83.3%,特異度が79.6%であった。選択された変数は停止2歩前で,判別係数は-27.977,定数は3.53932であった。
【考察】
歩行開始と停止の特性を明らかにした先行研究によると,歩行の停止終期の床反力が大きくなる理由として,慣性力を止める力が必要であると述べられている。本研究においても,停止3歩前,停止2歩前,停止1歩の前後方向の加速度の大きさのみが,転倒と交互作用が認められ,歩行開始よりも慣性力を止める必要がある停止の方が,転倒に関与しているという結果が認められた。さらに非転倒群は,停止の際には1歩毎で慣性力を止めることが可能であるが,転倒群は停止の際には1歩毎で慣性力を止めることができず,慣性力を止めるためには2歩必要であるという特徴が認められ,転倒群と非転倒群を判別する指標として,停止2歩前の加速度が重要であることが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
歩行速度に大きな変化がある時期の特徴を明らかにすることによって,転倒の予測が可能となり,転倒要因の解明の一助となるのではないかと考えられる。
近年,体重心加速度を計測することによって,歩行能力を評価する方法が多くの研究で行われている。これらの研究では,歩行開始や停止を除いた歩行速度の安定した時期を主な分析対象としている。しかし歩行能力を高齢者の転倒から考えた場合,歩行開始時や停止時などの歩行速度に大きな変化がある時期が想定できる。立ち上がって歩く能力を評価する方法に,Sit-to-Walkがある。先行研究では,歩幅や歩隔,振り出しの時間や重心の軌跡は転倒への恐怖心と関係が認められている。しかしSit-to-Walkを三次元動作解析装置および床反力計という高額な機器を用いて評価をしており,現場での導入は容易ではない。そこで本研究において,臨床応用が比較的容易な携帯型加速度モニタ装置を用いてSit-to-Walkを計測し,解析することで,転倒経験のある高齢者の特徴を示すことを目的とした。
【方法】
実験参加者は,元気づくり体操参加者56名,介護老人保健施設の入所者およびデイケア利用者の15名の計71名(平均年齢71±9歳)とした。実験参加者に対して,過去1年以内に屋内平地歩行中に起こった転倒の有無をアンケートにて調査し,転倒群15名と非転倒群56名の2群に分けた。
Sit-to-Walkは,背もたれにもたれた椅坐位からスタートの合図とともに立ち上がり,あらかじめ前方に引いた3mのラインまで歩く動作とした。その際,携帯型加速度モニタ装置を腰部後面に装着し,動作中の加速度をサンプリング周波数50Hzで計測した。
計測されたデータから,開始から1歩目まで,1歩目から2歩目まで,2歩目から3歩目まで,さらに停止の3歩前から停止の2歩前まで,停止の2歩前から停止の1歩前まで,停止の1歩前から停止まで(それぞれ以下,開始1歩目,開始2歩目,開始3歩目,停止3歩前,停止2歩前,停止1歩とする。)に区分した。統計処理は,各区分の鉛直,左右および前後方向の加速度の大きさと転倒の有無について,2要因の分散分析を用いて比較を行った。鉛直,左右および前後方向のピーク値が判別できない転倒群3名,動作遂行の際,6歩に満たない非転倒群7名を除いて分析を行った。さらに交互作用があり,単純主効果があった項目を独立変数,転倒の有無を従属変数とした判別分析(ステップワイズ法)を行った。なお,有意水準は5%未満をもって有意とした。
【説明と同意】
立命館大学研究倫理委員会の承認のもと,全ての被験者に本研究の目的および内容について十分に説明し,同意を得た上で実施した。
【結果】
転倒×加速度の2要因の分散分析を行った結果,転倒と停止3歩前,停止2歩前,停止1歩の前後方向の加速度の大きさのみの交互作用が有意であった(F(2,118)=3.57,p<.05)。単純主効果は停止3歩前(F(1,177)=29.69,p<.01),停止2歩前(F(1,177)=23.71,p<.01),停止1歩(F(1,177)=8.79,p<.01)とも有意であった。さらに下位検定では,転倒群の停止3歩前と停止1歩,非転倒群の停止3歩前と停止2歩前,停止3歩前と停止1歩,停止2歩前と停止1歩が有意であった(それぞれp<.01)。
判別分析の結果は,判別率80.3%(ウィルクスのλ=0.71,p<.01)で転倒群と非転倒群を判別することができ,感度が83.3%,特異度が79.6%であった。選択された変数は停止2歩前で,判別係数は-27.977,定数は3.53932であった。
【考察】
歩行開始と停止の特性を明らかにした先行研究によると,歩行の停止終期の床反力が大きくなる理由として,慣性力を止める力が必要であると述べられている。本研究においても,停止3歩前,停止2歩前,停止1歩の前後方向の加速度の大きさのみが,転倒と交互作用が認められ,歩行開始よりも慣性力を止める必要がある停止の方が,転倒に関与しているという結果が認められた。さらに非転倒群は,停止の際には1歩毎で慣性力を止めることが可能であるが,転倒群は停止の際には1歩毎で慣性力を止めることができず,慣性力を止めるためには2歩必要であるという特徴が認められ,転倒群と非転倒群を判別する指標として,停止2歩前の加速度が重要であることが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
歩行速度に大きな変化がある時期の特徴を明らかにすることによって,転倒の予測が可能となり,転倒要因の解明の一助となるのではないかと考えられる。