[0262] 当療養所における下肢筋力の現状と筋力向上の取り組み
Keywords:転倒予防, WBI, HMB
【はじめに】ハンセン病施設である当療養所では,現在70名の入所者が居住し,平均年齢は82歳と高齢化している。平成24年度の転倒転落の報告は69件あり,年々進む高齢化に伴い,入所者の転倒予防が重要な課題となっている。今回,①毎年実施している入所者健診で測定した下肢筋力の経時変化を検討した。次に②リハビリと組み合わせて,筋肉の組織再生を促すアミノ酸,βヒドロキシβメチル酪酸(以下HMB)を含む飲料(以下アバンド)を摂取した効果を筋力と栄養面から検討した。
【方法】①2010年~2013年の4年間,健診時に測定ができた26名(男性14名,女性12名,平均年齢79.5±8.2歳)を対象とし,OG技研製GT-380を用いて体重支持指数(大腿四頭筋最大筋力を体重で除して百分率で表した数値,以下WBI)を測定した。②第I期(2011年12月~2012年2月)は対象者4名(男性2名,女性2名,平均年齢88.0±4.5歳)であり,第II期(2012年10月~12月)は対象者6名(男性3名,女性3名,平均年齢77.8±7.2歳)であった。方法は,週5日間,アバンド1袋(HMB1.2g含有)を250mlの水に溶解した飲料を栄養科が朝食と共に配食し,午前中にリハビリを実施した。測定項目は,運動効果の指標としてWBIを,栄養状態の指標と,HMB付加による腎臓への負担を確認するため,アルブミン(以下Alb),尿素窒素(以下BUN),クレアチニン(以下Cr)の血液生化学検査を行った。終了時にアンケートを実施した。統計解析は,対応のある二つの平均値の差の検定を用いた。
【倫理的配慮】①当所健康安全対策委員会の承認を得た健診項目として実施し,測定を希望した者のみ測定した。②当所倫理委員会の承認を得たあと,対象者に対し文書による説明と同意を得た。
【結果】①対象者のWBI平均値は,2010年58%,2011年54%,2012年49%,2013年51%であり,2010年~2012年は毎年有意に低下した(P<0.05)。2013年は向上したが,2012年との比較で有意差はなかった。②I期およびII期対象者計10名のうち4名が中止となり6名が3ヶ月間の研究を完遂できた。WBIの結果は,開始時68%,終了時68%で変化がなかった。腎機能は,Crと年齢から糸球体ろ過量を推定し,CKD重症度分類に当てはめるとG2が7名,G3a(腎機能軽度低下)が2名,G3b(腎機能中等度低下)が1名であった。G3bの1名は,アバンドの摂取により,BUNが22.2mg/dlから24.7mg/dlへ上昇したが,摂取終了により正常値へ戻った。栄養評価指標のAlbは開始前3.8g/dl,終了時3.8g/dlで変化がなかった。
【考察】①当療養所入所者のWBIは50%前後で,2010年~2012年は毎年4%減少していた。黄川らの研究によると,WBI 40~60%の評価は「歩くことはできるが日常生活動作が困難で痛みを伴う」レベルであった。文献によると,外側広筋の筋線維数の変化は,25歳をピークとして65歳までのおよそ40年間で25%減少し,80歳までの15年間にさらに25%低下する。当療養所の平均年齢は80歳を超えており,筋力低下を予防することは緊急の課題といえる。そこで,筋力向上の取り組みとして行った研究が②である。②10名の対象者のうち4名が中止となった。理由は体調不良3名(平均年齢89.6歳),辞退1名(74歳)である。90歳前後の超高齢者では,体調が変化しやすく,I期の研究期間が冬季であったため風邪等で体調を崩し中止となった。研究が完遂できた6名のWBIは変化がなかった。これは,症例数が少ないこと,HMBの1日量が1.2gと少ないこと(文献では3g/日を推奨),研究期間が短いことなどが考えられる。しかしHMBは高価であり,高齢者ではアバンド2袋(500ml)の飲水が困難なため,量と期間の拡大はできなかった。しかしWBIの結果を詳しく検討すると,向上2名,低下4名であり,向上した2名はアンケートで「アバンドの摂取によりリハビリにやる気が出た」と回答した。低下した4名は,「やる気は変わらない」と回答した。筋力向上はリハビリに取り組む姿勢との関連性があるのではないかと示唆された。Albは研究前後で変化がなかった。当療養所では食事は栄養科が配食している。基準量はエネルギー1800kcal,タンパク質65gであり,すでに管理された環境では栄養状態の改善に結びつきにくかったと考えられる。腎臓への負担は,腎機能低下の人にとっては影響がでる可能性があることが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】当療養所での下肢筋力が毎年低下している現状を明らかにし,他部門と協力して筋力向上の取り組みを行った。今回の検討では,筋力向上の直接的な効果は得られなかったが,リハビリに取り組む姿勢との関連性や,腎臓への負担の可能性を示唆することができた。当研究は国立ハンセン病療養所治療研究として行った。
【方法】①2010年~2013年の4年間,健診時に測定ができた26名(男性14名,女性12名,平均年齢79.5±8.2歳)を対象とし,OG技研製GT-380を用いて体重支持指数(大腿四頭筋最大筋力を体重で除して百分率で表した数値,以下WBI)を測定した。②第I期(2011年12月~2012年2月)は対象者4名(男性2名,女性2名,平均年齢88.0±4.5歳)であり,第II期(2012年10月~12月)は対象者6名(男性3名,女性3名,平均年齢77.8±7.2歳)であった。方法は,週5日間,アバンド1袋(HMB1.2g含有)を250mlの水に溶解した飲料を栄養科が朝食と共に配食し,午前中にリハビリを実施した。測定項目は,運動効果の指標としてWBIを,栄養状態の指標と,HMB付加による腎臓への負担を確認するため,アルブミン(以下Alb),尿素窒素(以下BUN),クレアチニン(以下Cr)の血液生化学検査を行った。終了時にアンケートを実施した。統計解析は,対応のある二つの平均値の差の検定を用いた。
【倫理的配慮】①当所健康安全対策委員会の承認を得た健診項目として実施し,測定を希望した者のみ測定した。②当所倫理委員会の承認を得たあと,対象者に対し文書による説明と同意を得た。
【結果】①対象者のWBI平均値は,2010年58%,2011年54%,2012年49%,2013年51%であり,2010年~2012年は毎年有意に低下した(P<0.05)。2013年は向上したが,2012年との比較で有意差はなかった。②I期およびII期対象者計10名のうち4名が中止となり6名が3ヶ月間の研究を完遂できた。WBIの結果は,開始時68%,終了時68%で変化がなかった。腎機能は,Crと年齢から糸球体ろ過量を推定し,CKD重症度分類に当てはめるとG2が7名,G3a(腎機能軽度低下)が2名,G3b(腎機能中等度低下)が1名であった。G3bの1名は,アバンドの摂取により,BUNが22.2mg/dlから24.7mg/dlへ上昇したが,摂取終了により正常値へ戻った。栄養評価指標のAlbは開始前3.8g/dl,終了時3.8g/dlで変化がなかった。
【考察】①当療養所入所者のWBIは50%前後で,2010年~2012年は毎年4%減少していた。黄川らの研究によると,WBI 40~60%の評価は「歩くことはできるが日常生活動作が困難で痛みを伴う」レベルであった。文献によると,外側広筋の筋線維数の変化は,25歳をピークとして65歳までのおよそ40年間で25%減少し,80歳までの15年間にさらに25%低下する。当療養所の平均年齢は80歳を超えており,筋力低下を予防することは緊急の課題といえる。そこで,筋力向上の取り組みとして行った研究が②である。②10名の対象者のうち4名が中止となった。理由は体調不良3名(平均年齢89.6歳),辞退1名(74歳)である。90歳前後の超高齢者では,体調が変化しやすく,I期の研究期間が冬季であったため風邪等で体調を崩し中止となった。研究が完遂できた6名のWBIは変化がなかった。これは,症例数が少ないこと,HMBの1日量が1.2gと少ないこと(文献では3g/日を推奨),研究期間が短いことなどが考えられる。しかしHMBは高価であり,高齢者ではアバンド2袋(500ml)の飲水が困難なため,量と期間の拡大はできなかった。しかしWBIの結果を詳しく検討すると,向上2名,低下4名であり,向上した2名はアンケートで「アバンドの摂取によりリハビリにやる気が出た」と回答した。低下した4名は,「やる気は変わらない」と回答した。筋力向上はリハビリに取り組む姿勢との関連性があるのではないかと示唆された。Albは研究前後で変化がなかった。当療養所では食事は栄養科が配食している。基準量はエネルギー1800kcal,タンパク質65gであり,すでに管理された環境では栄養状態の改善に結びつきにくかったと考えられる。腎臓への負担は,腎機能低下の人にとっては影響がでる可能性があることが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】当療養所での下肢筋力が毎年低下している現状を明らかにし,他部門と協力して筋力向上の取り組みを行った。今回の検討では,筋力向上の直接的な効果は得られなかったが,リハビリに取り組む姿勢との関連性や,腎臓への負担の可能性を示唆することができた。当研究は国立ハンセン病療養所治療研究として行った。