第49回日本理学療法学術大会

講演情報

発表演題 ポスター » 教育・管理理学療法 ポスター

臨床教育系3

2014年5月30日(金) 13:30 〜 14:20 ポスター会場 (教育・管理)

座長:小林賢(慶應義塾大学病院リハビリテーション科)

教育・管理 ポスター

[0267] 臨床実習前教育と臨床実習判定成績および社会性テストの有用性の検討

森彩子, 武田功, 高見博文, 松尾慎, 小幡太志 (宝塚医療大学保健医療学部)

キーワード:臨床実習, 実習前教育, 社会性テスト

【はじめに,目的】
実習前の教育は臨床実習に向けての準備のみならず,現時点での学力を再確認する上でも非常に重要な要素となる。今回の研究では,本学が行っている「臨床実習前特別講義」と実習判定成績,社会性テストを用いて,その関係性を明らかにするとともに,より効果的な教育の可能性を見いだすことを目的として行った。
【方法】
対象は本学理学療法学科3年生42名(男性31名,女性11名)とした。調査項目は実習前(6月,8月)に行われた実力テスト結果,臨床実習前特別講義の出席回数,評価実習成績(合否)とした。また,社会性を測定するテストとしてはSocial Intelligence Quotient(以下SQ)を使用した。なおSQの測定は評価実習開始直前に行った。これらの項目について,項目ごとに占める評価実習不合格者の割合を算出し,実習合否に対する各要因の傾向を分析した。また,評価実習合否を含めた5項目に対し,Pearsonの相関分析を行った。なお統計処理は,SPSS21.0を使用して行い,有意水準は0.05とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
実施にあたり,対象者には本研究の趣旨を十分に説明し,同意を得た。また,本研究は宝塚医療大学倫理委員会の承認を受けて実施した(受付番号:1306122)。
【結果】
1)評価実習合否に対する各要因の検討
6月実施実力テストの平均得点率は26.55±10.46%,得点率の分布は,11~20%が11名(うち不合格者1名,以下括弧内同じ),21~30%が20名(5名),31~40%が8名(1名),41~50%が2名(1名),71~80%が1名であった。
また8月実施実力テストの平均得点率は35.12±8.25%,得点率の分布は,11~20%が1名,21~30%が11名(4名),31~40%が17名(3名),41~50%が12名(1名),51~60%が1名であった。
臨床実習前特別講義では,全15回の講義に対し,出席回数12回が3名(1名,33%),13回が7名(2名,28%),14回が7名(2名,28%),15回が25名(3名,12%)であった。平均出席回数は14.3回であった。
SQの平均指数は92.45±13.31,指数の分布は,70未満が1名,70~が7名(2名),80~が11名(1名),90~が13名(2名),100~が9名(2名),110~が1名,120~が1名,130以上が1名(1名)であった。
臨床評価実習評定では,C(可)以上であった者が34名,D(不可)または保留が6名,評価実習期間中における中止が2名であった。
2)各項目の関係性の検討
評価実習合否判定を含めた5項目において,6月実施実力テストの得点率と8月実施実力テストの得点率の間に正の相関(r=.442,p<0.01)が認められ,SQと臨床実習前特別講義出席回数の間に弱い正の相関(r=.347,p<0.05)が認められた。
【考察】
1)評価実習合否に対する各要因の検討
①学力に関する検討
6月実施実力テストにおいては,得点率20~30%を中心とした正規分布を示した。それに対し8月は30~40%を中心とした正規分布を示した。一般的に実習が近づくにつれて学生の危機感が増し,加えて8月には定期試験を控えているため,全体的な学習量は増加する。それに伴い学生全体の学力の底上げ効果が出現するが,不合格者は2期において大きな変化はなく,底上げ効果の低さが推察された。
②社会性を含めた情意面に関する検討
「実習前特別講義」の出席回数13回,14回における不合格者占有率には大きな違いはなかったが,15回の皆出席の学生を見れば,全体の60%を占めているにも関わらず不合格者は13%であった。またSQの数値をみると,当然のことながら高得点者が,実習という特別な環境に耐えうる事を示しているが,各区分における不合格者占有率を見た場合ではばらつきが見られるため,この指数のみでは不合格を予測することが困難であった。
2)各項目の関係性の検討
6月実施実力テストの得点率と8月実施実力テストの得点率に関しては,評価実習を迎えるための基礎学力の傾向には大きな変化はなかったと考えられる。
また,SQと臨床実習前特別講義出席回数の関係では,社会性の高低に起因する道徳的観念が出席率へ直接的な影響を及ぼすと推測した。
一方,臨床実習成績と実習前特別講義の出席回数,SQおよび実力テストの得点率の間には相関が認められなかった。臨床実習において学生に求められる要素は非常に多岐にわたる。今回の研究でも,学力面,社会性が臨床実習に複雑に影響することが示された。より詳細な検討を行うことが今後の課題である。
【理学療法学研究としての意義】
学内教育および臨床実習教育の相互の関連性を詳細に調査することで,より効果的な学内教育を行う事が出来ると考える。