[0270] 臨床実習指導者の理想像について
キーワード:臨床実習指導者, 学生, 理想像
【はじめに,目的】
臨床実習において,臨床実習指導者(以下SV)と学生の「SVの理想像」における相違は,指導を進めていく上で,大きな影響を与えることが予測される。実際,両者の認識の違いにより,臨床実習指導が困難な場合がある。今回,SVと臨床実習前の学生に「SVの理想像」についてのアンケート調査を行ったので,ここに報告する。
【方法】
3実習施設52名の理学療法士と臨床実習前のA大学91名の学生を対象に質問紙法を行った。不適切とみなせる処理として,項目の未記入者は除外し,また回答の信頼性保持の為の社会的望ましさ尺度で不適当と判断されたものは除外した。回答方法は自由回答とし,アンケート記入は無記名とした。質問項目は「SVの理想像」について設定した。得られた回答をキーワードで拾い出し,KJ法を用いてカテゴリーに分類した。その結果,「SVの理想像」について,SVと学生の回答を比較・検討した。
【倫理的配慮,説明と同意】
ヘルシンキ宣言に基づき,アンケート対象施設及び学生に対して,口頭および文書にて研究主旨を十分説明し,同意を得て調査を行った。なお,本研究は川﨑病院倫理審査委員会の承認を得た(承認番号2000)。
【結果】
実習施設へのアンケート回収率は92.3%(47名)そのうち過去に学生指導をしたことがある理学療法士を対象に分析を行った。有効回答は34名。学生へのアンケート回収率は100%(91名),有効回答は84名であった。回答をカテゴリーに分類した結果,学生は「教えてくれる36名」,「アドバイスをくれる19名」,「厳しさがある15名」,「感情に左右されずに対応してくれる15名」,「学生のことを考えてくれる15名」,「意見を聞いてくれる14名」,「間違いを指摘してくれる11名」,「一緒に考えてくれる9名」,「理学療法士の楽しさを伝えてくれる6名」,「自分の理想の理学療法士像となる3名」などであった。SVは「能力に合わせた指導ができる20名」,「理学療法士の楽しさを伝える10名」,「学生の理想の理学療法士像となる9名」,「アドバイスができる8名」,「一緒に考えることができる5名」,「教えることができる4名」,「厳しさがある2名」などであった。
【考察】
臨床実習前の学生は,1週間程度の見学実習は経験しているが,臨床現場に触れる機会が少ないため,実習に対してのイメージができていない。そのため,実習に対して,多くの不安や恐怖を頂いていることが予想される。
今回のアンケート調査から,「SVの理想像」について学生は,指導の厳しさを覚悟していた。しかし一方で,叱られることや気分に左右されることなどの感情的な厳しい態度で対応されたくないと回答しており,学生は厳しさについて,肯定的な面と否定的な面を持つことが分かった。また,教えてくれる指導者を望んでおり,一緒に考えて,アドバイスをくれるといった共同的な立場や,否定をせず,意見を聞いてくれる,考えを受け入れて聞いてくれるといった共感的な立場をとる指導者を求めていることが分かった。そして,学生のことを考えてくれる・向き合ってくれることも望んでおり,依存的,受動的な態度が見受けられた。他方,SVは,適切な指導や学生の能力に応じた指導ができると回答しており,学生の能力レベルに合わせた目標設定と指導を重視していることが分かった。また,理学療法士のやりがいを伝えること,学生が目指す理学療法士の理想像を見せるといった仕事のやりがいや楽しさ,イメージを想起させるなど臨床現場を伝えられることが,「SVの理想像」であると考えていることが分かった。この両者の相違は,それぞれの理想像の違いによって起きていると考えた。学生は教員が主なモデルとなっており,SVは自身の実習時のSV,自分の理学療法士の理想像が影響していると考えた。これらのことより,「SVの理想像」を考える上で,学生は,教えてくれる指導が基になっていること,加えて短期的な課題に対して,どう達成するかを注目する傾向にあることにより,ティーチングの視点になっていると考えられた。SVは,実習を理学療法士への第一歩と捉え,長期的な課題を念頭において指導をするため,潜在能力を引き出すというコーチングの視点になっていることが推察された。今後は,実習後の学生の現状把握を行い,最適な「SVの理想像」を明確にすることによって,よりよい臨床実習指導が行える体制の構築を目指していきたい。
【理学療法学研究としての意義】
「SVの理想像」に対するSVと学生との差を把握することは,SVと学生の臨床実習に関する認識を埋めることになると考える。そのことは,学生が臨床実習を通しての行動変容の一助となり,よりよい臨床実習指導の確立へ繋がる。
臨床実習において,臨床実習指導者(以下SV)と学生の「SVの理想像」における相違は,指導を進めていく上で,大きな影響を与えることが予測される。実際,両者の認識の違いにより,臨床実習指導が困難な場合がある。今回,SVと臨床実習前の学生に「SVの理想像」についてのアンケート調査を行ったので,ここに報告する。
【方法】
3実習施設52名の理学療法士と臨床実習前のA大学91名の学生を対象に質問紙法を行った。不適切とみなせる処理として,項目の未記入者は除外し,また回答の信頼性保持の為の社会的望ましさ尺度で不適当と判断されたものは除外した。回答方法は自由回答とし,アンケート記入は無記名とした。質問項目は「SVの理想像」について設定した。得られた回答をキーワードで拾い出し,KJ法を用いてカテゴリーに分類した。その結果,「SVの理想像」について,SVと学生の回答を比較・検討した。
【倫理的配慮,説明と同意】
ヘルシンキ宣言に基づき,アンケート対象施設及び学生に対して,口頭および文書にて研究主旨を十分説明し,同意を得て調査を行った。なお,本研究は川﨑病院倫理審査委員会の承認を得た(承認番号2000)。
【結果】
実習施設へのアンケート回収率は92.3%(47名)そのうち過去に学生指導をしたことがある理学療法士を対象に分析を行った。有効回答は34名。学生へのアンケート回収率は100%(91名),有効回答は84名であった。回答をカテゴリーに分類した結果,学生は「教えてくれる36名」,「アドバイスをくれる19名」,「厳しさがある15名」,「感情に左右されずに対応してくれる15名」,「学生のことを考えてくれる15名」,「意見を聞いてくれる14名」,「間違いを指摘してくれる11名」,「一緒に考えてくれる9名」,「理学療法士の楽しさを伝えてくれる6名」,「自分の理想の理学療法士像となる3名」などであった。SVは「能力に合わせた指導ができる20名」,「理学療法士の楽しさを伝える10名」,「学生の理想の理学療法士像となる9名」,「アドバイスができる8名」,「一緒に考えることができる5名」,「教えることができる4名」,「厳しさがある2名」などであった。
【考察】
臨床実習前の学生は,1週間程度の見学実習は経験しているが,臨床現場に触れる機会が少ないため,実習に対してのイメージができていない。そのため,実習に対して,多くの不安や恐怖を頂いていることが予想される。
今回のアンケート調査から,「SVの理想像」について学生は,指導の厳しさを覚悟していた。しかし一方で,叱られることや気分に左右されることなどの感情的な厳しい態度で対応されたくないと回答しており,学生は厳しさについて,肯定的な面と否定的な面を持つことが分かった。また,教えてくれる指導者を望んでおり,一緒に考えて,アドバイスをくれるといった共同的な立場や,否定をせず,意見を聞いてくれる,考えを受け入れて聞いてくれるといった共感的な立場をとる指導者を求めていることが分かった。そして,学生のことを考えてくれる・向き合ってくれることも望んでおり,依存的,受動的な態度が見受けられた。他方,SVは,適切な指導や学生の能力に応じた指導ができると回答しており,学生の能力レベルに合わせた目標設定と指導を重視していることが分かった。また,理学療法士のやりがいを伝えること,学生が目指す理学療法士の理想像を見せるといった仕事のやりがいや楽しさ,イメージを想起させるなど臨床現場を伝えられることが,「SVの理想像」であると考えていることが分かった。この両者の相違は,それぞれの理想像の違いによって起きていると考えた。学生は教員が主なモデルとなっており,SVは自身の実習時のSV,自分の理学療法士の理想像が影響していると考えた。これらのことより,「SVの理想像」を考える上で,学生は,教えてくれる指導が基になっていること,加えて短期的な課題に対して,どう達成するかを注目する傾向にあることにより,ティーチングの視点になっていると考えられた。SVは,実習を理学療法士への第一歩と捉え,長期的な課題を念頭において指導をするため,潜在能力を引き出すというコーチングの視点になっていることが推察された。今後は,実習後の学生の現状把握を行い,最適な「SVの理想像」を明確にすることによって,よりよい臨床実習指導が行える体制の構築を目指していきたい。
【理学療法学研究としての意義】
「SVの理想像」に対するSVと学生との差を把握することは,SVと学生の臨床実習に関する認識を埋めることになると考える。そのことは,学生が臨床実習を通しての行動変容の一助となり,よりよい臨床実習指導の確立へ繋がる。