[0273] 左右広背筋椎骨部及び肋骨部線維筋厚の比較検討
Keywords:超音波, 広背筋, 左右差
【はじめに,目的】
我々は健常成人の胸郭形状の分析から定型的な左右差を有することを見出し,胸郭に直接的に関係する左右同筋の機能差について分析している。広背筋は椎骨部・肋骨部・腸骨部・肩甲骨部の4つの部分の起始を持つと言われているが,このうち肋骨部から起こる線維は下位胸郭に付着しており,胸郭形状の偏位にその機能は依存し,左右の同線維において機能差が生じるものと考える。また,一側の胸郭における上位肋骨と下位肋骨の回旋位の相違の存在により,同側での4つの広背筋線維間でも機能差が生じるものと考えられる。このように広背筋の各線維における筋厚の左右差を,左右の広背筋の機能差を招く一要因として考えている。そこで今回は,広背筋の筋厚の左右差を線維別に調査し,興味ある知見が得られたので報告する。
【方法】
対象は健常成人男性8名(年齢23.3±2.0歳,身長173.6±3.8cm,体重68.7±4.1kg)とした。広背筋の筋厚は,デジタル超音波診断装置(MyLab25,株式会社日立メディコ,東京)を用いて測定した。測定肢位は腹臥位とし,安静呼気終末の背部超音波画像を静止画像にて記録した。測定部位は,広背筋椎骨部線維(以下椎骨線維)と広背筋肋骨部線維(以下肋骨線維)とした。椎骨線維は,両上後腸骨稜(以下PSIS)を結ぶ線に平行な線上で,第10胸椎棘突起から5cm外側の位置で測定した。肋骨線維は,PSISと腋窩を結ぶ線上で第10肋骨上端を基準に測定した。なお上記測定部位にマーキングをし,プローブの当てる位置を定めた。左右とも各線維3回ずつ測定し,各施行の平均値を算出した。得られた超音波画像は,米国国立衛生研究所の配布している画像処理,解析用のフリーソフトウェアImageJを用いて処理,計測を行った。統計処理は,各線維における筋厚の左右差については対応のあるt検定を実施し,左右差の椎骨線維,肋骨線維間の比較はF検定した後t値を算出した。なお有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
ヘルシンキ宣言に沿い,各対象者に対して本研究内容の趣旨を十分に説明し本人の承諾を得た上で計測を実施した。
【結果】
椎骨線維筋厚は右3.6±0.4mm,左3.7±0.3mmで有意差はなかった。肋骨線維筋厚は右6.5±1.4mm,左5.5±1.3mmで右が有意に厚かった(p<0.01)。左右での筋厚差は,右椎骨線維が左に対し1.0±0.1倍,右肋骨線維が左に対し1.2±0.1倍で,有意に肋骨線維の左右差が大きかった(p<0.01)。
【考察】
本研究の結果,広背筋の線維によって筋厚の左右差の有無が異なるということが分かった。椎骨から起こる線維に関してはほぼ左右差がない結果となった。これに対し肋骨から起こる線維は右側の方が厚いことが分かった。これまでにも筋厚と筋力,筋厚と年齢等の関係性に関する研究はあったが,本研究では同一筋において左右差があり,さらに同一筋内においても線維によって左右差の有無が異なるという興味深い結果となった。この要因はいくつか考えられる。まず,広背筋の起始,停止の位置関係,つまり胸郭形状が左右非対称であるということである。胸郭形状に左右差があることで,広背筋の筋長や張力にも左右差が生じている可能性がある。または,肋椎関節の剛性が影響している可能性もある。広背筋肋骨線維付着部は肋骨の外側部であるため,仮に肋椎関節の剛性が低いとすると起始部である肋骨が不安定な状態となり安定した筋収縮が得にくい可能性がある。
【理学療法学研究としての意義】
臨床上,左側広背筋,右側大殿筋からなる斜走線維の機能低下を有する症例を多く経験する。歩行安定や除痛を図る過程において,左側広背筋の機能再構築は重要であると考える。今後,広背筋腸骨部線維つまり胸腰筋膜の機能特性や,肋椎関節の剛性および筋厚との関係性を調査し胸郭形状が筋機能に及ぼす影響について解明していくことで,理学療法を展開していく上でのより有益な情報を得ることが出来ると考える。
我々は健常成人の胸郭形状の分析から定型的な左右差を有することを見出し,胸郭に直接的に関係する左右同筋の機能差について分析している。広背筋は椎骨部・肋骨部・腸骨部・肩甲骨部の4つの部分の起始を持つと言われているが,このうち肋骨部から起こる線維は下位胸郭に付着しており,胸郭形状の偏位にその機能は依存し,左右の同線維において機能差が生じるものと考える。また,一側の胸郭における上位肋骨と下位肋骨の回旋位の相違の存在により,同側での4つの広背筋線維間でも機能差が生じるものと考えられる。このように広背筋の各線維における筋厚の左右差を,左右の広背筋の機能差を招く一要因として考えている。そこで今回は,広背筋の筋厚の左右差を線維別に調査し,興味ある知見が得られたので報告する。
【方法】
対象は健常成人男性8名(年齢23.3±2.0歳,身長173.6±3.8cm,体重68.7±4.1kg)とした。広背筋の筋厚は,デジタル超音波診断装置(MyLab25,株式会社日立メディコ,東京)を用いて測定した。測定肢位は腹臥位とし,安静呼気終末の背部超音波画像を静止画像にて記録した。測定部位は,広背筋椎骨部線維(以下椎骨線維)と広背筋肋骨部線維(以下肋骨線維)とした。椎骨線維は,両上後腸骨稜(以下PSIS)を結ぶ線に平行な線上で,第10胸椎棘突起から5cm外側の位置で測定した。肋骨線維は,PSISと腋窩を結ぶ線上で第10肋骨上端を基準に測定した。なお上記測定部位にマーキングをし,プローブの当てる位置を定めた。左右とも各線維3回ずつ測定し,各施行の平均値を算出した。得られた超音波画像は,米国国立衛生研究所の配布している画像処理,解析用のフリーソフトウェアImageJを用いて処理,計測を行った。統計処理は,各線維における筋厚の左右差については対応のあるt検定を実施し,左右差の椎骨線維,肋骨線維間の比較はF検定した後t値を算出した。なお有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
ヘルシンキ宣言に沿い,各対象者に対して本研究内容の趣旨を十分に説明し本人の承諾を得た上で計測を実施した。
【結果】
椎骨線維筋厚は右3.6±0.4mm,左3.7±0.3mmで有意差はなかった。肋骨線維筋厚は右6.5±1.4mm,左5.5±1.3mmで右が有意に厚かった(p<0.01)。左右での筋厚差は,右椎骨線維が左に対し1.0±0.1倍,右肋骨線維が左に対し1.2±0.1倍で,有意に肋骨線維の左右差が大きかった(p<0.01)。
【考察】
本研究の結果,広背筋の線維によって筋厚の左右差の有無が異なるということが分かった。椎骨から起こる線維に関してはほぼ左右差がない結果となった。これに対し肋骨から起こる線維は右側の方が厚いことが分かった。これまでにも筋厚と筋力,筋厚と年齢等の関係性に関する研究はあったが,本研究では同一筋において左右差があり,さらに同一筋内においても線維によって左右差の有無が異なるという興味深い結果となった。この要因はいくつか考えられる。まず,広背筋の起始,停止の位置関係,つまり胸郭形状が左右非対称であるということである。胸郭形状に左右差があることで,広背筋の筋長や張力にも左右差が生じている可能性がある。または,肋椎関節の剛性が影響している可能性もある。広背筋肋骨線維付着部は肋骨の外側部であるため,仮に肋椎関節の剛性が低いとすると起始部である肋骨が不安定な状態となり安定した筋収縮が得にくい可能性がある。
【理学療法学研究としての意義】
臨床上,左側広背筋,右側大殿筋からなる斜走線維の機能低下を有する症例を多く経験する。歩行安定や除痛を図る過程において,左側広背筋の機能再構築は重要であると考える。今後,広背筋腸骨部線維つまり胸腰筋膜の機能特性や,肋椎関節の剛性および筋厚との関係性を調査し胸郭形状が筋機能に及ぼす影響について解明していくことで,理学療法を展開していく上でのより有益な情報を得ることが出来ると考える。