第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 ポスター » 運動器理学療法 ポスター

骨・関節5

Fri. May 30, 2014 1:30 PM - 2:20 PM ポスター会場 (運動器)

座長:関誠(帝京大学福岡医療技術学部理学療法学科)

運動器 ポスター

[0274] 鎖骨遠位端骨折の術後成績

村田聡, 小野寺智亮, 梅田健太郎, 荒木浩二郎, 菅原亮太, 瀬戸川美香, 谷口達也 (医療法人徳洲会札幌徳洲会病院整形外科外傷センター)

Keywords:鎖骨遠位端骨折, インプラント, 術後成績

【はじめに】鎖骨遠位端骨折術後の肩関節機能を十分に検討した報告は少ない。骨接合に使用されるインプラントには肩鎖関節制動型のClavicle hook plate(以下,hook plate)や肩鎖関節が制動されない鎖骨遠位設置型plate(以下,遠位plate)などが挙げられるが,手術方法については一定の見解が得られていない。今回当院での鎖骨遠位端骨折患者の術後成績をインプラント別で比較調査したので報告する。
【方法】対象は2011年12月から2013年5月までに観血的骨接合術を施行された鎖骨遠位端骨折患者9例9肢。平均年齢41.1±18.5歳,男性7例,女性2例。収集項目は,骨折型(Craig分類),使用インプラント,手術方法,理学療法継続期間,肩関節ROMが健側差無しまでに要した期間,術後6週の肩関節ROM(屈曲・外転),疼痛(VAS)。最終評価時の肩関節ROM(屈曲・外転),疼痛(VAS),患者満足度(VAS),Constant score,肩関節JOA score。理学療法終了後の抜釘の有無。統計解析はノンパラメトリック手法,Mann-Whitney U検定で異なる手術方法の2群間比較を行った(P<0.05)。
【倫理的配慮,説明と同意】当院倫理委員会の承認を得た後,対象に口頭と文書で説明し同意を得た。
【結果】骨折型はCraig分類Type2が4例,Type3が1例,Type4が1例,Type5が3例。手術方法はhook plate群が4例,遠位plate群は5例であった。後療法は全例術翌日から疼痛に応じて肩関節自他動ROMexが開始された。一定期間肩関節屈曲・外転ROMが90°以下に制限された例がhook plate群で3例,遠位plate群で1例存在した。
理学療法継続期間はhook plate群15.2週,遠位plate例8.8週で両群間に有意差を認めた。術後6週での肩関節ROMはhook plate群で屈曲146.2°,外転145°,遠位plate群で屈曲155°,外転145°となり,最終評価時の肩関節ROMはhook plate群で屈曲170°,外転171.2°,遠位plate群で屈曲162°,外転151°となり術後6週と最終評価時ともに両群間で有意差は認めなかった。肩関節ROMが健側差無しまでに要した期間はhook plate群13.2週,遠位plate群7週であり遠位plateで有意に短い結果となった。疼痛は術後6週で,hook plate群31.7mm,遠位plate群7.2mm,最終評価ではhook plate群9.7.mm,遠位plate群5.4mmとなり,術後6週のみ遠位plate群が有意に低かった。術後6週での疼痛部位はhook plate群で全例肩関節挙上運動時に肩鎖関節や肩峰周囲に認め,遠位plate群では2例で屈曲時に腋窩や肩関節後面に疼痛を認めた。
最終評価時のConstant scoreはhook plate群89.6/100点,遠位plate群88.8/100点,肩関節JOA scoreはhook plate群91.7/100点,遠位plate群91.7/100点となり,両評価ともに有意差は認めなかった。患者満足度はhook plate群86.2/100mm,遠位plate群91/100mmとなり両群共に高値となった。理学療法終了後の抜釘は遠位plate群で1例,hook plate群で全例行われていた。
【考察】今回,インプラントの違いによる2群間で肩関節ROM・constant score・肩関節JOA scoreの機能評価に有意差は認めなかったが,術後6週での疼痛には有意差を認めた。hook plate群で認めた肩鎖関節や肩峰周囲の疼痛は,hookの先端が肩関節近傍に達する侵襲の影響や肩峰へ加わる応力が大きい事,肩鎖関節が制動されることによる肩峰下インピンジメントなどの影響が考えられる。しかし,最終評価での疼痛はhook plate群で残存する傾向にはあったが有意差は認めず,hook plate設置により構造的な問題で生じていたと考えられた疼痛が軽減した。村上(2012)によりhook plateのmigrationは56%に,Deepak(2012)により肩峰下erosionは50%と高率に出現したとされている。本研究の対象にもhook plateのmigrationや肩峰下のerosionにより,肩鎖関節の可動性が再構築された可能性が示唆される。実際にhook plate抜去時の所見として,4例中2例にhook plateのmigrationや肩峰下のerosionの所見が確認された。また,体幹伸展に伴う肩甲骨の後傾,胸鎖関節の運動が代償的に働いたことが疼痛軽減の要因として考えられる。
理学療法継続期間では遠位plate群で有意に短い結果となったが,これは肩関節ROMの回復に要した期間が遠位plate群で短かった事が要因であると推察された。hook plate群でROMの回復に時間を要した理由は,疼痛が比較的大きかったためROMの改善が遅れたこと,肩鎖関節制動による肩関節ROM改善の遅延が影響していると考える。
【理学療法学研究としての意義】本研究により鎖骨遠位端骨折症例の術後成績と,手術方法別での成績の傾向を示すことが出来たが,今後は症例数を蓄積することが非常に重要である。また,本研究の結果をもとに,整形外科医と密に連携をとることで,手術から後療法までの最良な治療方針の構築の一助になると考える。