第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 ポスター » 運動器理学療法 ポスター

骨・関節5

Fri. May 30, 2014 1:30 PM - 2:20 PM ポスター会場 (運動器)

座長:関誠(帝京大学福岡医療技術学部理学療法学科)

運動器 ポスター

[0276] 上腕骨骨頭切除術を施行した症例に対するサポーターの試み

牛越浩司, 西風宏将, 吉原大貴, 高田裕恵 (安曇野赤十字病院)

Keywords:肩関節, 上腕骨近位端骨折, 上腕骨骨頭切除術

【はじめに】上腕骨骨頭を除去する症例は,悪性腫瘍の切除や疼痛の緩和などを目的に行なわれるが,肩関節機能の再建を断念することを意味しており,その機能的損失は甚大である。今回我々は,上腕骨近位端骨折に対し観血的整復固定術を施行後,感染症から上腕骨頭除去術を余儀なくされた症例に対し,機能的サポーターを使用し,若干の効果を得られたため報告する。
【同意】今回の発表については院内倫理委員会の承認,症例の同意を得ている。
【症例紹介】症例は80代,女性,元々Parkinsonizm,うつ病にて服薬治療をされており,ADLは自立していたが,全般的に活動量は低下していた。階段中段から落ち,上腕骨近位端骨折(3part)を受傷。外科頚と解剖頚にて骨折しており,骨頭部分は脱臼していた。骨頭は腕神経叢を圧排していたものの,神経叢の損傷は見られなかった。2日後観血的整復固定術(TRYGEN)を施行したが,腕神経叢麻痺を併発していた。
【経過】固定手術実施後,この時点でMMT三角筋0,上腕二頭筋2,上腕三頭筋0,手根伸筋0,手指伸筋0,手指屈筋2であった。5週間の入院リハを行なったが,左上肢は肩関節周囲の疼痛が強く,麻痺もあったためリハ中は物を上から抑える程度の使用は出来たものの,ADLへの参加はなく,日中は不使用であった。退院後も自宅では肩関節周囲の疼痛は残存しており,左上肢は愛護的な姿勢を終始とり続け,ほとんど使用していなかった。精神的な落ち込みもあり,リハビリ意欲は低下したままであった。5か月後,感染症により抜釘術および上腕骨骨頭除去術を施行した。骨頭切除後,疼痛は軽減しており,神経症状の改善もみられた。筋力は三角筋1+,上腕二頭筋3,上腕三頭筋1+,手根伸筋2,手指屈筋3であった。しかし,長期間左上肢の疼痛回避,不使用から術後もADL上では不使用を続けていた。そこで,機能的サポーターを利用しての左上肢のADL参加度の向上を目指した。
【サポーターの紹介】ダイヤ工業株式会社「High Performance プレミアム ショルダーサポーター」(以下サポーター)を使用。このサポーターは肩甲上腕関節を圧迫し筋の収縮性を向上させ関節の結合力を高めると伴にリフトアップベルトで三角筋,棘上筋のサポートを行なうものである。本来,スポーツ場面で使用されるものであるが,重度の機能障害を有する肩関節に利用した。
【結果】13週の入院リハを行なったが,その間上記サポーターを装着してのリハに取り組んだ。サポーターを装着することで疼痛の軽減が得られ,テーブルサンディングや自動介助運動,両手を使用した創作活動を行ない,筋力強化,意欲の賦活に努めた。その結果,筋力は三角筋2+,上腕二頭筋3+,上腕三頭筋3,手根伸筋2,手指屈筋3とわずかながら改善した。肩甲骨面拳上では40°拳上できるようになり,OTの創作活動場面での左上肢使用度が増加した。ADLでは左上肢で物を押さえたりつまんで固定するなどの補助手的な役割で使用する場面がみられるようになり,実際には上着の紐の結着動作や歩行中物品を運んだりなどの左上肢を使おうという意識,意欲が表れてきた。
【考察】上腕骨骨頭切除術は深刻な機能的損失をまねく。拳上90°まで可能になったという報告はあるが,本症例のように高齢,神経麻痺,長期不使用による運動器の廃用,精神的な低下を考えると左上肢の使用は絶望的であると思われた。実際本術式を選択した背景には,人工骨頭という選択肢もあったが疼痛や意欲の低下から考えリハビリ的に耐えられないだろうという判断からのものである。このような状況下でサポーターを使用することは,疼痛軽減といった効果もあり容易に患者に受け入れられた。今回紹介したサポーターは,股関節ガードルストーン法後に装着する機能的サポーターと同様に,肩関節の安定性向上に効果があると思われる。