第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 ポスター » 運動器理学療法 ポスター

骨・関節6

Fri. May 30, 2014 1:30 PM - 2:20 PM ポスター会場 (運動器)

座長:工藤波子(大阪市立大学医学部附属病院リハビリテーション部)

運動器 ポスター

[0277] 人工股関節全置換術周術期におけるカフパンピング方法の違いによる大腿静脈血流速度の変化

竹中裕1, 吉井秀仁1, 松橋彩2, 吉岡大輝2 (1.社団医療法人かなめ会山内ホスピタルリハビリテーション科, 2.社団医療法人かなめ会山内ホスピタル整形外科)

Keywords:人工股関節全置換術, 深部静脈血栓症, カフパンピング

【はじめに,目的】
日本整形外科学会が推奨する深部静脈血栓症(以下DVT)の予防策として,足関節の底背屈運動(以下カフパンピング)が挙げられる。健常者を対象に下肢静脈をエコーで観察し,静脈血流速度改善に有効なカフパンピングの方法を報告した研究は散見されるが,人工関節周術期患者の術後早期における同様の報告はない。本研究の目的は,人工股関節全置換術(以下THA)患者の術前および術後早期のカフパンピングによる大腿静脈血流速度の変化を調査し,術後早期でも可能かつ効率的な運動を提案することである。
【方法】
対象は,2013年4月~11月の8ヵ月間に当院で施行されたTHA患者のうち,計測可能であった14症例15関節(男性:女性=5:9,平均年齢58.9±10.7歳)。計測項目は,患側大腿静脈における安静時およびカフパンピング時の10秒間の静脈平均血流速度(cm/sec 以下:平均流速),1分間に実施可能であったカフパンピング回数(以下,運動回数)で,これらを術前,術翌日,術翌々日に計測した。足関節運動項目は自動運動(以下:自動),他動運動(以下:他動),自動介助運動(以下:自動介助),自動運動15回/分(以下:自動15)の4項目である。運動回数の設定について,自動では,術前は60回/分,術後は同条件で行いつつ患者自身が可能であった運動回数をカウントした。他動および自動介助は術前術後とも60回/分で行った。運動は計測前に可動範囲を大きく行うよう指導し,10回試行した上での計測を実施した。測定条件として,肢位は病棟ベッド仰臥位・膝関節軽度屈曲位とした。なお,弾性ストッキングについて,術前は非着用,術後は着用での計測とした。計測する項目順は,計測日毎に乱数表を用いてランダム化した。平均流速は超音波診断装置Viamo®(東芝メディカルシステムズ社製)リニアプローブ(12MHZ)を用いて行い,パルスドプラ法で計測した。全症例,機器の操作・超音波照射は医師が実施した。統計処理については,統計ソフト「R2.8.1」を用いてノンパラメトリック検定を行い,危険率5%未満を有意水準とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
ヘルシンキ宣言に基づき,被験者全員に研究の目的・方法の説明を行い,書面にて同意を得た。
【結果】
平均流速(cm/sec)は,安静-自動-他動-自動介助-自動15の順に,術前は6.9±2.9-11.4±4.9-8.6±3.1-13.6±6-11.8±5.4,術翌日は7.2±2.2-10.1±4.2-8.2±2.9-10.8±3.1-9.2±3.4,術翌々日は8±3.2-11.3±3.7-9.3±3.1-12.4±3.8-11.2±3.3であった。有意差がみられた項目は,全ての計測日における安静および他動と自動・自動介助・自動15,術前および術翌々日の自動介助と自動・自動15,術翌日の自動介助と自動15の間であった。安静臥位時に比べた平均流速の変化率(%)は,自動-他動-自動介助-自動15の順に,術前165-126-198-171,術翌日141-115-151-129,術翌々日142-118-156-140であった。自動運動回数は,術前51.3±13.1回/分,術翌日32.7±13.8回/分,術翌々日48.2±14.2回/分であった。
【考察】
術前に比べて術後早期に平均流速改善効果が減少した理由として,全身状態の低下や併発症が原因で,術前と同じ回数での運動が困難であったことが考えられる。一方,術翌日と翌々日には,自動15は自動と比べて平均流速増加率がやや減少するものの有意差が見られなかった。ここから,術後,自動運動回数を十分に行えなくても,ゆっくりでも可動域を大きく運動を行えば一定の効果を得られることが分かった。他動運動は筋ポンプ作用が機能せず,血流改善効果に欠けると報告されているが,本研究の結果においても自動や自動15と比べて同様であった。一方,自動介助運動は,可動域を補完しつつ筋ポンプ作用を発揮することができるため,術後早期でも効果を得られる方法であり,理学療法士によるDVT予防のための運動指導・治療実施の有用性が示唆された。本研究の反省点として,今回設定したカフパンピング方法では,術前に比べ,術後早期に自動運動での平均流速の増加率が芳しくなかったことが挙げられる。理学療法士が治療として関わる時間は限られるため,DVT予防には患者自身が流速改善に有効な自動運動を習得することが重要である。今後の課題として,術後早期から術前の流速改善効果に近づける自動運動でのカフパンピング方法の構築,運動回数の設定が挙げられる。
【理学療法学研究としての意義】
本研究により,THA術後早期患者のカフパンピングによる平均流速変化の傾向を明らかにすることができた。術後早期から可能な限りDVT予防効果を維持できる運動方法を指導・実践することは,臨床場面において,DVT発生率の減少に結びつくと考える。