[0279] 人工股関節全置換術施行患者の痛みに対する破局的思考の評価
Keywords:Pain Catastrophizing Scale, 人工股関節全置換術, 評価
【はじめに,目的】
変形性股関節症患者が抱える疼痛は病期に関わらず存在し,慢性化により身体面のみならず心理面にまで影響を及ぼすと言われている。我々は,人工股関節全置換術(THA)施行後において,痛みに対する悲観的・否定的な感情は術後経過に影響を及ぼす因子の一つではないかと考えている。その悲観的・否定的な感情を表す状態としてPain Catastrophizing(破局的思考)が挙げられる。破局的思考と膝関節疾患を対象にした報告は多くあるが,これまで股関節疾患を対象に破局的思考がどのように影響するか調査した報告はみられない。本研究は,当院で施行しているTHA後の患者を対象に,破局的思考と術後経過との関連性を調査し,術前・後の評価項目としての意義について考察することを目的とした。
【方法】
平成23年4月から平成25年10月までの間に当院にてTHAを施行した女性17例(46~81歳:平均年齢64.8±10.7歳)を対象とした。全て片側例であり,平均在院日数は74.4±28.9日であった。評価時に質問紙の聴取困難やデータ欠損がある例は除外した。痛みに対する心理面の測定として,破局的思考の尺度として妥当性が示されているPain Catastrophizing Scale(PCS)を使用した。評価項目は,PCS,術後2週での歩行能力と股関節屈曲角度,在院日数とした。PCSは術前1~2日と術後2週に面接方式で聴取した。歩行能力と股関節屈曲角度,在院日数はカルテより後方視的に調査した。歩行能力の基準は,対象が術後2週時点で病棟もしくは院内を自立して移動している手段とし,歩行器や杖などを使用して移動している歩行自立群,車いすで移動している非自立群の2群に分けた。対象全例において術前・後PCSと股関節屈曲角度,年齢,在院日数との関連性をSpearmanの順位相関係数を用いて分析した。また,歩行自立群,非自立群間におけるPCS下位項目の反芻,無力感,拡大視を比較しMann-WhitneyのU検定を用いて分析した。なお,PCS総得点,各項目は全て中央値を採用した。有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は事前に当院倫理委員会の承認を得ておこなった。対象にはヘルシンキ宣言に則り,研究の要旨および目的,研究への参加の任意性と同意撤回の自由およびプライバシー保護について文書および口頭にて充分な説明を行い,署名による同意を得た。
【結果】
各因子との相関関係において,在院日数と術前PCS(r=0.551),術後PCS(r=0.499)において高い相関関係が認められた。年齢と術前PCS(r=0.187),術後PCS(r=0.141),股関節屈曲角度と術前PCS(0.357),術後PCS(0.173)では相関は認められなかった。
歩行自立度2群間での比較において,術後PCS下位項目の拡大視で非自立群が高くなる傾向が認められた(p=0.064)。
【考察】
術前・術後PCSと在院日数に相関がみられ,年齢,関節屈曲角度とは関連性がみられなかった。PCSと在院日数の関連において,相関係数をみると術前が高く,術前PCSが在院日数とより強く関連することが推測された。THAが適応される患者は罹患期間が長く,長期的な疼痛が生活動作,夜間睡眠に影響しているといわれている。また,術前から人工関節への不安が強い例では在院日数が長くなることが報告されている。臨床では術前からの疼痛管理を行い,術後経過や病期に応じた予後の説明をできる限り正確に行っていく必要性があると考える。
歩行自立度2群間の比較では,非自立群において術後拡大視が高値である傾向がみられ,術後拡大視の残存は歩行能力に影響することが示唆された。拡大視の質問項目は「何かひどいことが起きるのではないかと思う」,「痛みがひどくなるのではないかと怖くなる」などである。術後2週時点で,痛みに対する不安や恐怖を抱えている心理状態が活動制限を招き,早期の歩行獲得に影響したと考えられる。このような患者に対しては,個々の症例に応じて,痛みに対するマネジメントが重要であると考える。
【理学療法学研究としての意義】
本研究の結果から,PCSとTHA後の在院日数が関連し,下位項目の拡大視は歩行獲得時期に影響することがわかった。PCSはTHA後の歩行獲得時期,在院日数の予測因子の一つとして活用できる可能性が示唆され,THA前後の痛みに対する破局的思考を捉える一評価として有効と考える。今後の課題としては,術後の中・長期的な評価や,術前・後の機能的評価と痛みに対する認知面との関連性などを加味しての検討が必要と考える。
変形性股関節症患者が抱える疼痛は病期に関わらず存在し,慢性化により身体面のみならず心理面にまで影響を及ぼすと言われている。我々は,人工股関節全置換術(THA)施行後において,痛みに対する悲観的・否定的な感情は術後経過に影響を及ぼす因子の一つではないかと考えている。その悲観的・否定的な感情を表す状態としてPain Catastrophizing(破局的思考)が挙げられる。破局的思考と膝関節疾患を対象にした報告は多くあるが,これまで股関節疾患を対象に破局的思考がどのように影響するか調査した報告はみられない。本研究は,当院で施行しているTHA後の患者を対象に,破局的思考と術後経過との関連性を調査し,術前・後の評価項目としての意義について考察することを目的とした。
【方法】
平成23年4月から平成25年10月までの間に当院にてTHAを施行した女性17例(46~81歳:平均年齢64.8±10.7歳)を対象とした。全て片側例であり,平均在院日数は74.4±28.9日であった。評価時に質問紙の聴取困難やデータ欠損がある例は除外した。痛みに対する心理面の測定として,破局的思考の尺度として妥当性が示されているPain Catastrophizing Scale(PCS)を使用した。評価項目は,PCS,術後2週での歩行能力と股関節屈曲角度,在院日数とした。PCSは術前1~2日と術後2週に面接方式で聴取した。歩行能力と股関節屈曲角度,在院日数はカルテより後方視的に調査した。歩行能力の基準は,対象が術後2週時点で病棟もしくは院内を自立して移動している手段とし,歩行器や杖などを使用して移動している歩行自立群,車いすで移動している非自立群の2群に分けた。対象全例において術前・後PCSと股関節屈曲角度,年齢,在院日数との関連性をSpearmanの順位相関係数を用いて分析した。また,歩行自立群,非自立群間におけるPCS下位項目の反芻,無力感,拡大視を比較しMann-WhitneyのU検定を用いて分析した。なお,PCS総得点,各項目は全て中央値を採用した。有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は事前に当院倫理委員会の承認を得ておこなった。対象にはヘルシンキ宣言に則り,研究の要旨および目的,研究への参加の任意性と同意撤回の自由およびプライバシー保護について文書および口頭にて充分な説明を行い,署名による同意を得た。
【結果】
各因子との相関関係において,在院日数と術前PCS(r=0.551),術後PCS(r=0.499)において高い相関関係が認められた。年齢と術前PCS(r=0.187),術後PCS(r=0.141),股関節屈曲角度と術前PCS(0.357),術後PCS(0.173)では相関は認められなかった。
歩行自立度2群間での比較において,術後PCS下位項目の拡大視で非自立群が高くなる傾向が認められた(p=0.064)。
【考察】
術前・術後PCSと在院日数に相関がみられ,年齢,関節屈曲角度とは関連性がみられなかった。PCSと在院日数の関連において,相関係数をみると術前が高く,術前PCSが在院日数とより強く関連することが推測された。THAが適応される患者は罹患期間が長く,長期的な疼痛が生活動作,夜間睡眠に影響しているといわれている。また,術前から人工関節への不安が強い例では在院日数が長くなることが報告されている。臨床では術前からの疼痛管理を行い,術後経過や病期に応じた予後の説明をできる限り正確に行っていく必要性があると考える。
歩行自立度2群間の比較では,非自立群において術後拡大視が高値である傾向がみられ,術後拡大視の残存は歩行能力に影響することが示唆された。拡大視の質問項目は「何かひどいことが起きるのではないかと思う」,「痛みがひどくなるのではないかと怖くなる」などである。術後2週時点で,痛みに対する不安や恐怖を抱えている心理状態が活動制限を招き,早期の歩行獲得に影響したと考えられる。このような患者に対しては,個々の症例に応じて,痛みに対するマネジメントが重要であると考える。
【理学療法学研究としての意義】
本研究の結果から,PCSとTHA後の在院日数が関連し,下位項目の拡大視は歩行獲得時期に影響することがわかった。PCSはTHA後の歩行獲得時期,在院日数の予測因子の一つとして活用できる可能性が示唆され,THA前後の痛みに対する破局的思考を捉える一評価として有効と考える。今後の課題としては,術後の中・長期的な評価や,術前・後の機能的評価と痛みに対する認知面との関連性などを加味しての検討が必要と考える。