第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 ポスター » 運動器理学療法 ポスター

骨・関節6

Fri. May 30, 2014 1:30 PM - 2:20 PM ポスター会場 (運動器)

座長:工藤波子(大阪市立大学医学部附属病院リハビリテーション部)

運動器 ポスター

[0280] 人工股関節全置換術6年経過し発生した人工股関節ステム頚部折損の一例

末田達也 (医療法人伴帥会愛野記念病院リハビリテーション部)

Keywords:人工股関節ステム頸部折損, 若年者, 理学療法

【はじめに,目的】
Charnleyが1962年にポリエチレンカップおよびメタルボールの組み合わせによって人工股関節全置換術(以下THAと略す。)を施行して以来,THAには様々なタイプのコンポーネントが用いられてきた。現在までに臼蓋カップ,メタルボールの破損例はいくつか報告されているが,我々が渉猟する限り人工関節ステムの破損の報告は少ない。
今回,右THA術後に発生した人工股関節ステム頚部折損の一例を経験したので若干の考察を加え報告する。
【方法】
症例:54歳 男性 職業:農業,建築業
経過:2006年12月当院整形外科にて右THA(Smith&Nephew/SYNERGY)を施行し,臼蓋カップSsp3-54mm,ハイオフセットステム使用し,ヘッドは26mmを使用した。2007年3月左THA(Smith&Nephew/SYNERGY)を同様に施行し,術後経過良好であったが,2012年10月椅子座位から立ち上がり歩行した際に,右股関節よりゴキッと音がし歩行困難となり当院救急搬送となった。2012年11月右THA再置換術施行。2013年9月K-wire抜去。
既往歴:両股関節無腐性壊死
来院時現症:身長:167cm 体重:67kg。右股関節の運動困難を認めた。
X所見:人工骨頭の破損と後外側への脱臼を認めた。
術中所見:側方Hardingeアプローチに準じたアプローチで大腿筋膜を切開し,中臀筋から大転子骨膜,外側広筋まで切開し股関節を展開し,大腿骨の近位部,臀筋の大腿骨付着部,後方関節包も切離した。ステムは頸部で破損しており,大腿骨ステムと臼蓋カップには接触を認めライナーに部分的な破損を認めた。アウターカップ,ステム自体には可動性を認めなかった。ステムには良好な骨の進入が認められ抜去は困難であったため,大転子の先端から遠位約8cmで転子部骨切りを行った。
【倫理的配慮,説明と同意】
今回の発表にあたり,ヘルシンキ宣言に基づき症例に説明し同意を得て行なった。
【結果】
術後よりギャッジアップ,側臥位可。翌日より理学療法開始,患部外の筋力トレーニング,可動域ex,全荷重開始。右股関節筋力トレーニングと右股関節可動域exは4週後より開始し術後2ヶ月で自宅へ退院し,農業,建築業へ復帰。退院後,右大臀筋部に滑液嚢が生じ,2013年9月K-wire,滑液嚢切除術施行し,翌日より理学療法開始,患部外の筋力トレーニング,可動域ex開始。術中に大転子部の骨吸収像診られ,右股関節筋力トレーニングのみ術後4週より開始,術後2ヶ月で退院となった。関節可動域は,股関節屈曲110°,伸展15°,外転20°,内転0°,MMT股関節周囲5股関節外転のみ4,一本杖にて歩行自立。農業,建築業に復帰。
【考察】
1970年にBoutinが初めてセラミックTHAを行ったが,現在使用されている大腿骨ステムの材料としてはチタン合金,コバルトクロム合金などの金属製であり,骨新生が金属インプラント表面に起こり,骨とインプラントが強固に固着する作用がある。現在,わが国では年間30万例を超える臨床応用がなされている。われわれの渉猟する範囲ではチタン合金製大腿骨ステム頸部の折損の報告は少ない。破損の原因として活動性の高い若年者,肥満,股関節の外傷,大腿骨ステムと臼蓋カップのインピンジメントなどが挙げられている。
本症例は,農業,建築業を行っている活動性の高い54歳男性である。2006年の右THAの際の術中所見に,軽度の前方インピンジメントが確認されており,再置換術時の術中所見にてステムは頸部で破損しており,大腿骨ステムと臼蓋カップには接触を認めライナーに部分的な破損を認めたとあった。酒井らによると,荷重負荷時ステムは近位部から遠位部へ徐々に下方に変位し,ステム全体の著しい沈み込みを認めている。また但野らによると人工股関節ステムの頚部には高い応力集中が生じたと述べている。農作業等の動作は股関節屈曲動作が多く行なわれる。症例の股関節屈曲可動域は120°程とTHA術後としては,過可動域であったと考えられる。日常的な屈曲荷重動作により大腿骨ステムと臼蓋カップは接触し,人工股関節ステムに加わる応力も増大していたのではないかと考えられる。人工股関節ステム頸部は,構造的に断面積が小さいため応力が集中しやすい構造となっており,本症例の股関節屈曲角度は,THA術後としては過可動域であった。そのため,屈曲荷重動作により大腿骨ステムと臼蓋カップは接触し,人工股関節ステムに加わる応力も増大し,今回の人工股関節ステム頸部破損に繋がったのではないかと考えた。
【理学療法学研究としての意義】
人工股関節ステム頚部折損の症例は少なく,今回のように症例報告を蓄積することは重要である。また,一般的に,THAのリスクとしては脱臼が言われているが活動性の高い若年者の場合THAの破損のリスクもあることを考慮しておく必要があると考えられる。