[0281] 人工股関節再置換術前後の筋力と疼痛についての経時的変化の調査
Keywords:人工股関節再置換術, 股関節外転筋力, 疼痛
【目的】人工股関節再置換術(以下Revision)は初回人工関節全置換術(以下Primary)と比較すると,プロトコルの違いにより,入院が長期化することが多く,また先行研究では筋力の術後の回復が乏しいと報告されている。本研究の目的は,PrimaryとRevisionの術側股関節外転筋力(以下 筋力)と疼痛の術前から術後5か月まで経時的変化を調査し,術式による改善の違い,またどの時期に最も改善あるいは停滞がみられるのか調査し,患者指導の一助とすることである。
【方法】対象は当大学附属4病院にて2010年1月から2013年6月までに人工股関節置換術を施行し,術前から術後5か月まで評価可能であったPrimary149例,Revision42例とした。術式は全て後方進入で,片側例のみとした。各群の基礎情報として年齢,男女比,BMI,入院期間を抽出し,筋力(Nm/kg)とVASによる疼痛評価の術前,退院時,2か月,5か月の各時期の計測値を,データベースより後方視的に調査した。統計は年齢・BMI・入院期間については2標本t検定,男女比はカイ2乗検定を行い,術式による両群間の差を検定した。また筋力と疼痛の経時的変化については術式と時期の2要因による分割プロットデザインによる分散分析を行い,主効果が認められた項目に関しては多重比較法(Bonferroni)にて検定した。また2標本t検定を用い両群間の各時期についても差を検定した。さらに筋力については改善度の指標として各時期の非術側股関節外転筋力との比を算出した。
【倫理的配慮】本研究は,当大学倫理委員会の承認を得て,ヘルシンキ宣言に則り施行した。
【結果】PrimaryとRevisionの平均値は年齢63.4±10.6:69.1±8.8歳,男女比36/113:10/32人,BMI23.3±3.9:23.7±3.8,入院期間20.2±6.0:37.8±12.1日,筋力術前0.56±0.26:0.50±0.27,筋力退院0.55±0.25:0.53±0.26,筋力2か月0.73±0.41:0.60±0.27,筋力5か月0.80±0.33:0.67±0.29,疼痛術前59.8±25.6:54.3±29.4,疼痛退院27.3±24.9:26.6±26.4,疼痛2か月20.9±23.0:17.3±15.5,疼痛5か月19.6±24.0:18.8±23.6であった。年齢と入院期間に有意差が認められた。また分散分析の結果,筋力については,術式による主効果,交互作用は認められず,時期による主効果を認めたが,交互作用は認められなかった。各時期間に対する多重比較の結果,術前と2か月,術前と5か月,退院と2か月,退院と5か月で有意差を認め,また両群間の各時期においては2か月,5か月で有意差を認めた。さらに非術側股関節外転筋力比(%)は術前82.1:80.2,退院78.7:85.7,2か月90.3:86.4,5か月95.1:94.3であった。疼痛については,術式による主効果,交互作用は認められず,時期による主効果は認めたが,交互作用は認められなかった。各時期間に対する多重比較の結果,術前と退院,術前と2か月,術前と5か月で有意差を認め,また両群間の各時期についてはいずれも有意差は認められなかった。
【考察】筋力の改善については術式による違いはみられなかった。しかし2か月と5か月それぞれで比較するとRevisionは有意に低値であった。Revisionは股関節周囲軟部組織への手術侵襲が複数回に及ぶため,軟部組織の瘢痕化や緊張低下が起こりやすいことや,骨質の菲薄化や骨移植の併用により荷重時期が遅れることにより,Primaryに比べ術後の回復が乏しいと報告されている。今回の結果は先行研究を支持する結果となった。しかし一方で,非術側股関節外転筋力比でみると,いずれの術式も2か月で85%以上,5か月では95%前後の高値を示していることから,2か月から5か月にかけて筋力の改善が緩やかになっており,一概にRevisionの改善が乏しいとは言えないと考える。Revisionの筋力増強運動については骨とコンポーネントの癒合状況や筋・軟部組織の回復状況を医師と密に情報交換を取りながらPrimary以上に慎重に行っていく必要があると考える。またPrimaryは術前と比較すると退院時に低値であり,効果的な退院時指導や外来フォローなど検討が必要である。疼痛の改善についても術式による違いはみられなかった。また各時期それぞれの比較でも違いはみられなかった。またいずれの術式も退院までに飛躍的に疼痛の改善がみられるが,退院時以降は経時的な改善が停滞または緩やかとなっている。疼痛の改善が顕著となる退院時以降は筋力の改善が漸増的にみられるため,今後はその疼痛の原因を明らかにし,個々の対応が重要であると考える。本研究の限界として,今回のRevision例はカップまたはステムいずれかの片側再置換例や両側再置換例などがあり,それは術中操作が様々であることを意味しているため,今後はそれを分割し再考が必要であると考える。
【理学療法学研究としての意義】PrimaryとRevisionの筋力,疼痛の術後経過の関連を知ることで,患者指導の一助となり意義があると考える。
【方法】対象は当大学附属4病院にて2010年1月から2013年6月までに人工股関節置換術を施行し,術前から術後5か月まで評価可能であったPrimary149例,Revision42例とした。術式は全て後方進入で,片側例のみとした。各群の基礎情報として年齢,男女比,BMI,入院期間を抽出し,筋力(Nm/kg)とVASによる疼痛評価の術前,退院時,2か月,5か月の各時期の計測値を,データベースより後方視的に調査した。統計は年齢・BMI・入院期間については2標本t検定,男女比はカイ2乗検定を行い,術式による両群間の差を検定した。また筋力と疼痛の経時的変化については術式と時期の2要因による分割プロットデザインによる分散分析を行い,主効果が認められた項目に関しては多重比較法(Bonferroni)にて検定した。また2標本t検定を用い両群間の各時期についても差を検定した。さらに筋力については改善度の指標として各時期の非術側股関節外転筋力との比を算出した。
【倫理的配慮】本研究は,当大学倫理委員会の承認を得て,ヘルシンキ宣言に則り施行した。
【結果】PrimaryとRevisionの平均値は年齢63.4±10.6:69.1±8.8歳,男女比36/113:10/32人,BMI23.3±3.9:23.7±3.8,入院期間20.2±6.0:37.8±12.1日,筋力術前0.56±0.26:0.50±0.27,筋力退院0.55±0.25:0.53±0.26,筋力2か月0.73±0.41:0.60±0.27,筋力5か月0.80±0.33:0.67±0.29,疼痛術前59.8±25.6:54.3±29.4,疼痛退院27.3±24.9:26.6±26.4,疼痛2か月20.9±23.0:17.3±15.5,疼痛5か月19.6±24.0:18.8±23.6であった。年齢と入院期間に有意差が認められた。また分散分析の結果,筋力については,術式による主効果,交互作用は認められず,時期による主効果を認めたが,交互作用は認められなかった。各時期間に対する多重比較の結果,術前と2か月,術前と5か月,退院と2か月,退院と5か月で有意差を認め,また両群間の各時期においては2か月,5か月で有意差を認めた。さらに非術側股関節外転筋力比(%)は術前82.1:80.2,退院78.7:85.7,2か月90.3:86.4,5か月95.1:94.3であった。疼痛については,術式による主効果,交互作用は認められず,時期による主効果は認めたが,交互作用は認められなかった。各時期間に対する多重比較の結果,術前と退院,術前と2か月,術前と5か月で有意差を認め,また両群間の各時期についてはいずれも有意差は認められなかった。
【考察】筋力の改善については術式による違いはみられなかった。しかし2か月と5か月それぞれで比較するとRevisionは有意に低値であった。Revisionは股関節周囲軟部組織への手術侵襲が複数回に及ぶため,軟部組織の瘢痕化や緊張低下が起こりやすいことや,骨質の菲薄化や骨移植の併用により荷重時期が遅れることにより,Primaryに比べ術後の回復が乏しいと報告されている。今回の結果は先行研究を支持する結果となった。しかし一方で,非術側股関節外転筋力比でみると,いずれの術式も2か月で85%以上,5か月では95%前後の高値を示していることから,2か月から5か月にかけて筋力の改善が緩やかになっており,一概にRevisionの改善が乏しいとは言えないと考える。Revisionの筋力増強運動については骨とコンポーネントの癒合状況や筋・軟部組織の回復状況を医師と密に情報交換を取りながらPrimary以上に慎重に行っていく必要があると考える。またPrimaryは術前と比較すると退院時に低値であり,効果的な退院時指導や外来フォローなど検討が必要である。疼痛の改善についても術式による違いはみられなかった。また各時期それぞれの比較でも違いはみられなかった。またいずれの術式も退院までに飛躍的に疼痛の改善がみられるが,退院時以降は経時的な改善が停滞または緩やかとなっている。疼痛の改善が顕著となる退院時以降は筋力の改善が漸増的にみられるため,今後はその疼痛の原因を明らかにし,個々の対応が重要であると考える。本研究の限界として,今回のRevision例はカップまたはステムいずれかの片側再置換例や両側再置換例などがあり,それは術中操作が様々であることを意味しているため,今後はそれを分割し再考が必要であると考える。
【理学療法学研究としての意義】PrimaryとRevisionの筋力,疼痛の術後経過の関連を知ることで,患者指導の一助となり意義があると考える。