[0284] 重症熱中症による中枢神経障害の実態
Keywords:熱中症, 非労作性, 中枢神経障害
【はじめに,目的】
近年の地球温暖化やヒートアイランド現象によって夏季に多発している熱中症については各省庁によって様々な取り組みがなされている。平成25年には全国で最高気温の記録更新が相次いだことなどによって救急搬送数は過去最多に達し,高齢者の搬送数が全体の47.4%を占めた。三宅らは高齢者の熱中症の特徴は仕事やスポーツ中ではなく,日常生活の中で発症する非労作性が大部分で重症化する症例が多く,中枢神経障害の合併が臨床的に問題になることが多いと報告している。今後も熱中症の患者数は増加が予想されているが,熱中症による中枢神経障害に対してのリハビリテーションに関する報告は少ないのが現状である。
本研究の目的は,3次救急指定病院である当院における非労作性の重症熱中症による中枢神経障害の実態を調査し,今後の熱中症患者のリハビリテーションの需要やあり方について検討することである。
【方法】
対象は2013年7月から9月に当院に救急搬送され,非労作性の熱中症の診断で入院加療を要した18例(男性6例,女性12例,平均年齢71.8±16.1歳)である。
基礎情報として年齢,性別,身長,体重,Body Mass Index,入院前の指標として発症場所,入院前の日常生活自立度,入院前のlife space assessment,同居人の有無,エアコンの有無,熱中症の重症度評価として日本救急医学会の熱中症重症度分類,重症熱中症スコア,Acute Physiology and Chronic Health Evaluation score(APACHEIIスコア),中枢神経障害の合併状況として初療時の意識レベルGlasgow Come Scale(GCS),入院時の頭部画像所見,退院時の遷延性意識障害,高次脳障害,嚥下障害,構音障害,運動麻痺,小脳失調の有無,多臓器不全の合併状況として入院時及び退院時の腎臓・肝臓障害と播種性血管内凝固症候群(DIC)の有無,その他にリハビリテーション介入の有無及び開始までの期間と主な介入内容,在院日数,退院時のBarthel lndex及び転帰を電子カルテより後方視的に抽出した。
方法は中枢神経障害の合併状況を中心に症例ごとに検討を行い,中枢神経障害合併群と非合併群の数値項目にMann-WhitneyのU検定を用いて,危険率5%として統計学的解析を実施した。
【倫理的配慮,説明と同意】
対象者には当院の規定に則り研究の趣旨と内容に関して説明し,同意を得た。
【結果】
対象者の熱中症重症度分類は全例III度,入院時に中枢神経障害を合併した症例は18例中10例(55.6%)であった。中枢神経障害合併群の初療時GCS平均は5.4±2.2点で,頭部画像所見として脳実質のびまん性異常高信号5例,ラクナ梗塞4例,小脳梗塞1例を認めた。退院時には10例中8例で中枢神経障害が残存し,症状は遷延性意識障害4例,高次脳障害4例,嚥下障害4例,構音障害4例,運動麻痺3例,小脳失調1例であった。中枢神経障害に加えて入院時の腎障害は3例,肝障害は2例,腎肝の重複障害は5例,急性期DICスコア4点以上は6例で認めたが,退院時には全例改善した。リハビリテーションを実施したのは10例中8例,開始までの平均日数は7.4±4.9日,介入内容は全例ADL拡大目的の離床練習,基本動作練習が主であった。自宅退院に至ったのは10例中3例で,残りの7例が転院の運びとなった。中枢神経障害の合併群と非合併群ではそれぞれ年齢(82.7±5.6歳,58.1±14.4歳),重症熱中症スコア(4.9±1.0点,2.4±1.6点),APACHEIIスコア(27.2±7.7点,19.9±3.7点),在院日数(27.8±22.4日,6.5±4.9日)に有意差を認めた。
【考察】
非労作性の熱中症を対象とした本研究において中枢神経障害の合併例では高齢かつ重症度が高く,様々な後遺症が残存して自宅退院が難しくなる傾向からリハビリテーションの必要性が高いことが示唆された。しかし,急性期には多臓器不全の治療が優先されるなどリハビリテーションの開始が遅れ,ADL拡大目的に介入したが意識障害の遷延や高次脳障害などの影響で効果的な介入が難しくなる傾向にあった。
今後は熱中症患者の急性期リハビリテーションが有益になるように症例数を増やし,前向き研究等で介入開始時期や介入方法,また熱中症による中枢神経障害の機能予後等に関しても検討していく必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
熱中症は今後増加が予想される中,本研究によって重症熱中症による中枢神経障害の実態を調査することできたので,今後のリハビリテーションに関する前向き研究等の一助になると考える。
近年の地球温暖化やヒートアイランド現象によって夏季に多発している熱中症については各省庁によって様々な取り組みがなされている。平成25年には全国で最高気温の記録更新が相次いだことなどによって救急搬送数は過去最多に達し,高齢者の搬送数が全体の47.4%を占めた。三宅らは高齢者の熱中症の特徴は仕事やスポーツ中ではなく,日常生活の中で発症する非労作性が大部分で重症化する症例が多く,中枢神経障害の合併が臨床的に問題になることが多いと報告している。今後も熱中症の患者数は増加が予想されているが,熱中症による中枢神経障害に対してのリハビリテーションに関する報告は少ないのが現状である。
本研究の目的は,3次救急指定病院である当院における非労作性の重症熱中症による中枢神経障害の実態を調査し,今後の熱中症患者のリハビリテーションの需要やあり方について検討することである。
【方法】
対象は2013年7月から9月に当院に救急搬送され,非労作性の熱中症の診断で入院加療を要した18例(男性6例,女性12例,平均年齢71.8±16.1歳)である。
基礎情報として年齢,性別,身長,体重,Body Mass Index,入院前の指標として発症場所,入院前の日常生活自立度,入院前のlife space assessment,同居人の有無,エアコンの有無,熱中症の重症度評価として日本救急医学会の熱中症重症度分類,重症熱中症スコア,Acute Physiology and Chronic Health Evaluation score(APACHEIIスコア),中枢神経障害の合併状況として初療時の意識レベルGlasgow Come Scale(GCS),入院時の頭部画像所見,退院時の遷延性意識障害,高次脳障害,嚥下障害,構音障害,運動麻痺,小脳失調の有無,多臓器不全の合併状況として入院時及び退院時の腎臓・肝臓障害と播種性血管内凝固症候群(DIC)の有無,その他にリハビリテーション介入の有無及び開始までの期間と主な介入内容,在院日数,退院時のBarthel lndex及び転帰を電子カルテより後方視的に抽出した。
方法は中枢神経障害の合併状況を中心に症例ごとに検討を行い,中枢神経障害合併群と非合併群の数値項目にMann-WhitneyのU検定を用いて,危険率5%として統計学的解析を実施した。
【倫理的配慮,説明と同意】
対象者には当院の規定に則り研究の趣旨と内容に関して説明し,同意を得た。
【結果】
対象者の熱中症重症度分類は全例III度,入院時に中枢神経障害を合併した症例は18例中10例(55.6%)であった。中枢神経障害合併群の初療時GCS平均は5.4±2.2点で,頭部画像所見として脳実質のびまん性異常高信号5例,ラクナ梗塞4例,小脳梗塞1例を認めた。退院時には10例中8例で中枢神経障害が残存し,症状は遷延性意識障害4例,高次脳障害4例,嚥下障害4例,構音障害4例,運動麻痺3例,小脳失調1例であった。中枢神経障害に加えて入院時の腎障害は3例,肝障害は2例,腎肝の重複障害は5例,急性期DICスコア4点以上は6例で認めたが,退院時には全例改善した。リハビリテーションを実施したのは10例中8例,開始までの平均日数は7.4±4.9日,介入内容は全例ADL拡大目的の離床練習,基本動作練習が主であった。自宅退院に至ったのは10例中3例で,残りの7例が転院の運びとなった。中枢神経障害の合併群と非合併群ではそれぞれ年齢(82.7±5.6歳,58.1±14.4歳),重症熱中症スコア(4.9±1.0点,2.4±1.6点),APACHEIIスコア(27.2±7.7点,19.9±3.7点),在院日数(27.8±22.4日,6.5±4.9日)に有意差を認めた。
【考察】
非労作性の熱中症を対象とした本研究において中枢神経障害の合併例では高齢かつ重症度が高く,様々な後遺症が残存して自宅退院が難しくなる傾向からリハビリテーションの必要性が高いことが示唆された。しかし,急性期には多臓器不全の治療が優先されるなどリハビリテーションの開始が遅れ,ADL拡大目的に介入したが意識障害の遷延や高次脳障害などの影響で効果的な介入が難しくなる傾向にあった。
今後は熱中症患者の急性期リハビリテーションが有益になるように症例数を増やし,前向き研究等で介入開始時期や介入方法,また熱中症による中枢神経障害の機能予後等に関しても検討していく必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
熱中症は今後増加が予想される中,本研究によって重症熱中症による中枢神経障害の実態を調査することできたので,今後のリハビリテーションに関する前向き研究等の一助になると考える。