第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 ポスター » 神経理学療法 ポスター

脳損傷理学療法5

Fri. May 30, 2014 1:30 PM - 2:20 PM ポスター会場 (神経)

座長:上杉睦(介護老人保健施設ハートフル瀬谷リハビリテーション部)

神経 ポスター

[0285] 脳脊髄液減少症患者に発症しためまいに対する
前庭リハビリテーションの効果

河合成文1, 徳田光紀1,2 (1.平成記念病院リハビリテーション課, 2.畿央大学大学院健康科学研究科)

Keywords:脳脊髄液減少症, めまい, 前庭リハビリテーション

【はじめに,目的】
脳脊髄液減少症(cerebrospinal fluid hypovolemia:CSF)は髄液の漏出により脳脊髄液量の減少が起こり,主症状としてめまい,頭痛,頸部痛,耳鳴り,視機能障害,倦怠,易疲労感など様々な症状を呈する難治性の疾患と定義されている。現在,治療法としては輸液による保存療法と硬膜外自家血注入(ブラッドパッチ)が一般的であるが,CSFは医療従事者の間でも十分に認識されているとは言い難く,中には慢性頭痛,頚椎症,頚椎捻挫,うつ病などと診断されている場合も多い。主症状の中でも特にめまいは必発し,日常生活動作能力低下に大きく影響する。めまいの病態として,脳脊髄液量の減少に伴い脳の下垂が見られ,脳神経の牽引により出現すると報告されているものや,外リンパ瘻が原因というものもあるが,MRI所見では異常が見られないことも多く,詳細な発生機序は不明とされている。またCSFに関する先行研究は病態や治療経過を示した報告はあるものの,めまい症状の改善に対して検討した報告は皆無である。一方で,良性発作性頭位めまい症や迷路機能低下などのめまい疾患に対する代表的な非薬物治療は理学療法であり,海外でもランダム化試験などによって平衡機能を改善し症状を緩和させるという前庭リハビリテーション(前庭リハ)の報告が散見される。したがって,本研究の目的は,CSFと診断された1症例に対して,前庭リハを実施し,めまいに与える影響を検討することとした。
【方法】
対象は2011年にMRI脳槽・脊髄液腔シンチグラムで漏出所見を認め,CSFと診断された30代の男性である。医師と相談のうえ本人希望により保存療法にて理学療法開始となる。主訴としてめまい,集中力低下,頭痛,嘔気,頸部痛,腰背部痛があり,その中でも,めまいの軽減を希望されていた。理学療法内容は週1回の外来の通常リハビリで,筋緊張軽減の為,頸部,両肩,両腰背部,両下肢のリラクセーションを施行していた。研究デザインはシングルケースのABABデザインとし,A期は通常リハビリのみ,B期は通常リハビリと前庭リハを実施した。前庭リハはCawthorne-Cooksey及び北里大学方式を参考に作成し,垂直,水平方向の注視眼球運動,追跡眼球運動,頭部,眼球の共同運動をそれぞれ20回反復×5セット,朝食後,昼食後,夕食後の一日3回実施するように指導した。各期間は2週間で,計8週間の実施期間とした。評価はめまいの程度を11段階のNumerical Rating Scale(NRS)にて1日3回測定し,1日の平均値を算出した。さらに各々の期間の平均値および最低値と最高値を記録した。また,内省報告も記録した。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究はヘルシンキ宣言を遵守したうえで,対象者に十分な説明を行い,同意および署名を得た。
【結果】
1~2週のA期は9.3(8.8~9.5)となり,3~4週のB期では8.2(8.0~8.7)となり,5~6週のA期は9.2(8.9~9.7)となり,7~8週のB期では8.3(8.0~8.7)となった。また,「前庭リハ後は,2時間くらいめまいがとても軽くなって楽だった」,「前庭リハ後,頭痛が軽減し,集中力が1時間持続した」といった内省報告が得られた。A期よりB期の方が低値を示し,B期の最高値はA期の最低値を下回った。
【考察】
A期よりもB期の方が,めまいの程度は軽減した。めまいの多くは,一側の内耳が障害され,前庭神経核に左右差が生じ回転性めまいや病的眼振などの症状が出現するとされている。生体には一側の内耳機能が障害された際に,健側小脳の活動により左右の前庭神経核機能のバランスを保つための前庭代償が働く。この作用は,視刺激,前庭刺激,深部感覚刺激の反復によって獲得されると報告があり,本研究でも前庭リハを実施したことで,視線,頭頸部に反復動作の刺激が加わり,めまい症状が軽減したと考えられた。対象者の受け入れも良好で,前庭リハ後2時間程度めまいの軽減を認め,集中力を増したとの内省報告や,前庭リハ実施期間の一番きついめまいが,非実施期間の一番軽い時より,低値を示していることから日常生活動作向上に繋がった可能性もある。今回の結果では,持ち越し効果は短いと考えられた。今後,症例数の蓄積に加えて,介入頻度やより効果的な方法を検討していく必要があると考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
CSFと診断された1症例に対して前庭リハを実施し,めまい症状の軽減を認めたが,いまだその発症機序,病態生理に不明な点が多く,診断方法,治療も十分に確立されているとは言い難い。今後,医療の発展と共に有効なリハビリの方法を明確にしていくことが,本治療を普及させるために必要と考えられる。