第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 ポスター » 神経理学療法 ポスター

脳損傷理学療法5

Fri. May 30, 2014 1:30 PM - 2:20 PM ポスター会場 (神経)

座長:上杉睦(介護老人保健施設ハートフル瀬谷リハビリテーション部)

神経 ポスター

[0287] 髄膜腫術後の顔面神経麻痺へのSTとの連携アプローチ

窪浩治1, 横井孝1, 田中誠也1,2, 山本正彦2, 高見修治1 (1.東洋病院, 2.愛知学院大学大学院心身科学研究科)

Keywords:顔面神経麻痺, 振動刺激, 多職種連携

【はじめに】顔面における様々な機能は左右のバランス異常によっても障害されるため,病的共同運動のみならず左右の機能障害の状態を考慮した治療が重要であると考える。今回,左右で病態の異なる両側性顔面神経麻痺を呈した髄膜腫術後患者に対して,各部位の病態に応じた治療を実施した。さらに治療効果をADLに般化させるため,言語聴覚士(ST)との連携を図った。結果,良好な効果が得られたので報告する。
【症例紹介】60代女性,X年6月頃より記銘力低下を示し,A院にて広範囲の左側頭葉前頭葉髄膜腫と診断され,同年8月7日B院にて開頭脳腫瘍切除術施行。術後,軽度の右不全麻痺・左顔面神経前頭枝の麻痺を認めた。同年8月30日B院を退院後,9月2日術後後遺症に対するリハ目的で当院外来受診され,9月3日より四肢に対する運動療法を開始した。運動療法開始後,患者が「顔の容貌の不快さや会話・食事の困難さ」を訴え,同年9月18日より顔面に対するリハを開始した。初回評価(9月18日)では,神経学的所見として,Br.Stage:VI-VI-V,重度左末梢性顔面神経(前頭枝)麻痺および軽度右中枢性顔面・舌下神経麻痺を認めた。左末梢性顔面神経麻痺に加え,著明な前頭部の筋緊張亢進を呈したことにより,顔面上部の左右差がより顕著となっていた。顔面神経麻痺の評価は左右で異なった病態の麻痺を認めたため,病前の顔写真を参考に左右それぞれに行った。右側ではSunnybrook法(SFGS):66/100,柳原法(Y法):30/40,House-Brackmann法(HB法):IV,左側ではSFGS:79/100,Y法:32/40,HB法:IVであった。神経心理学的所見として,MMSE:28/30,HDS-R:25/30,RCPM:27/36,FAB:15/18であり,訓練時の課題理解は良好であった。さらに術後後遺症により開口障害(上下顎切歯間距離1.7cm)が認められた。活動制限として義歯の装着困難と右頬部の食物残渣などの摂食時の障害および話し難いといった発話障害を認めた。
【倫理的配慮】ヘルシンキ宣言に基づき本研究に関する内容を説明し文書による同意を得た。
【経過】術後6週より顔面神経麻痺に対するリハ介入を開始。右口唇部および左前頭部に対してCIセラピーを鏡によるバイオフィードバック,アイシングを併用して行った。右前頭部の筋緊張亢進に対しては電動歯ブラシを用いて約30秒間振動刺激を加え筋緊張の緩和を図った後,視覚的(鏡)・触覚的(徒手)バイオフィードバックを用い,上眼瞼挙筋を主体とした開眼運動を行った。一方,術後拘縮によって生じた開口障害に対して竹井(2000)を参考に,顎関節に対するモビライゼーション等の治療を行った。介入当初,開口時左側(術側)のみ疼痛および関節可動域制限を認めていた。しかし,上下顎切歯間距離3.0cmを超えた時点より,開口時に右側にも痛みを訴えたため,開口運動前に右側頭筋・口腔内壁に対する振動刺激を加えた。その結果,開口時の右側の痛みが消失し,さらなる開口制限の改善が得られた(上下顎切歯間距離3.7cm)。さらにShaping課題として,STの指導のもと発話訓練および咀嚼訓練を実施した。リハ介入より約2ヶ月の時点で,安静時・運動時の非対称性は改善し表情の変化がより明確になった。評価上においても右側ではSFGS:79/100,Y法:36/100,HB法:III,左側ではSFGS:87/100,Y法:36/40,HB法:IIIと改善を示した。活動制限においても,摂食時の障害および発話障害は改善を示した。
【考察】各部位の病態に合わせた治療法の選択により,著明な改善が認められた。PTの臨床場面で四肢等に広く用いられてきた振動刺激を顔面筋に応用し,筋緊張緩和効果が得られた。この効果によって開眼時の前頭筋の分離運動を促し上眼瞼挙筋優位の開眼運動を誘導することが可能となった。また,開口運動時に見られた右側顔面の筋緊張亢進による開口制限に対しても振動刺激は有効である可能性が示唆された。さらにSTと連携することで,より適切で効率的な発話・咀嚼に関する顔面筋へのアプローチが可能となり,治療効果のADLへの般化を促進することが可能であった。
【理学療法学研究としての意義】顔面神経麻痺はPTのみならずSTの対象疾患であるが,臨床場面で両者がそれぞれの独自性を生かして治療を行ったという報告は検索した範囲ではみられなかった。本報告では,それぞれの専門性(PT:四肢に対する治療法の顔面への応用,ST:活動レベルへの般化を目的とした訓練の実施)を活かした介入により,個々の治療法の有効性が認められ,さらなる多職種連携医療につながると考える。