第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 口述 » 基礎理学療法 口述

運動制御・運動学習4

2014年5月30日(金) 14:25 〜 15:15 第3会場 (3F 301)

座長:大橋ゆかり(茨城県立医療大学保健医療学部理学療法学科)

基礎 口述

[0297] 褒めが姿勢制御課題における運動学習に与える影響

尾崎新平1, 植田耕造2,4, 加茂智彦3, 森岡周4, 長谷公隆5 (1.おおくまセントラル病院おおくまリハビリテーションセンターリハビリテーション部, 2.星ヶ丘厚生年金病院リハビリテーション部, 3.聖隷クリストファー大学大学院リハビリテーション科学研究科, 4.畿央大学大学院健康科学研究科, 5.関西医科大学付属枚方病院リハビリテーション科)

キーワード:褒め, 運動学習, 姿勢制御

【はじめに,目的】
運動を効果的に学習することは理学療法を受ける対象者にとって重要である。運動学習は系列的運動学習と適応的運動学習に分けられ(Doyon 2005),前者はキーボードをタイピングする順序課題,後者は姿勢調整等の課題の学習である。また,学習は教師あり学習,教師なし学習,強化学習にも分類されるが,このうち強化学習は報酬を伴う学習である。近年,報酬を伴う学習は効果的であることが明らかとなっている(Fischer 2009, Abe 2011)。この報酬の1つとして社会的報酬である「褒められる」ことが学習を促進させることが報告されている(Sugawara 2012)。褒めとは他者から与えられる肯定的な評価である。臨床上,理学療法士は対象者に課題の結果を褒め学習を促す場面があるが,研究分野ではパソコンのキーボードをタイピングする課題で褒めの効果が明らかにしたものがほとんどで,リハビリテーション場面で多く関わる姿勢調整の学習である適応的運動学習での効果は明らかではない。そこで本研究の目的は,ラバークッション上での立位課題を用い,姿勢制御課題における褒めの学習効果を明らかにすることである。
【方法】
対象は,本研究に参加の同意を得た健常成人25名(男性9名,女性16名,平均年齢24.9±2.2歳)の被験者を無作為にExcel乱数に従いSelf群(n=8),Other群(n=9),Control群(n=8)の3群に分けた。全ての群で立位課題を「なるべくふらつかないように」と指示して実施した。実験課題は3試行を1ブロックとし,計4ブロック,合計12試行で構成した。Wulfら(2011)の課題を参考にし,2m前方の壁を注視してのラバークッション上での30秒間の立位課題を1試行とした。Self群,Other群には試行ごとに課題の結果をパソコン上に示し,同様のコメントを提示した。課題前の説明で,課題試行後に提示される動画コメントは,Self群には,被験者自身に対する褒めであることを伝え,Other群には被験者ではない他者に対する褒めであることを伝えた。Control群には課題結果のみ提示した。計測システムは,Wii board(Nintendo社製)上にラバークッション(GYMNIC社製Disc’o’Sit 直径32cm)を設置し,パソコン(Fujitsu社製LIFEBOOK UH75/H)をBluetoothで接続してデータを抽出した。データのサンプリング周波数は100Hzとし,Excelを用いて総軌跡長を算出した。統計学的処理は,1ブロック目(1B)および4ブロック目(4B)の総軌跡長の平均値を用いて「((1B-4B)÷1B)×100」の計算式で改善率を算出した。改善率をSPSS Statistics 20にて「群間」を要因とした一元配置分散分析を行った。また,post hoc analysisとしてはTukey法を用いた。有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
事前に全ての参加者に対して本研究の目的と内容,リスク,個人情報の保護および参加の拒否と撤回について説明し同意を得た。
【結果】
総軌跡長改善率の平均値は,Self群22.6±8.5%,Other群11.6±6.4%,Control群10.2±7.3%であった。改善率の一元配置分散分析の結果は,群間において有意差が認められた(p<0.01)。Post hoc analysisでは,Self群とOther群との間(p<0.05)およびSelf群とControl群との間(p<0.05)で有意差を認め,Self群で有意に高い改善率を示した。一方,Other群とControl群との間では有意差は認められなかった(p>0.05)。
【考察】
3群を比較すると,総軌跡長改善率でSelf群のみ高い学習効果が認められた。褒めはモチベーションを高め,運動学習を促進させることが報告されており(Henderlong 2002),また近年,脳機能イメージング研究では褒めが腹側被蓋野を活動させること(Izuma 2008),報酬は中脳,線条体からのドーパミンを活性化し,ドーパミンの長期増強が記憶の固定に重要であること(Willuhn 2009)が提唱されている。これらより,本研究のSelf群では自分に対する褒めによりモチベーションが増加し,脳内からのドーパミンが作用することで運動記憶の固定に繋がり,効果的な学習となったと推察される。
【理学療法学研究としての意義】
現在,褒められることで姿勢調整が効果的に改善するか未解明な部分がある。今回の結果からは,単なる褒めの視覚聴覚刺激が効果的ではなく,自分に対する褒めが運動学習に効果的であることがわかった。本研究は理学療法の運動学習を検討していく上での,基礎的情報を提供する意義ある研究であると考える。