[0304] 人工呼吸器装着患者における早期離床トレーニングの有用性
Keywords:超急性期, 人工呼吸器, 早期離床
【はじめに,目的】
人工呼吸器装着患者は,人工呼吸器関連肺炎,下側肺障害等の呼吸器合併症,不隠・せん妄の出現,深部静脈血栓症や肺塞栓血栓症,重篤な呼吸・四肢筋力低下等の様々な合併症を併発することが多い。そのため,人工呼吸器離脱や日常生活動作(Activity of daily living:ADL)の再獲得の遅延,ICU滞在期間・入院期間の長期化を生じやすいことが知られている。このような状況の予防・改善のために,近年では入院後間もない時期から原疾患に対する治療に並行し,積極的に早期離床を促進する治療介入の導入が推奨されつつある。しかし,人工呼吸器装着患者の早期離床トレーニングに関して,その効果や安全面,そして臨床場面における実行性の観点から十分な検討がなされているとは言い難く,さらに多角的な検証が必要である。
そこで本研究では,人工呼吸器装着患者に対する積極的な早期離床トレーニングを導入した前後の時期で振り分け,患者情報,離床開始時の下肢筋力や移動能力の差異について比較検討し,早期離床トレーニングの有用性を明らかにすることを目的とした。
【方法】
対象は人工呼吸器装着下で離床トレーニングを実施した症例のうち,意識・精神機能が安定(Richmond agitation-sedation scale=0)し,筋力評価が十分に実施可能であり,病前ADLが自立していた症例とした。なお,中枢神経疾患・運動器疾患を有する症例,測定に同意の得られない症例は除外した。そして,対象者は当院ICUにおいて人工呼吸器装着患者に対する積極的な早期離床トレーニングの導入を開始した2010年以降の症例をA群,それ以前の症例をB群に分類した。
これらの車椅子乗車(離床開始)時点の下肢筋力,移動能力を評価し,対象の基本属性,離床開始日,多臓器不全の有無,全身臓器の状態を反映するSequential organ failure assessment(SOFA)scoreと酸素化能力を反映するPaO2/FIO2(P/F)ratio,そして人工呼吸器装着期間,入院期間等の患者情報を後方視的に調査した。下肢筋力はアニマ社製μ-TasMF01を用い,膝関節90度位での左右の等尺性膝伸展筋力(kgf)を測定し,その平均を体重(kg)で除した値を用いた(kgf/kg)。また,同機器における健常平均値に対する比率である対健常比(%)も算出した。移動能力は,離床開始後1週時点での移動能力をFunctional Independent Measure(移動)を用い,4(最小介助)以上を歩行可と判断し,調査した。得られた結果から,両群間の差異をMann-WhitneyのU検定,χ2検定を用い,危険率5%を有意水準として比較検討した。すべての結果は中央値[四分位範囲]で表記した。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究はヘルシンキ宣言に則り,当院生命倫理委員会の承認を得て実施し,すべてのデータは厳密に管理を行った(承認番号:2314号)。
【結果】
積極的な早期離床トレーニングを導入したA群(10例)の離床開始日は,入院後5.5[3.5-7.0]日とB群(10例)の入院後23.0[17.0-36.8]日に比較し,有意に低値を認めた(p<0.05)。その時点における多臓器不全の有無,P/Fratioには有意差を認めないものの,SOFA scoreはA群において高い傾向を認めた(5.5[3.5-5.5]vs3.5[3.0-4.8],p<0.1)。
次に,離床開始時における下肢筋力(対健常比)は,A群では0.34[0.30-0.47]kgf/kg(59.7[47.9-68.6]%)に対し,B群では0.20[0.15-0.27]kgf/kg(34.7[27.5-36.7]%)と両群間に有意差を認めた(p<0.05)。そして,離床開始1週時におけるA群の歩行可能例は,6例(60%)と高い割合であったが,B群では1例(10%)のみにとどまっていた(χ2=5.5,p<0.05)。最後に,人工呼吸器装着期間についてはA群,B群の順に5.0[5.0-10.3]日,30.0[22.0-39.0]日,同様に入院期間は27.5[20.5-35.5]日,88.5[77.5-158.3]日といずれもA群において有意に低値を認めた(p<0.05)。
【考察】
積極的な早期離床トレーニング導入前後の差異から,その有用性について検討した結果,早期離床トレーニングを導入した場合には,他方に比較して下肢筋力や歩行可能例の割合は高値を示し,介入開始時の筋力や移動能力の顕著な低下を予防する可能性が示唆された。また,それらに伴って人工呼吸器装着・入院期間は短縮され,人工呼吸器からの離脱や早期退院にも早期離床トレーニングが寄与していることが明らかとなった。よって,積極的な早期離床トレーニングは,人工呼吸器装着患者にとって必須の治療介入であることが示唆された。加えて,重症で入院間もない全身状態の不安定な時期から離床トレーニングが開始されていた点より,その実施には,理学療法士における病態理解やリスク管理する能力の必要性が高いことが認識された。
【理学療法学研究としての意義】
人工呼吸器装着患者における早期離床トレーニングの有用性を,介入開始時点の筋力や移動能力の低下予防,人工呼吸器装着・入院期間の短縮の面から明らかにした検討である。
人工呼吸器装着患者は,人工呼吸器関連肺炎,下側肺障害等の呼吸器合併症,不隠・せん妄の出現,深部静脈血栓症や肺塞栓血栓症,重篤な呼吸・四肢筋力低下等の様々な合併症を併発することが多い。そのため,人工呼吸器離脱や日常生活動作(Activity of daily living:ADL)の再獲得の遅延,ICU滞在期間・入院期間の長期化を生じやすいことが知られている。このような状況の予防・改善のために,近年では入院後間もない時期から原疾患に対する治療に並行し,積極的に早期離床を促進する治療介入の導入が推奨されつつある。しかし,人工呼吸器装着患者の早期離床トレーニングに関して,その効果や安全面,そして臨床場面における実行性の観点から十分な検討がなされているとは言い難く,さらに多角的な検証が必要である。
そこで本研究では,人工呼吸器装着患者に対する積極的な早期離床トレーニングを導入した前後の時期で振り分け,患者情報,離床開始時の下肢筋力や移動能力の差異について比較検討し,早期離床トレーニングの有用性を明らかにすることを目的とした。
【方法】
対象は人工呼吸器装着下で離床トレーニングを実施した症例のうち,意識・精神機能が安定(Richmond agitation-sedation scale=0)し,筋力評価が十分に実施可能であり,病前ADLが自立していた症例とした。なお,中枢神経疾患・運動器疾患を有する症例,測定に同意の得られない症例は除外した。そして,対象者は当院ICUにおいて人工呼吸器装着患者に対する積極的な早期離床トレーニングの導入を開始した2010年以降の症例をA群,それ以前の症例をB群に分類した。
これらの車椅子乗車(離床開始)時点の下肢筋力,移動能力を評価し,対象の基本属性,離床開始日,多臓器不全の有無,全身臓器の状態を反映するSequential organ failure assessment(SOFA)scoreと酸素化能力を反映するPaO2/FIO2(P/F)ratio,そして人工呼吸器装着期間,入院期間等の患者情報を後方視的に調査した。下肢筋力はアニマ社製μ-TasMF01を用い,膝関節90度位での左右の等尺性膝伸展筋力(kgf)を測定し,その平均を体重(kg)で除した値を用いた(kgf/kg)。また,同機器における健常平均値に対する比率である対健常比(%)も算出した。移動能力は,離床開始後1週時点での移動能力をFunctional Independent Measure(移動)を用い,4(最小介助)以上を歩行可と判断し,調査した。得られた結果から,両群間の差異をMann-WhitneyのU検定,χ2検定を用い,危険率5%を有意水準として比較検討した。すべての結果は中央値[四分位範囲]で表記した。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究はヘルシンキ宣言に則り,当院生命倫理委員会の承認を得て実施し,すべてのデータは厳密に管理を行った(承認番号:2314号)。
【結果】
積極的な早期離床トレーニングを導入したA群(10例)の離床開始日は,入院後5.5[3.5-7.0]日とB群(10例)の入院後23.0[17.0-36.8]日に比較し,有意に低値を認めた(p<0.05)。その時点における多臓器不全の有無,P/Fratioには有意差を認めないものの,SOFA scoreはA群において高い傾向を認めた(5.5[3.5-5.5]vs3.5[3.0-4.8],p<0.1)。
次に,離床開始時における下肢筋力(対健常比)は,A群では0.34[0.30-0.47]kgf/kg(59.7[47.9-68.6]%)に対し,B群では0.20[0.15-0.27]kgf/kg(34.7[27.5-36.7]%)と両群間に有意差を認めた(p<0.05)。そして,離床開始1週時におけるA群の歩行可能例は,6例(60%)と高い割合であったが,B群では1例(10%)のみにとどまっていた(χ2=5.5,p<0.05)。最後に,人工呼吸器装着期間についてはA群,B群の順に5.0[5.0-10.3]日,30.0[22.0-39.0]日,同様に入院期間は27.5[20.5-35.5]日,88.5[77.5-158.3]日といずれもA群において有意に低値を認めた(p<0.05)。
【考察】
積極的な早期離床トレーニング導入前後の差異から,その有用性について検討した結果,早期離床トレーニングを導入した場合には,他方に比較して下肢筋力や歩行可能例の割合は高値を示し,介入開始時の筋力や移動能力の顕著な低下を予防する可能性が示唆された。また,それらに伴って人工呼吸器装着・入院期間は短縮され,人工呼吸器からの離脱や早期退院にも早期離床トレーニングが寄与していることが明らかとなった。よって,積極的な早期離床トレーニングは,人工呼吸器装着患者にとって必須の治療介入であることが示唆された。加えて,重症で入院間もない全身状態の不安定な時期から離床トレーニングが開始されていた点より,その実施には,理学療法士における病態理解やリスク管理する能力の必要性が高いことが認識された。
【理学療法学研究としての意義】
人工呼吸器装着患者における早期離床トレーニングの有用性を,介入開始時点の筋力や移動能力の低下予防,人工呼吸器装着・入院期間の短縮の面から明らかにした検討である。