[0314] 当院におけるアクシデント事例の分析
Keywords:アクシデント, リスク管理, 医療安全
【目的】理学療法中に生じるアクシデントの内容は多岐にわたる。発生要因も複雑であるが,その一つに業務経験がある。我々はアクシデントの発生頻度と理学療法士の経験年数の関連性を報告した(2011)が,アクシデントのレベルや内容の違いを含めた詳細は未検討であった。本研究は,H総合病院理学療法部門(以下,当院)で生じたアクシデント事例を分析し,経験年数とアクシデントレベルの関連性および発生件数の関連性を明らかにすると共に,内容の違いによるアクシデントレベル,経験年数の差を明らかにすることを目的に行った。
【方法】2006年9月から2013年6月の82か月間に当院で生じたアクシデント事例57件を対象とし,提出されたアクシデントレポートを後方視的に分析した。予備検討で類似内容毎に分類した結果,転倒および転落(以下,転倒等),他物への接触(以下,接触等),カテーテルの接続部外れや抜去(以下,抜去等),その他の4群に分けられた。その他の事例は,運動療法中の踵骨骨折と尿バッグ損傷による着衣汚損の2例であった。全例のアクシデントレベルを国立大学附属病院医療安全管理協議会の影響度分類(以下,影響度)で評価した。さらに関与した理学療法士の経験年数を抽出した。影響度分類は8段階の指標で,レベル0は「エラーなどがみられたが患者に実施されなかった」,レベル1は「患者の実害なし」,レベル2は「処置や治療は行わなかった」,レベル3aは「簡単な処置や治療を要した」,レベル3bは「濃厚な処置や治療を要した」,レベル4aは「傷害や後遺症が残ったが機能障害は伴わなかった」,レベル4bは「傷害や後遺症が残り機能障害が伴った」,レベル5は「死亡」である。この分類は順序尺度のためレベル0を0,1を1,2を2,3aを3,3bを4,4aを5,4bを6,5を7とスコア化して処理した。全例の経験年数と影響度および発生件数の関連性をスピアマン順位相関係数(rs)にて検討した。その他以外の3群に対して,内容の違いによる影響度および経験年数の差をKruskal-Wallis検定と多重比較検定(Steel-Dwass法)で検討した。有意水準は5%とした。
【倫理的配慮】本研究はH総合病院倫理委員会の承認を得て実施した。また全事例は関与した理学療法士や患者が特定できないように連結不可能匿名化して処理した。
【結果】アクシデントの内容は,転倒等が28件49.2%,接触等が17件29.8%,抜去等が10件17.5%,その他が2件3.5%であった。関与した理学療法士の平均経験年数は全体が3.6±2.4年,転倒等が4.0±2.3年,接触等が3.3±2.1年,抜去等が2.6±2.3年であった。影響度は,転倒等はレベル1が16件57.1%,レベル2が11件39.3%,レベル3bが1件3.6%,接触等はレベル2が2件11.8%,レベル3aが15件88.2%,抜去等はレベル3aが10件100%,その他はレベル2が1件50%,レベル3bが1件50%であった。全体の経験年数と発生件数の間に強い負の相関(rs=-0.91)を認め,経験年数と影響度との間には弱い負の相関(rs=-0.24)を認めた。Kruskal-Wallis検定の結果,その他を除いた3群間に経験年数の差は認めなかった。一方,影響度は群間差(p<0.01)を認め,多重比較検定の結果,転倒等に対して接触等と抜去等の影響度が有意に高値を示した(共にp<0.01)。
【考察】経験が長いほどアクシデント発生頻度は減少することが示されたが,我々の報告(2011),内藤ら(2013)の報告を支持する結果であった。また,アクシデント内容の違いによる経験年数の差はないこと,加えて,経験年数と影響度の関連性は弱いことが示唆された。一方,内容の違いにより影響度の差を認め,転倒等に比して接触等および抜去等の影響度が有意に高値であった。転倒等の96.4%がレベル2以下だったのに対し,接触等の88.2%,抜去等の100%がレベル3aであった。要因として,1)点滴針等の抜去は出血を伴い処置や治療を要するレベルが多いが,転倒等は幅広いレベルが生じている,2)接触等はアクシデントの基準が曖昧で,処置や治療が不要な事例はレポート提出されていない可能性がある,3)転倒は「意図せずに足底以外が床面に接触した場合」のような定義が認識されており,アクシデントレベルが低くてもレポートが提出されやすい,などが考えられた。これらは理学療法で生じた事例を蓄積,分析する上で重要な知見であると思われた。また,本研究で用いた影響度分類は,理学療法のアクシデントレベルを適切に分類できない可能性があるため,理学療法に適した新たな分類尺度の必要性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】理学療法の安全に関する報告は他職種に比べ非常に少ない。本研究は,理学療法のリスク管理上,重要な知見であると考えられた。また本研究結果から理学療法に適したアクシデントレベルの分類の必要性が示唆された。
【方法】2006年9月から2013年6月の82か月間に当院で生じたアクシデント事例57件を対象とし,提出されたアクシデントレポートを後方視的に分析した。予備検討で類似内容毎に分類した結果,転倒および転落(以下,転倒等),他物への接触(以下,接触等),カテーテルの接続部外れや抜去(以下,抜去等),その他の4群に分けられた。その他の事例は,運動療法中の踵骨骨折と尿バッグ損傷による着衣汚損の2例であった。全例のアクシデントレベルを国立大学附属病院医療安全管理協議会の影響度分類(以下,影響度)で評価した。さらに関与した理学療法士の経験年数を抽出した。影響度分類は8段階の指標で,レベル0は「エラーなどがみられたが患者に実施されなかった」,レベル1は「患者の実害なし」,レベル2は「処置や治療は行わなかった」,レベル3aは「簡単な処置や治療を要した」,レベル3bは「濃厚な処置や治療を要した」,レベル4aは「傷害や後遺症が残ったが機能障害は伴わなかった」,レベル4bは「傷害や後遺症が残り機能障害が伴った」,レベル5は「死亡」である。この分類は順序尺度のためレベル0を0,1を1,2を2,3aを3,3bを4,4aを5,4bを6,5を7とスコア化して処理した。全例の経験年数と影響度および発生件数の関連性をスピアマン順位相関係数(rs)にて検討した。その他以外の3群に対して,内容の違いによる影響度および経験年数の差をKruskal-Wallis検定と多重比較検定(Steel-Dwass法)で検討した。有意水準は5%とした。
【倫理的配慮】本研究はH総合病院倫理委員会の承認を得て実施した。また全事例は関与した理学療法士や患者が特定できないように連結不可能匿名化して処理した。
【結果】アクシデントの内容は,転倒等が28件49.2%,接触等が17件29.8%,抜去等が10件17.5%,その他が2件3.5%であった。関与した理学療法士の平均経験年数は全体が3.6±2.4年,転倒等が4.0±2.3年,接触等が3.3±2.1年,抜去等が2.6±2.3年であった。影響度は,転倒等はレベル1が16件57.1%,レベル2が11件39.3%,レベル3bが1件3.6%,接触等はレベル2が2件11.8%,レベル3aが15件88.2%,抜去等はレベル3aが10件100%,その他はレベル2が1件50%,レベル3bが1件50%であった。全体の経験年数と発生件数の間に強い負の相関(rs=-0.91)を認め,経験年数と影響度との間には弱い負の相関(rs=-0.24)を認めた。Kruskal-Wallis検定の結果,その他を除いた3群間に経験年数の差は認めなかった。一方,影響度は群間差(p<0.01)を認め,多重比較検定の結果,転倒等に対して接触等と抜去等の影響度が有意に高値を示した(共にp<0.01)。
【考察】経験が長いほどアクシデント発生頻度は減少することが示されたが,我々の報告(2011),内藤ら(2013)の報告を支持する結果であった。また,アクシデント内容の違いによる経験年数の差はないこと,加えて,経験年数と影響度の関連性は弱いことが示唆された。一方,内容の違いにより影響度の差を認め,転倒等に比して接触等および抜去等の影響度が有意に高値であった。転倒等の96.4%がレベル2以下だったのに対し,接触等の88.2%,抜去等の100%がレベル3aであった。要因として,1)点滴針等の抜去は出血を伴い処置や治療を要するレベルが多いが,転倒等は幅広いレベルが生じている,2)接触等はアクシデントの基準が曖昧で,処置や治療が不要な事例はレポート提出されていない可能性がある,3)転倒は「意図せずに足底以外が床面に接触した場合」のような定義が認識されており,アクシデントレベルが低くてもレポートが提出されやすい,などが考えられた。これらは理学療法で生じた事例を蓄積,分析する上で重要な知見であると思われた。また,本研究で用いた影響度分類は,理学療法のアクシデントレベルを適切に分類できない可能性があるため,理学療法に適した新たな分類尺度の必要性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】理学療法の安全に関する報告は他職種に比べ非常に少ない。本研究は,理学療法のリスク管理上,重要な知見であると考えられた。また本研究結果から理学療法に適したアクシデントレベルの分類の必要性が示唆された。