[0316] リスクマネジメントと理学療法士の不安要素
キーワード:リスクマネジメント, 理学療法士, 不安
【はじめに,目的】本邦の理学療法士(PT)の年齢構成は,若年層が多い「富士山型」となっている。「富士山型」の裾野に位置する若年層のPTから,「呼吸器,循環器,泌尿器等に不全を持った対象者も多く,理学療法を実施する際にリスクマネジメント(RM)に対して不安がある」といった声を聞く。また,PT数の増加は経験年数に伴うRMに対する意識の個人差も発生する。本研究では,「理学療法を実施する上での不安」と「職場の規則やシステムの不安」についての調査を行い,その回答から理学療法業務におけるリスクマネジメントとそれに関する不安について整理したので報告する。
【方法】対象は,(社)日本理学療法士協会会員で,兵庫県・長崎県・大分県で開催された各研修会に参加した50名・34名・70名の合計154名(男性105名,女性49名,平均年齢30.3±8.2歳)とした。自記式の質問紙法とし,調査項目は(1)勤務先の設置母体と規模,(2)理学療法部門の構成,(3)理学療法を実施する上での不安,(4)職場の規則やシステムの不安とした。(3),および(4)の回答は,複数の選択肢の中から重要と判断した順に3位までを選択させた。分析は,山田らの先行研究をもとに,対象全体を便宜上経験年数10年目未満(若年群)と10年目以上(経験群)に分類し,F検定,t検定,χ2検定を行い,両群を比較検討した。なお,有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮】研究は,個人情報保護法を遵守した。対象者には,口頭と書面にて研究の趣旨を説明し同意を得た。参加は個人の自由であることを説明した。さらに,兵庫県士会,長崎県士会,大分県士会に研究実施の了承を得た。
【結果】若年群は104名(平均年齢:26.1±4.9歳,勤務先平均PT人数:13.0±10.8人)で,勤務先は病院84%,診療所9%,介護老人保健施設4%,その他3%の順であった。経験群は50名(平均年齢:39.0±6.6歳,勤務先平均PT人数:10.4±15.1人)で,勤務先は病院64%,介護老人保健施設16%,診療所10%,その他10%の順であった。理学療法を実施する上の不安で,若年群の第1位は「自分の評価や治療に自信がない」41名(39.4%),第2位は「経験のない疾患の担当」14名(29.8%),第3位は「患者の急変」13名(12.5%)の順であった。一方,経験群の第1位は「経験のない疾患の担当」14名(28.0%),第2位は「患者の急変」14名(26.0%),第3位は「バイタルサインの見落とし」6名(12.0%)の順で,「不安なし」も3名(2.9%)いた。特に,「自分の評価や治療に自信がない」,「患者の急変」を各第1位に選択した者とそれ以外の順位にした者を両群で比較したところ,各有意差を認めた(p<0.01,p<0.05)。一方,職場の規則やシステムにおける不安で,若年群の第1位は「緊急時の組織の一員としての動き」35名(33.7%),第2位「臨床検査結果や心電図などの利用」8名(20.2%),第3位は「部門における中止基準の未設定」15名(14.4%)の順であった。一方,経験群の第1位は「臨床検査結果や心電図の利用」14名(28.0%),第2位は「緊急時の組織の一員としての動き」13名(26.0%),第3位は「部門における中止基準の未設定」6名(12.0%)の順で,「不安なし」も6名(12.0%)いた。
【考察】まず,両群の平均年齢の有意差を認めたが,勤務先の分散と勤務先平均PT人数には有意差を認めなかったことから,比較検討に値する分類と考えられた。第一に,理学療法を実施する上での不安は,若年群は経験群に比較して,PTとしての知識や技術的な部分に不安を示していることが分かった。一方,職場の規則やシステムにおける不安では,各選択肢について第1位に選んだ者とそれ以外の順位にした者の間に有意差が認めなかったことから,職場の組織的な課題よりもPT個人としての知識や技術的領域に関心が高いことが窺えた。また,経験群においても「経験のない疾患の担当」や「患者の急変」を不安要素に挙げたことは,理学療法の対象領域の拡大により,RMがより複雑多岐になっているものと推察された。PT個人の評価や治療技術の不安は,1対1の治療形態の多いPT業務の特徴が考えられる。第二に,職場の規則やシステムの不安については,両群ともに「緊急時の組織の一員としての動き」と「臨床検査結果や心電図の利用」が上位に挙がっており,いずれも部門のリーダーを中心とした管理運営システムの見直しや整備,また他部門との調整が必要であり,その周知が望まれる。
【理学療法学研究としての意義】理学療法のRMは,PTの技量を向上させる個人の努力と安定した職場システムの両者によって提供される。本研究によって,理学療法における個人と組織が持つ不安の整理でき,今後増加する若年層PTの卒後教育の手掛かりとすることができる。
【方法】対象は,(社)日本理学療法士協会会員で,兵庫県・長崎県・大分県で開催された各研修会に参加した50名・34名・70名の合計154名(男性105名,女性49名,平均年齢30.3±8.2歳)とした。自記式の質問紙法とし,調査項目は(1)勤務先の設置母体と規模,(2)理学療法部門の構成,(3)理学療法を実施する上での不安,(4)職場の規則やシステムの不安とした。(3),および(4)の回答は,複数の選択肢の中から重要と判断した順に3位までを選択させた。分析は,山田らの先行研究をもとに,対象全体を便宜上経験年数10年目未満(若年群)と10年目以上(経験群)に分類し,F検定,t検定,χ2検定を行い,両群を比較検討した。なお,有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮】研究は,個人情報保護法を遵守した。対象者には,口頭と書面にて研究の趣旨を説明し同意を得た。参加は個人の自由であることを説明した。さらに,兵庫県士会,長崎県士会,大分県士会に研究実施の了承を得た。
【結果】若年群は104名(平均年齢:26.1±4.9歳,勤務先平均PT人数:13.0±10.8人)で,勤務先は病院84%,診療所9%,介護老人保健施設4%,その他3%の順であった。経験群は50名(平均年齢:39.0±6.6歳,勤務先平均PT人数:10.4±15.1人)で,勤務先は病院64%,介護老人保健施設16%,診療所10%,その他10%の順であった。理学療法を実施する上の不安で,若年群の第1位は「自分の評価や治療に自信がない」41名(39.4%),第2位は「経験のない疾患の担当」14名(29.8%),第3位は「患者の急変」13名(12.5%)の順であった。一方,経験群の第1位は「経験のない疾患の担当」14名(28.0%),第2位は「患者の急変」14名(26.0%),第3位は「バイタルサインの見落とし」6名(12.0%)の順で,「不安なし」も3名(2.9%)いた。特に,「自分の評価や治療に自信がない」,「患者の急変」を各第1位に選択した者とそれ以外の順位にした者を両群で比較したところ,各有意差を認めた(p<0.01,p<0.05)。一方,職場の規則やシステムにおける不安で,若年群の第1位は「緊急時の組織の一員としての動き」35名(33.7%),第2位「臨床検査結果や心電図などの利用」8名(20.2%),第3位は「部門における中止基準の未設定」15名(14.4%)の順であった。一方,経験群の第1位は「臨床検査結果や心電図の利用」14名(28.0%),第2位は「緊急時の組織の一員としての動き」13名(26.0%),第3位は「部門における中止基準の未設定」6名(12.0%)の順で,「不安なし」も6名(12.0%)いた。
【考察】まず,両群の平均年齢の有意差を認めたが,勤務先の分散と勤務先平均PT人数には有意差を認めなかったことから,比較検討に値する分類と考えられた。第一に,理学療法を実施する上での不安は,若年群は経験群に比較して,PTとしての知識や技術的な部分に不安を示していることが分かった。一方,職場の規則やシステムにおける不安では,各選択肢について第1位に選んだ者とそれ以外の順位にした者の間に有意差が認めなかったことから,職場の組織的な課題よりもPT個人としての知識や技術的領域に関心が高いことが窺えた。また,経験群においても「経験のない疾患の担当」や「患者の急変」を不安要素に挙げたことは,理学療法の対象領域の拡大により,RMがより複雑多岐になっているものと推察された。PT個人の評価や治療技術の不安は,1対1の治療形態の多いPT業務の特徴が考えられる。第二に,職場の規則やシステムの不安については,両群ともに「緊急時の組織の一員としての動き」と「臨床検査結果や心電図の利用」が上位に挙がっており,いずれも部門のリーダーを中心とした管理運営システムの見直しや整備,また他部門との調整が必要であり,その周知が望まれる。
【理学療法学研究としての意義】理学療法のRMは,PTの技量を向上させる個人の努力と安定した職場システムの両者によって提供される。本研究によって,理学療法における個人と組織が持つ不安の整理でき,今後増加する若年層PTの卒後教育の手掛かりとすることができる。