[0318] 変形性膝関節症患者における下肢骨格筋量,大腿四頭筋筋量と膝関節伸展筋力との関係
キーワード:変形性膝関節症, 大腿四頭筋筋量, 超音波
【はじめに,目的】
一般的に変形性膝関節症(以下,膝OA)患者では,大腿四頭筋筋力が低下するとされており,谷口ら(2012)は膝OA患者では内側広筋,大腿直筋の筋量が低下することを指摘している。過去に我々は,健常前期高齢者の下肢骨格筋量(以下,LMV)と等速性膝関節伸展筋力(以下,膝伸展筋力)との間に相関があると報告した。また,福永ら(2000)は,中高年者の大腿四頭筋筋量(以下,QMV)と膝伸展筋力に強い相関があると報告した。しかしながら,膝OA患者を対象としたLMV,QMVと膝伸展筋力との関係について言及された報告は,我々の渉猟しうる限りない。そこで今回我々は,膝OA患者のLMV,QMVと膝伸展筋力との関係について検討したので報告する。
【方法】
対象は膝OA患者の女性29名49肢(Kellgren-Lawrence分類Grade1:1名1肢,Grade2:9名13肢,Grade3:16名19肢,Grade4:11名16肢)とした。LMVはTANITA社製体組成計BC-118Eを用いて8電極BIA法で得られたデータをもとに算出した。QMVの算出には,まず超音波法にて大腿四頭筋筋厚を測定した。大腿四頭筋筋厚は,安静背臥位にて大転子から膝関節裂隙までの距離を大腿長として,遠位50%の大腿直上を測定した。測定で得られた大腿四頭筋筋厚と大腿長をMiyataniら(2002)の推定式:[π×(筋厚/2)2×大腿長]×0.7839+610.948に代入してQMVを算出した。膝伸展筋力の測定は,Cybex Normを用いて60deg/secのピークトルクを評価値とした。統計学的処理は,体重当たりのLMV(以下,LMV/BW)と体重当たりの膝伸展筋力,体重当たりのQMV(以下,QMV/BW)と体重当たりの膝伸展筋力それぞれの関係について,Pearsonの積率相関係数を用いて検討した。有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
対象者には実験に先立ち,ヘルシンキ宣言の基本原則および追加原則を鑑み被検者に対して本研究の目的および実験への参加に伴う危険性についての十分な説明を行い,実験参加の同意を得た。
【結果】
LMVは6.6±0.7kg,LMV/BWは11.6±1.1kg/kg,QMVは785.8±65.7 cm3,QMV/BWは13.8±1.5 cm3/kgであった。膝伸展筋力は63.2±14.6Nm,体重当たりの膝伸展筋力は111.7±30.6Nm/kgであった。LMV/BWと体重当たりの膝伸展筋力(r=0.42),QMV/BWと体重当たりの膝伸展筋力(r=0.54)の間にはともに有意な中等度の正の相関を認めた(p<0.01)。
【考察】
今回,LMVの測定に用いたインピーダンス法は,身体の電気抵抗値から体組成を推定する方法である。インピーダンス法は,簡便に測定可能だが,室温,測定の時間帯,飲食や睡眠前後といった条件による日内変動や,身長,体重,体脂肪や脱水状態といった日間変動,また年齢により算出に用いられる推定式が決まっており,条件が多岐にわたる。このため,他者との比較や経時的な比較を行う際には条件設定に十分に配慮する必要がある。過去に我々は,膝OA患者においてGradeの進行とインピーダンス法で求めたLMVは正の相関を示し,Gradeの進行と膝伸展筋力は負の相関を示すと報告した。また栗生田ら(2002)は,Gradeが進行するにつれBMIが高くなると報告した。膝OA患者を対象とするインピーダンス法では,Gradeが進行するにつれ体重が増加する傾向があり,それに伴った下肢筋量の増加によりLMVが過大評価される恐れがある。このため,今回はLMVの実測値ではなく,膝OA患者の体重あたりのLMVを求め,体重による影響を可能な限り除外した。しかしながら,LMVは,下肢全体の筋量の評価となる点には注意が必要である。一方,QMV測定は,大腿四頭筋個別の評価を可能とする方法である。これまでMRI法やCT法など多くの報告がされているが,いずれの方法も侵襲的であり,場所が限定され,非常に高価という問題が挙げられる。これに対して,今回用いた超音波法は,技術の習得が必要ではあるが,比較的安価で非侵襲的であり,測定機器の移動が可能であるため場所を選ばず,即時的にQMVの評価が可能である。ここで,今回の結果を見てみると,QMV/BWと体重当たりの膝伸展筋力との間には,LMV/BWと体重当たりの膝伸展筋力との関係と比較してより高い相関を示した。したがって,インピーダンス法で求めたLMV/BWと比較して,超音波法で求めたQMV/BWを用いることで膝OA患者における筋量と膝伸展筋力の関係をより詳細に検討することが可能になると考えた。
【理学療法学研究としての意義】
今回の検討から,膝OA患者に対するインピーダンス法を用いたLMVの評価と比較して,超音波法を用いたQMVの評価により,膝伸展筋力との関係を詳細に検討できることが示唆され,理学療法研究として意義があると考えた。
一般的に変形性膝関節症(以下,膝OA)患者では,大腿四頭筋筋力が低下するとされており,谷口ら(2012)は膝OA患者では内側広筋,大腿直筋の筋量が低下することを指摘している。過去に我々は,健常前期高齢者の下肢骨格筋量(以下,LMV)と等速性膝関節伸展筋力(以下,膝伸展筋力)との間に相関があると報告した。また,福永ら(2000)は,中高年者の大腿四頭筋筋量(以下,QMV)と膝伸展筋力に強い相関があると報告した。しかしながら,膝OA患者を対象としたLMV,QMVと膝伸展筋力との関係について言及された報告は,我々の渉猟しうる限りない。そこで今回我々は,膝OA患者のLMV,QMVと膝伸展筋力との関係について検討したので報告する。
【方法】
対象は膝OA患者の女性29名49肢(Kellgren-Lawrence分類Grade1:1名1肢,Grade2:9名13肢,Grade3:16名19肢,Grade4:11名16肢)とした。LMVはTANITA社製体組成計BC-118Eを用いて8電極BIA法で得られたデータをもとに算出した。QMVの算出には,まず超音波法にて大腿四頭筋筋厚を測定した。大腿四頭筋筋厚は,安静背臥位にて大転子から膝関節裂隙までの距離を大腿長として,遠位50%の大腿直上を測定した。測定で得られた大腿四頭筋筋厚と大腿長をMiyataniら(2002)の推定式:[π×(筋厚/2)2×大腿長]×0.7839+610.948に代入してQMVを算出した。膝伸展筋力の測定は,Cybex Normを用いて60deg/secのピークトルクを評価値とした。統計学的処理は,体重当たりのLMV(以下,LMV/BW)と体重当たりの膝伸展筋力,体重当たりのQMV(以下,QMV/BW)と体重当たりの膝伸展筋力それぞれの関係について,Pearsonの積率相関係数を用いて検討した。有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
対象者には実験に先立ち,ヘルシンキ宣言の基本原則および追加原則を鑑み被検者に対して本研究の目的および実験への参加に伴う危険性についての十分な説明を行い,実験参加の同意を得た。
【結果】
LMVは6.6±0.7kg,LMV/BWは11.6±1.1kg/kg,QMVは785.8±65.7 cm3,QMV/BWは13.8±1.5 cm3/kgであった。膝伸展筋力は63.2±14.6Nm,体重当たりの膝伸展筋力は111.7±30.6Nm/kgであった。LMV/BWと体重当たりの膝伸展筋力(r=0.42),QMV/BWと体重当たりの膝伸展筋力(r=0.54)の間にはともに有意な中等度の正の相関を認めた(p<0.01)。
【考察】
今回,LMVの測定に用いたインピーダンス法は,身体の電気抵抗値から体組成を推定する方法である。インピーダンス法は,簡便に測定可能だが,室温,測定の時間帯,飲食や睡眠前後といった条件による日内変動や,身長,体重,体脂肪や脱水状態といった日間変動,また年齢により算出に用いられる推定式が決まっており,条件が多岐にわたる。このため,他者との比較や経時的な比較を行う際には条件設定に十分に配慮する必要がある。過去に我々は,膝OA患者においてGradeの進行とインピーダンス法で求めたLMVは正の相関を示し,Gradeの進行と膝伸展筋力は負の相関を示すと報告した。また栗生田ら(2002)は,Gradeが進行するにつれBMIが高くなると報告した。膝OA患者を対象とするインピーダンス法では,Gradeが進行するにつれ体重が増加する傾向があり,それに伴った下肢筋量の増加によりLMVが過大評価される恐れがある。このため,今回はLMVの実測値ではなく,膝OA患者の体重あたりのLMVを求め,体重による影響を可能な限り除外した。しかしながら,LMVは,下肢全体の筋量の評価となる点には注意が必要である。一方,QMV測定は,大腿四頭筋個別の評価を可能とする方法である。これまでMRI法やCT法など多くの報告がされているが,いずれの方法も侵襲的であり,場所が限定され,非常に高価という問題が挙げられる。これに対して,今回用いた超音波法は,技術の習得が必要ではあるが,比較的安価で非侵襲的であり,測定機器の移動が可能であるため場所を選ばず,即時的にQMVの評価が可能である。ここで,今回の結果を見てみると,QMV/BWと体重当たりの膝伸展筋力との間には,LMV/BWと体重当たりの膝伸展筋力との関係と比較してより高い相関を示した。したがって,インピーダンス法で求めたLMV/BWと比較して,超音波法で求めたQMV/BWを用いることで膝OA患者における筋量と膝伸展筋力の関係をより詳細に検討することが可能になると考えた。
【理学療法学研究としての意義】
今回の検討から,膝OA患者に対するインピーダンス法を用いたLMVの評価と比較して,超音波法を用いたQMVの評価により,膝伸展筋力との関係を詳細に検討できることが示唆され,理学療法研究として意義があると考えた。