第49回日本理学療法学術大会

講演情報

発表演題 口述 » 運動器理学療法 口述

骨・関節5

2014年5月30日(金) 14:25 〜 15:15 第11会場 (5F 501)

座長:阿南雅也(広島大学大学院医歯薬保健学研究院)

運動器 口述

[0319] 変形性膝関節症と足趾握力との関係

瓜谷大輔1, 福本貴彦1, 福西優2, 明道知己3 (1.畿央大学健康科学部理学療法学科, 2.大和橿原病院リハビリテーション科, 3.西の京病院リハビリテーション科)

キーワード:変形性膝関節症, 足趾, 筋力

【はじめに,目的】
変形性膝関節症(以下,膝OA)患者の歩行を観察すると,歩行時に足趾が十分に接地しておらず,機能していない症例がみられることがある。膝OA患者の足趾握力低下についてはいくつか報告があるが,両者の関係については明らかではない。そこで本研究の目的は膝OAと足趾握力との関係を検証することとした。
【方法】
対象は膝OA患者78名(OA群,男性12名,女性66名,平均年齢73.5±7.3歳)および健康な地域在住者67名(対照群,男性13名,女性54名,平均年齢72.5±5.5歳)とした。OA群はKellgren-Lawrence分類でgrade 2が8名,grade 3が32名,grade 4が38名であった。対照群は膝に著明な変形や痛みを有せず,独歩で外出が可能な者とした。測定項目はBMI,足趾握力,等尺性膝伸展筋力(以下,膝伸展筋力)とした。足趾握力は足趾筋力測定器(TKK3365,竹井機器工業)を,膝伸展筋力はハンドヘルドダイナモメータ(μTASF-1,アニマ)を用いて測定した。各筋力は2回測定し,その平均値を採用した。OA群は患側のデータ,対照群は利き足をボールを蹴る側として同定し,非利き足側のデータを使用した。得られたデータは対応のないt検定で2群間を比較した。また各群を従属変数とし(対照群=0,OA群=1),年齢,性別(男性=0,女性=1),BMI,足趾握力,膝伸展筋力を独立変数として,多重ロジスティック回帰分析を尤度比検定による変数増加法を用いて行った。統計解析にはIBM SPSS Statistics 20を使用した。有意水準は5%未満とした。なお本研究はJSPS科研費25870971の助成を受けて実施した。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は某大学研究倫理委員会の承認を得て実施した。被験者には事前に研究に関する説明を行い,署名による同意を得た。
【結果】
対照群に対してOA群は,BMI(対照群;21.7±2.6,OA群;25.5±3.5)が有意に高値で(p<0.01),足趾握力(同11.6±5.2kg,7.4±4.2kg)と膝伸展筋力(同26.8±7.5kg,15.3±6.9kg)が有意に低値であった(各p<0.01)。多重ロジスティック回帰分析では,性別(オッズ比0.04,95%信頼区間0.01-0.31,p<0.01),BMI(同1.98,1.49-2.63,p<0.01)と膝伸展筋力(同0.71,0.63-0.80,p<0.01)が選択された。判別的中率は90.9%であった。
【考察】
本研究の結果,OA群では対照群と比較して足趾握力が有意に低下していた。今回の結果から因果関係は明らかにできないが,足趾握力が低下し足趾の接地や蹴りだしが十分に行えなくなることで,膝への機械的なストレスが増強し退行変性を促している可能性が考えられた。一方,膝OAに伴う痛みや可動域制限などによって活動量が減少し,足趾握力の筋力低下が生じている可能性も考えられた。またOA群は対照群よりも有意に過体重で,膝伸展筋力の有意な低下が認められ,多重ロジスティック回帰分析の結果からは性別,BMI,膝伸展筋力がOAに影響を与える要因として選択された。この結果は,従来報告されている知見と一致するものであった。足趾握力についてもOA群で有意に低下していたが,本研究では膝OAと有意な関連要因としては選択されなかった。その理由としてOA群内での重症度の偏りや膝OA発症からの経過の影響が考えられた。OA群は78名中71名が全人工膝関節置換術目的の入院患者で,重症度の内訳はgrade 4が48.7%であったのに対し,grade 2は10.3%であったことから,重症例が多かったと考えられる。さらに手術目的であった対象者は発症から長期間経過していることも予測され,その間の活動性の低下や痛みの増強による膝伸展筋力低下が著明であったため,今回の結果に影響している可能性があると考えた。またBMIについても活動性の低下による体重の増加が影響している可能性があると考えた。一方,対照群は自治体主催の健康関連イベントに来場した者であったため,普段から健康への意識が高く,日常的に活動量の多い者が含まれていた可能性がある。ゆえに膝伸展筋力が高値で,体重が適性に維持されておりBMIが低値を示していたのではないかと考えた。そしてこの両群の特徴の違いが,BMIと膝伸展筋力が結果により強く影響する原因となったのではないかと考えた。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は膝OAへの影響要因を明らかにし,膝OA患者の予後予測や新たな理学療法プログラムの確立,発症予防に関する研究へと発展させるための最初のステップとして実施した研究である。足趾機能の低下は膝への機械的ストレスを変化させると考えられるため,今後は対象者のバリエーションを増やしつつ,足趾握力と重症度,アライメント,痛み,能力障害との関係の解明を縦断研究,介入研究も通じて調査していく予定である。