[0321] 高齢者の膝関節痛と骨棘および膝蓋上嚢肥厚の関係性
Keywords:変形性膝関節症, 骨棘, 膝蓋上嚢肥厚
【はじめに,目的】
変形性膝関節症の機能障害は骨棘の形成や関節液の貯留などによって生じると考えらえている。本邦の疫学調査より高齢者の約半数は変形性膝関節症を有すると報告されており,日常生活が自立していても変形性膝関節症を発症している高齢者は多い。これまでの研究では変形性膝関節症と診断されている患者が対象とされてきた。しかし,疾病予防という観点からは早期症状の原因を調べる必要がある。そこで,本実験では日常生活が自立している地域在住高齢者を対象として,膝の疼痛や膝関節機能に関連する要素を身体機能および超音波画像評価から検討した。
【方法】
対象は60歳以上の地域在住女性77名(年齢73.2±5.9歳)とした。日常生活に介助が必要な方および人工膝関節置換術後の方は除外した。過去10年以内に3か月以上続く膝の痛みを経験した者を痛みありとした。膝関節機能評価はWestern Ontario and McMaster Universities Arthritis Index(WOMAC)を用いた。WOMACは0~96点で評価する質問式評価尺度であり点数が高いほど状態が悪化していることを表す。超音波診断装置(Logiq Book XP)による撮像画像から膝関節の骨棘,膝蓋上嚢,外側広筋・中間広筋を撮像した。骨棘の測定は膝伸展位で内側裂隙,関節上嚢の測定は膝30°屈曲位にて膝蓋骨上縁,外側広筋及び中間広筋の筋厚測定は膝伸展位で上前腸骨棘と膝蓋骨上縁を結んだ線の遠位60%の位置から3cm外側部に超音波プローブをそれぞれあてて背臥位にて撮像した。超音波の画像解析にはImage Jを用い,超音波測定に関与せずかつ被験者の情報を得ていない検者が担当し,大腿骨骨棘の大きさ,膝蓋上嚢の厚さ,中間広筋・外側広筋の筋厚を測定した。身体機能の測定は膝伸展筋力,5m歩行時間,Timed up and go testを計測した。骨棘と膝蓋上嚢肥厚の影響を検討するため,骨棘なし・膝蓋上嚢肥厚なし(ノーマル群),骨棘あり・膝蓋上嚢肥厚なし(骨棘群),骨棘なし・膝蓋上嚢肥厚あり(膝蓋上嚢肥厚群),骨棘あり・膝蓋上嚢肥厚あり(骨棘・膝蓋上嚢肥厚群)の4群に分類し,一元配置分散分析および多重比較,ボンフェローニ補正カイ二乗検定を用いて比較した。
【倫理的配慮,説明と同意】
被験者には研究の内容を説明し,同意の下で実施した。なお,本研究は本学の研究倫理委員会で承認されている。
【結果】
ノーマル群24名,骨棘群11名,上嚢肥厚群20名,骨棘・上嚢肥厚群22名に分類された。痛みを有する者はノーマル群1/24名(4%),骨棘群1/11名(9%),膝蓋上嚢肥厚群3/20名(15%),骨棘・膝蓋上嚢肥厚群13/22名(59%)であり,骨棘・膝蓋上嚢肥厚群が他3群よりも有意に痛みを有する割合が高かった。また,WOMAC点数はノーマル群0.6±2.8点,骨棘群3.4±8.7点,膝蓋上嚢肥厚群1.4±4.2点,骨棘・膝蓋上嚢肥厚群8.9±12.9点で,骨棘・膝蓋上嚢肥厚群がノーマル群および膝蓋上嚢肥厚群よりも有意に高い点数であった。外側広筋・中間広筋の筋厚,膝伸展筋力,5m歩行時間,Timed up and go testには有意差を認めなかった。
【考察】
骨棘と膝蓋上嚢肥厚の両方を有している者に疼痛の発生および膝関節機能の低下が認められた。これまで骨棘や水腫が関節内構造体を圧迫して疼痛や機能障害を発生させると考えられてきたが,本研究のように機能障害が軽度の高齢者では,骨棘や関節水腫の貯留の両方が見られる場合に疼痛や機能障害が発生しやすいことがわかった。膝関節周囲の組織変形や炎症など複数の要素が関連して,疼痛や機能障害を発生させている可能性が高いと考えらえる。
【理学療法学研究としての意義】
本研究の結果は早期の変形性膝関節症の臨床症状をとらえた研究であり,膝の疼痛や機能障害のメカニズムを解明する情報となりうる。
変形性膝関節症の機能障害は骨棘の形成や関節液の貯留などによって生じると考えらえている。本邦の疫学調査より高齢者の約半数は変形性膝関節症を有すると報告されており,日常生活が自立していても変形性膝関節症を発症している高齢者は多い。これまでの研究では変形性膝関節症と診断されている患者が対象とされてきた。しかし,疾病予防という観点からは早期症状の原因を調べる必要がある。そこで,本実験では日常生活が自立している地域在住高齢者を対象として,膝の疼痛や膝関節機能に関連する要素を身体機能および超音波画像評価から検討した。
【方法】
対象は60歳以上の地域在住女性77名(年齢73.2±5.9歳)とした。日常生活に介助が必要な方および人工膝関節置換術後の方は除外した。過去10年以内に3か月以上続く膝の痛みを経験した者を痛みありとした。膝関節機能評価はWestern Ontario and McMaster Universities Arthritis Index(WOMAC)を用いた。WOMACは0~96点で評価する質問式評価尺度であり点数が高いほど状態が悪化していることを表す。超音波診断装置(Logiq Book XP)による撮像画像から膝関節の骨棘,膝蓋上嚢,外側広筋・中間広筋を撮像した。骨棘の測定は膝伸展位で内側裂隙,関節上嚢の測定は膝30°屈曲位にて膝蓋骨上縁,外側広筋及び中間広筋の筋厚測定は膝伸展位で上前腸骨棘と膝蓋骨上縁を結んだ線の遠位60%の位置から3cm外側部に超音波プローブをそれぞれあてて背臥位にて撮像した。超音波の画像解析にはImage Jを用い,超音波測定に関与せずかつ被験者の情報を得ていない検者が担当し,大腿骨骨棘の大きさ,膝蓋上嚢の厚さ,中間広筋・外側広筋の筋厚を測定した。身体機能の測定は膝伸展筋力,5m歩行時間,Timed up and go testを計測した。骨棘と膝蓋上嚢肥厚の影響を検討するため,骨棘なし・膝蓋上嚢肥厚なし(ノーマル群),骨棘あり・膝蓋上嚢肥厚なし(骨棘群),骨棘なし・膝蓋上嚢肥厚あり(膝蓋上嚢肥厚群),骨棘あり・膝蓋上嚢肥厚あり(骨棘・膝蓋上嚢肥厚群)の4群に分類し,一元配置分散分析および多重比較,ボンフェローニ補正カイ二乗検定を用いて比較した。
【倫理的配慮,説明と同意】
被験者には研究の内容を説明し,同意の下で実施した。なお,本研究は本学の研究倫理委員会で承認されている。
【結果】
ノーマル群24名,骨棘群11名,上嚢肥厚群20名,骨棘・上嚢肥厚群22名に分類された。痛みを有する者はノーマル群1/24名(4%),骨棘群1/11名(9%),膝蓋上嚢肥厚群3/20名(15%),骨棘・膝蓋上嚢肥厚群13/22名(59%)であり,骨棘・膝蓋上嚢肥厚群が他3群よりも有意に痛みを有する割合が高かった。また,WOMAC点数はノーマル群0.6±2.8点,骨棘群3.4±8.7点,膝蓋上嚢肥厚群1.4±4.2点,骨棘・膝蓋上嚢肥厚群8.9±12.9点で,骨棘・膝蓋上嚢肥厚群がノーマル群および膝蓋上嚢肥厚群よりも有意に高い点数であった。外側広筋・中間広筋の筋厚,膝伸展筋力,5m歩行時間,Timed up and go testには有意差を認めなかった。
【考察】
骨棘と膝蓋上嚢肥厚の両方を有している者に疼痛の発生および膝関節機能の低下が認められた。これまで骨棘や水腫が関節内構造体を圧迫して疼痛や機能障害を発生させると考えられてきたが,本研究のように機能障害が軽度の高齢者では,骨棘や関節水腫の貯留の両方が見られる場合に疼痛や機能障害が発生しやすいことがわかった。膝関節周囲の組織変形や炎症など複数の要素が関連して,疼痛や機能障害を発生させている可能性が高いと考えらえる。
【理学療法学研究としての意義】
本研究の結果は早期の変形性膝関節症の臨床症状をとらえた研究であり,膝の疼痛や機能障害のメカニズムを解明する情報となりうる。