[0325] Full Can Trainingが肩関節周囲筋の筋活動に与える影響
キーワード:棘上筋, 筋活動, トレーニング
【はじめに,目的】
棘上筋の機能低下は肩関節周囲筋の過活動を引き起こし,上腕骨の上方偏位を生じさせた結果,肩峰下インピンジメントや腱板損傷等の肩関節障害をきたす(Weiner et al,1970)。そこで,棘上筋を強化することにより,肩関節運動時の肩関節周囲筋と棘上筋の筋活動の不均衡を改善させ,上腕骨頭を適切な位置に保つことで肩関節障害予防につながると考えられている(筒井,1992)。現在,棘上筋トレーニングとしてKellyら(1996)の提唱したFull Can Training(肩関節外旋位での肩甲骨面挙上運動)が広く知られている。しかし,長期間にわたるFull Can Trainingの実施前後での肩関節周囲筋の筋活動を捉えた報告はなく,Full Can Trainingが肩関節周囲筋の筋活動に及ぼす影響についても不明である。そこで本研究は,Full Can Trainingが肩甲骨面挙上時の肩関節周囲筋の筋活動に及ぼす影響について検証した。
【方法】
対象は,肩関節疾患の既往のない成人男性16名とし,鎖骨骨折既往のある1肩を除外した31肩とした。研究プロトコールは,対象者に対してトレーニング介入前にベースライン値として肩関節周囲筋筋活動を測定し,その後週5回のFull Can Trainingを6週間実施した。トレーニング期間中は,検者によりトレーニング方法の確認(週2回)を毎週実施した。6週間のトレーニング終了後に再度肩関節周囲筋筋活動を測定した。肩関節周囲筋筋活動計測には,表面筋電図計(PH-2501/8EMGアイソレータ,DKH社)を使用し,被験筋として棘下筋,僧帽筋上部線維,三角筋前部・中部・後部線維の筋活動をトレーニング前後に計測した。なお,事前に各筋の最大髄意収縮(Maximum Voluntary Contraction:MVC)時の筋活動を計測した。肩関節周囲筋の筋活動は,各筋のMVC時の筋活動で除した値(%MVC)で算出され,2回の平均値を肩関節周囲筋筋活動として採用した。対象者は座位姿勢とし,肩甲骨面挙上30°の位置で手関節に2kgの負荷に設定したセラバンドを装着した肢位,および手関節への徒手抵抗による最大筋力発揮時の筋活動を測定した。なお,これらの施行動作は肩関節内旋および外旋位の2条件にて行った。棘上筋トレーニングは,Full Can Trainingとして,対象者を立位にて肩関節外旋位での肩甲骨面挙上0~30°の反復運動を両肩同時に行った。抵抗にはイエローセラバンド(#DAB-1,D&M)を使用し,肩甲骨面挙上30°の位置で2kg負荷となるように長さを調整して手関節に装着した。1回の反復運動を2秒で行うよう指示した。対象者は,反復運動20回を1セットとし,1日に3セット(セット間のインターバルは1分)を実施し,棘上筋トレーニングは6週間実施した。肩関節周囲筋の筋活動(%MVC)をトレーニング前後の2条件間でWilcoxonの符号付順位和検定を用いて比較し,有意水準は5%未満とした。統計学的解析には統計ソフトSPSS11.0J for Windowsを使用した。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は本学研究倫理審査委員会の承認を得た(承認番号2012-014)。なお,本研究実施に際し,対象者に研究内容に関して説明し,書面にて同意を得た。
【結果】
Full Can Trainingによって,セラバンド2kg負荷時(内旋位:介入前11.95±6.29%,介入後9.09±4.01%,外旋位:介入前12.77±7.39%,介入後9.60±3.84%)および最大筋力発揮時の肩関節内旋位の肢位(介入前67.93±30.38%,介入後55.06±25.28%)において僧帽筋上部線維の筋活動が有意に減少した(p<0.05)。また,セラバンド2kg負荷時(内旋位:介入前10.86±4.36%,介入後9.01±2.54%,外旋位:介入前11.08±5.04%,介入後9.02±2.65%)の棘下筋の筋活動が有意に減少した(p<0.05)。なお,三角筋前部・中部線維には,トレーニングによる有意な変化は認められなかった。三角筋後部線維は最大筋力発揮時(内旋位:介入前57.40±18.12%,介入後71.10±25.75%,外旋位:介入前71.74±19.46%,介入後91.03±27.89%)の筋活動は有意に増大した(p<0.05)。
【考察】
本研究の結果から,Full Can Trainingによって僧帽筋上部線維の筋活動が有意に抑制されたことが明らかになった。これは,Full Can Trainingが,肩関節外転運動の代償運動である肩甲骨挙上と上方回旋運動の主動作筋である僧帽筋上部線維の過活動を抑制したと考えられる。また,棘下筋の筋活動が減少したことから,Full Can Trainingによって棘上筋の選択的なトレーニングが行われ,棘上筋に対する補完機能を有する棘下筋への抑制が見られたものと考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
腱板損傷等に用いられるFull Can Trainingは,僧帽筋上部線維と棘下筋の筋活動を有意に抑制させ,肩関節周囲筋群と棘上筋の筋活動に対する不均衡を改善させる可能性が示唆された。
棘上筋の機能低下は肩関節周囲筋の過活動を引き起こし,上腕骨の上方偏位を生じさせた結果,肩峰下インピンジメントや腱板損傷等の肩関節障害をきたす(Weiner et al,1970)。そこで,棘上筋を強化することにより,肩関節運動時の肩関節周囲筋と棘上筋の筋活動の不均衡を改善させ,上腕骨頭を適切な位置に保つことで肩関節障害予防につながると考えられている(筒井,1992)。現在,棘上筋トレーニングとしてKellyら(1996)の提唱したFull Can Training(肩関節外旋位での肩甲骨面挙上運動)が広く知られている。しかし,長期間にわたるFull Can Trainingの実施前後での肩関節周囲筋の筋活動を捉えた報告はなく,Full Can Trainingが肩関節周囲筋の筋活動に及ぼす影響についても不明である。そこで本研究は,Full Can Trainingが肩甲骨面挙上時の肩関節周囲筋の筋活動に及ぼす影響について検証した。
【方法】
対象は,肩関節疾患の既往のない成人男性16名とし,鎖骨骨折既往のある1肩を除外した31肩とした。研究プロトコールは,対象者に対してトレーニング介入前にベースライン値として肩関節周囲筋筋活動を測定し,その後週5回のFull Can Trainingを6週間実施した。トレーニング期間中は,検者によりトレーニング方法の確認(週2回)を毎週実施した。6週間のトレーニング終了後に再度肩関節周囲筋筋活動を測定した。肩関節周囲筋筋活動計測には,表面筋電図計(PH-2501/8EMGアイソレータ,DKH社)を使用し,被験筋として棘下筋,僧帽筋上部線維,三角筋前部・中部・後部線維の筋活動をトレーニング前後に計測した。なお,事前に各筋の最大髄意収縮(Maximum Voluntary Contraction:MVC)時の筋活動を計測した。肩関節周囲筋の筋活動は,各筋のMVC時の筋活動で除した値(%MVC)で算出され,2回の平均値を肩関節周囲筋筋活動として採用した。対象者は座位姿勢とし,肩甲骨面挙上30°の位置で手関節に2kgの負荷に設定したセラバンドを装着した肢位,および手関節への徒手抵抗による最大筋力発揮時の筋活動を測定した。なお,これらの施行動作は肩関節内旋および外旋位の2条件にて行った。棘上筋トレーニングは,Full Can Trainingとして,対象者を立位にて肩関節外旋位での肩甲骨面挙上0~30°の反復運動を両肩同時に行った。抵抗にはイエローセラバンド(#DAB-1,D&M)を使用し,肩甲骨面挙上30°の位置で2kg負荷となるように長さを調整して手関節に装着した。1回の反復運動を2秒で行うよう指示した。対象者は,反復運動20回を1セットとし,1日に3セット(セット間のインターバルは1分)を実施し,棘上筋トレーニングは6週間実施した。肩関節周囲筋の筋活動(%MVC)をトレーニング前後の2条件間でWilcoxonの符号付順位和検定を用いて比較し,有意水準は5%未満とした。統計学的解析には統計ソフトSPSS11.0J for Windowsを使用した。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は本学研究倫理審査委員会の承認を得た(承認番号2012-014)。なお,本研究実施に際し,対象者に研究内容に関して説明し,書面にて同意を得た。
【結果】
Full Can Trainingによって,セラバンド2kg負荷時(内旋位:介入前11.95±6.29%,介入後9.09±4.01%,外旋位:介入前12.77±7.39%,介入後9.60±3.84%)および最大筋力発揮時の肩関節内旋位の肢位(介入前67.93±30.38%,介入後55.06±25.28%)において僧帽筋上部線維の筋活動が有意に減少した(p<0.05)。また,セラバンド2kg負荷時(内旋位:介入前10.86±4.36%,介入後9.01±2.54%,外旋位:介入前11.08±5.04%,介入後9.02±2.65%)の棘下筋の筋活動が有意に減少した(p<0.05)。なお,三角筋前部・中部線維には,トレーニングによる有意な変化は認められなかった。三角筋後部線維は最大筋力発揮時(内旋位:介入前57.40±18.12%,介入後71.10±25.75%,外旋位:介入前71.74±19.46%,介入後91.03±27.89%)の筋活動は有意に増大した(p<0.05)。
【考察】
本研究の結果から,Full Can Trainingによって僧帽筋上部線維の筋活動が有意に抑制されたことが明らかになった。これは,Full Can Trainingが,肩関節外転運動の代償運動である肩甲骨挙上と上方回旋運動の主動作筋である僧帽筋上部線維の過活動を抑制したと考えられる。また,棘下筋の筋活動が減少したことから,Full Can Trainingによって棘上筋の選択的なトレーニングが行われ,棘上筋に対する補完機能を有する棘下筋への抑制が見られたものと考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
腱板損傷等に用いられるFull Can Trainingは,僧帽筋上部線維と棘下筋の筋活動を有意に抑制させ,肩関節周囲筋群と棘上筋の筋活動に対する不均衡を改善させる可能性が示唆された。