第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 口述 » 運動器理学療法 口述

骨・関節6

2014年5月30日(金) 14:25 〜 15:15 第12会場 (5F 502)

座長:尾崎尚代(昭和大学藤が丘病院リハビリテーション部)

運動器 口述

[0327] 腱板機能強化の再考

熊田仁 (藍野大学医療保健学部理学療法学科)

キーワード:肩関節, 運動療法, 腱板機能

【はじめに,目的】
肩関節の機能障害に対する運動療法の目的は,関節可動域の拡大や筋力増強,日常生活動作(Actibity of dialy living:以下ADLと略す)の改善を目的に行われる。しかし,その方法論については画一的なものはなく,腱板機能の機能的筋収縮の改善に適したトレーニングは確立されていない。特に腱板のDepressorとしての強化方法について明言されたものは見当たらない。本研究の目的は,肩峰下でのImpingementの予防に必要な烏口肩峰アーチ下の拡大に,腱板機能がどのように関与しているかを検証することである。
【方法】
健常成人男性10名を対象とした。肩関節10°屈曲・外転,内外旋0°,肘関節伸展位,手関節掌屈位の肢位(基本肢位)とし,上肢押し出し動作(長軸方向への押し出し)時の烏口肩峰靭帯(Coraco-acromial ligament:以下CALと略す)と上腕骨頭との間隙の距離と動作前後の棘上筋の筋厚を超音波測定器(FUJIFILM社製FAZONE C8 8MHzのプローブ,リニアスキャン)を用いて測定した。測定条件は,下垂位・0Nm(基本肢位の状態)・5Nm(5Nmの強さで押し出す)・10Nm(10Nmの強さで押し出す)の4条件で測定した。また,押し出し動作の適性強度についても検証した。統計処理は,一元配置分散分析(反復検定)を用いて検討し,多重比較にはBonferroni法を用いた。統計学的有意判定基準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
研究の実施にあたり,ヘルシンキ宣言に基づき実施計画書を作成し,所属研究倫理委員会の承認を得た。また,被験者に対し十分なインフォームド・コンセントを実施し,実験参加の同意を得た。
【結果】
①CAL下の間隙距離の変化量においては,下垂・0Nm・5Nm・10Nmと負荷量が増加するに従いCAL下の間隙距離の変化量は増加を示し,下垂と5Nm間,下垂と10Nm間,および0Nmと5Nm間で有意差が認められた(p<0.05)。②課題動作強度による棘上筋の筋厚の変化については,起始部の0Nmと5Nm間の検定で有意差を認め,5Nm強度での押し出し動作で棘上筋起始部の筋厚が減少する結果となった(p<0.05)。しかし,より負荷量の多い10Nmでは,起始部・中央部ともに有意な変化は示さなかった。
【考察】
棘上筋の機能としては,外転運動の初期外転力(Starting Muscle)としての働きと,骨頭の上方移動を抑制する支点形成力(Depressor)としての働きがある。肩関節挙上時には,この支点形成力が重要であり,この働きにより骨頭のスムーズなCAL下への入り込みが行なわれる。しかし,多くの肩関節機能障害例では,このCAL下への骨頭の入り込みが行なわれず,肩峰下と上腕骨大結節が衝突し,腱板組織や滑液包を挟み込むいわゆるImpingement現象が認められる。このImpingmentの原因については,肩関節回旋筋腱板の機能低下や,疼痛・肩関節拘縮に伴う骨頭の上方偏移が原因であるとされ様々な運動療法が思案されている。しかしこのImpingmentを直接予防するための運動療法は明確には提示されていない。一般的に肩関節挙上には,肩甲骨の上方回旋は肩関節角度が30°以上で大きくなり,30°以下の角度では肩甲骨の上方回旋はあまり認められないとされている。しかし,肩甲上腕関節の単独運動では22°の外転運動で約1cmの骨頭上方移動を生じ,関節包内での「転がり」運動だけでは肩峰と上腕骨頭の衝突が生じ,肩峰下滑液包(SAB)等が挟まれる事になる。この現象を防いでいるのが腱板のDepressorとしての働きである骨頭の下方への「すべり」運動の誘導である。今回の研究では,この棘上筋のDepressorとしての働きに焦点を当て,Depressorとして上腕骨頭を下方に滑らせる際の棘上筋の筋活動とCAL下の間隙を測定した。今回実施した押し出し動作では,5Nm程度の強度で押し出し動作を行なうと,CAL下と上腕骨骨頭との距離は有意に増加する結果となった。この結果より押し出し動作では,CAL下の間隙の拡大が誘導され,そのkey muscleとしての棘上筋の働きが重要であることが示唆された。また,押し出し動作時の強度においては,5Nm程度の軽い負荷での運動が有用であることが分かった。このような結果を踏まえると,臨症上では,柔らかい直径5~10cm程度のボールを肘関節伸展位で床に軽く押し付けるような運動がCAL間隙を広げ,impingement回避を目的とした腱板機能の強化が行えるのではないかと考える。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は肩回旋筋腱板のDepressorとしての機能を超音波測定器を用いて評価・検討し,腱板機能不全に対する新しい運動療法の提案を行うものである。