[0328] 脳卒中片麻痺患者での「歩行アシスト」による歩容変化の検討
キーワード:歩行, ロボット, 三次元加速度センサ
【はじめに,目的】
近年,リハビリテーションにおいてロボット技術の導入が進んでいる。本田技術研究所装着型歩行補助装置「歩行アシスト」は,対象者の腰部から大腿部に装着し,歩行リズムの相互適応現象を利用して,股関節屈曲伸展運動をアシストするトルクを発生し,歩行運動を支援する装置である。この歩行アシストから得られる情報は股関節の角度変化と歩行速度のみであり,臨床においての歩行評価はセラピストの目視による主観的評価と,装着者の「歩きやすい」という自覚に頼らざるを得ない。様々な疾患で歩行アシストの適合性や有用性などを検証していくにあたり,定量的かつ容易な評価が必要であると考える。そこで今回,脳卒中片麻痺患者での歩行アシストによる歩容変化を,三次元加速度センサを用いて検討した。
【方法】
対象はプラスチック製短下肢装具とT字杖を使用し歩行自立している脳卒中片麻痺患者男性2名(60~68歳,BRS:IV)とした。測定は直線約30mの歩行路を自由歩行速度にて実施した。
歩行アシストは股関節屈曲伸展と左右それぞれアシスト量を設定することができる。対象者に最適なアシスト量を検討する為,様々な設定で歩行計測を行った。次に単純装着とアシストモードで測定し,アシスト量は様々な設定で比較検証した。
歩行評価は,フットセンサと三次元加速度センサを用いて歩行中の空間的な変位と左右の立脚期・遊脚期の区別を行なう腰軌道計測システムを使用した。
腰軌道は全額面後方より観察した場合を示し,上下左右に各方向において腰軌道パターンの特異性を定量的に示す為の特微量を次のよう定義した。上下方向では荷重応答期の上下差をLRdif(cm),踵接地~立脚中期の腰の上方移動の左右非対称性をVUsym,立脚中期~遊脚初期の腰の下方移動の左右非対称性をVDsym,左右方向では振幅をHA(cm),振幅の左右非対称性をHsymとし,また1歩行周期時間の変動係数を算出し比較した。解析対象は歩き始めの3歩行周期と終わりの4歩行周期を過度期とし,それらを除外した範囲内で連続した10歩行周期分の変動係数が最小となる範囲とした。統計学的解析はMann-WhitneyのU検定を用い有意水準を5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に基づき,対象者には研究の趣旨を文書と口頭にて説明を行い書面にて同意を得た。また,当院倫理委員会の承認を得て行われた。
【結果】
様々なアシスト量で歩行した結果,検討した2例では股関節屈曲伸展アシスト3Nmを左右同量に設定した時がセラピスト評価で歩容の改善を認め,自覚的にも最適であった。また,単純装着のみでも歩容変化を認めた。
腰軌道の検討においても,腰の上方移動の左右非対称性VUsymは歩行アシスト使用前(0.37±0.18)と比し,アシスト3Nm(0.19±0.16)では有意に低値を示した。また,左右方向の振幅HAは単純装着で2.4cm,アシスト3Nmは4.7cm有意に狭くなった。
歩行アシスト使用後の持続効果については,1歩行周期が1.86秒から1.69秒に短縮されたが,その他の項目では改善がみられなかった。
【考察】
脳卒中片麻痺患者では,麻痺側遊脚期の代償活動を軽減させる為,麻痺側アシスト量を増やした方が歩容改善が期待できると予測したが,今回の2例では股関節屈曲伸展ともに左右同量加えた時が最適であった。左右のアシスト量が異なると歩行リズムが乱れてしまい,即時には対応困難であったのではないかと考える。しかし,麻痺側アシストが有効例は存在すると思われる。
今回の測定に用いた三次元加速度センサから得られる腰軌道は,健常者では上下左右の各方向への変位はほぼ対称となる。結果より,腰の上方移動の左右非対称性VUsymは歩行アシスト装着,またアシストを加えることでより左右対称に近づいた。歩行アシスト装置は腰フレームと大腿フレームで身体に固定されることにより,骨盤の回旋や側方移動,股関節外転などが制限される。これは脳卒中片麻痺患者の代償歩行を制限することになり,このような結果が得られたと思われる。さらに屈曲アシストにより,遊脚前期の推進力が向上し,腰の上方移動の減少から左右対称に近づいたと考える。効果の持続は明らかでなく,学習効果については,歩行アシスト使用下での練習方法の検討が必要であると思われる。また今回の検討は2症例と少なく,今後は症例数を増やして検証が必要と思われた。
【理学療法学研究としての意義】
理学療法の一手段としてロボット技術の発展は期待されている。今回の検証により,脳卒中片麻痺患者への歩行アシスト使用中による歩容改善効果が示唆された。
近年,リハビリテーションにおいてロボット技術の導入が進んでいる。本田技術研究所装着型歩行補助装置「歩行アシスト」は,対象者の腰部から大腿部に装着し,歩行リズムの相互適応現象を利用して,股関節屈曲伸展運動をアシストするトルクを発生し,歩行運動を支援する装置である。この歩行アシストから得られる情報は股関節の角度変化と歩行速度のみであり,臨床においての歩行評価はセラピストの目視による主観的評価と,装着者の「歩きやすい」という自覚に頼らざるを得ない。様々な疾患で歩行アシストの適合性や有用性などを検証していくにあたり,定量的かつ容易な評価が必要であると考える。そこで今回,脳卒中片麻痺患者での歩行アシストによる歩容変化を,三次元加速度センサを用いて検討した。
【方法】
対象はプラスチック製短下肢装具とT字杖を使用し歩行自立している脳卒中片麻痺患者男性2名(60~68歳,BRS:IV)とした。測定は直線約30mの歩行路を自由歩行速度にて実施した。
歩行アシストは股関節屈曲伸展と左右それぞれアシスト量を設定することができる。対象者に最適なアシスト量を検討する為,様々な設定で歩行計測を行った。次に単純装着とアシストモードで測定し,アシスト量は様々な設定で比較検証した。
歩行評価は,フットセンサと三次元加速度センサを用いて歩行中の空間的な変位と左右の立脚期・遊脚期の区別を行なう腰軌道計測システムを使用した。
腰軌道は全額面後方より観察した場合を示し,上下左右に各方向において腰軌道パターンの特異性を定量的に示す為の特微量を次のよう定義した。上下方向では荷重応答期の上下差をLRdif(cm),踵接地~立脚中期の腰の上方移動の左右非対称性をVUsym,立脚中期~遊脚初期の腰の下方移動の左右非対称性をVDsym,左右方向では振幅をHA(cm),振幅の左右非対称性をHsymとし,また1歩行周期時間の変動係数を算出し比較した。解析対象は歩き始めの3歩行周期と終わりの4歩行周期を過度期とし,それらを除外した範囲内で連続した10歩行周期分の変動係数が最小となる範囲とした。統計学的解析はMann-WhitneyのU検定を用い有意水準を5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に基づき,対象者には研究の趣旨を文書と口頭にて説明を行い書面にて同意を得た。また,当院倫理委員会の承認を得て行われた。
【結果】
様々なアシスト量で歩行した結果,検討した2例では股関節屈曲伸展アシスト3Nmを左右同量に設定した時がセラピスト評価で歩容の改善を認め,自覚的にも最適であった。また,単純装着のみでも歩容変化を認めた。
腰軌道の検討においても,腰の上方移動の左右非対称性VUsymは歩行アシスト使用前(0.37±0.18)と比し,アシスト3Nm(0.19±0.16)では有意に低値を示した。また,左右方向の振幅HAは単純装着で2.4cm,アシスト3Nmは4.7cm有意に狭くなった。
歩行アシスト使用後の持続効果については,1歩行周期が1.86秒から1.69秒に短縮されたが,その他の項目では改善がみられなかった。
【考察】
脳卒中片麻痺患者では,麻痺側遊脚期の代償活動を軽減させる為,麻痺側アシスト量を増やした方が歩容改善が期待できると予測したが,今回の2例では股関節屈曲伸展ともに左右同量加えた時が最適であった。左右のアシスト量が異なると歩行リズムが乱れてしまい,即時には対応困難であったのではないかと考える。しかし,麻痺側アシストが有効例は存在すると思われる。
今回の測定に用いた三次元加速度センサから得られる腰軌道は,健常者では上下左右の各方向への変位はほぼ対称となる。結果より,腰の上方移動の左右非対称性VUsymは歩行アシスト装着,またアシストを加えることでより左右対称に近づいた。歩行アシスト装置は腰フレームと大腿フレームで身体に固定されることにより,骨盤の回旋や側方移動,股関節外転などが制限される。これは脳卒中片麻痺患者の代償歩行を制限することになり,このような結果が得られたと思われる。さらに屈曲アシストにより,遊脚前期の推進力が向上し,腰の上方移動の減少から左右対称に近づいたと考える。効果の持続は明らかでなく,学習効果については,歩行アシスト使用下での練習方法の検討が必要であると思われる。また今回の検討は2症例と少なく,今後は症例数を増やして検証が必要と思われた。
【理学療法学研究としての意義】
理学療法の一手段としてロボット技術の発展は期待されている。今回の検証により,脳卒中片麻痺患者への歩行アシスト使用中による歩容改善効果が示唆された。