[0330] 脳卒中患者1例に対するロボットスーツHALを用いた歩行プログラム前後の歩容評価
Keywords:脳卒中, 動作解析, ロボティクス
【はじめに,目的】近年,歩行能力の改善を目的とした下肢の反復運動の補助に,ロボット技術が導入されつつある。ロボットスーツHybrid Assistive Limb福祉用(CYBERDINE社製,以下HAL)は,筋活動を含む動作情報を各種センサーより感知しながらヒトが意図する動作を補助する装着型ロボットとして開発され,製品化された。すでに下肢用HALを用いた,歩行能力改善を目的としたリハビリテーションへの試用が始まっている。HALを用いた歩行プログラムの先行研究では,脊髄損傷,外傷性脳損傷,脳血管障害,筋疾患等を対象とした32例において,10 m歩行テストによる歩行速度,歩数,歩行率が有意な改善を認めたとの報告(Kubotaら,2013)や,脳血管疾患患者16例において,重症度の高い患者により高い有効性を認めたという報告(Kawamotoら,2013)がある。しかし,歩行中の歩容変化に対する詳細な検討の報告はなく,これらを調べることで,HALによる歩行改善効果の解明が期待される。今回,脳卒中により右半身麻痺を呈した女性1例に対し,歩容改善を目的としたHALを用いた歩行プログラムを実施した。本研究では,プログラム前後にどのような歩容改善が得られたかを検討した。
【方法】対象は脳出血発症後8ヵ月の右半身麻痺(Brunnstrom stage上肢・手指:III,下肢:IV)を呈した50歳女性である。日常生活は概ね自立し,歩行状態は杖とAFOを使用し屋外歩行可能であった(Functional Ambulation Categories:5)。運動習慣は,本プログラム参加以前より,週3日1回40分のリハビリを継続していた。本研究では,HALを装着した状態での歩行プログラムを,週に2回(1回あたり準備・休憩を含めて90分),8週間(全16回)行った。プログラムでは必要に応じ,免荷式歩行器などの補助具を併用した。評価項目は,三次元動作解析システム(英VICON社製MX,T40Sカメラ16台)を用いて,歩行速度(m/sec),歩幅比(右/左),立脚・遊脚時間比(右/左),両脚支持時間(sec)を算出した。また,重心動揺計(ANIMA社製,TWIN GRAVICORDER GP-6000)を用いて,静止開眼・閉眼立位時の総軌跡長,外周面積,左右荷重比を測定した。さらに,3 m timed up and go test(sec,以下TUG),Berg balance scale(以下BBS),6分間歩行(m)を測定した。それぞれプログラム開始前(0週目)と終了後(8週目)に,HAL未装着の状態で測定した。
【倫理的配慮,説明と同意】本研究は筑波大学附属病院倫理委員会の承認を得て,内閣府最先端研究開発支援プログラムの支援により行われた。対象者には事前に医師による診察と本臨床試験の内容を説明し,同意を得て実施した。
【結果】歩行速度はプログラム前0.32 m/secからプログラム後0.40 m/secへと改善を認めた。歩幅比は1.62から1.39,立脚時間比は1.31から1.08,遊脚時間比は1.98から1.15へと改善を認めた。両脚支持時間は右前が0.40 secから0.23 sec,左前が0.53 secから0.43 secへと短縮した。重心動揺計による総軌跡長・外周面積は著明な変化は認めなかったが,左右荷重比は開眼時0.51から0.78,閉眼時が0.44から0.67へと改善した。TUGは24.03 secから23.00 secと短縮し,BBSはプログラム前後とも53点で変化なく,6分間歩行距離は128.5 mから148.7 mに延長した。
【考察】本症例では先行研究(Kubotaら,2013,Kawamotoら,2013)と同様に,歩行速度の改善を認めた。歩容の比較では,歩幅比,立脚時間比,遊脚時間比ともに,左右比が1に近づく改善がみられた。このことより,歩行中の歩容における左右対称性が向上したと考えられる。静止立位時の左右荷重比も,開眼・閉眼時ともに1に近づく改善を認め,患肢である右脚支持の割合が増加した。この右脚の支持性向上が,左右対称性向上につながったと推察される。また,左右ともに両脚支持時間が短縮したことも,同様の機序によるものと考えられた。プログラム後の歩行における左右対称性の向上から,左脚への依存軽減と右脚の利用促進が得られ,その結果,左脚の負担減少と歩行効率が改善し,両脚支持時間短縮と歩行速度改善効果が得られたと考えられた。本症例はプログラム前より比較的高いバランス機能を有しており,バランスの評価指標である総軌跡長,外周面積,TUG,BBSにおける変化は少なかった。しかし,歩行速度・歩行効率が改善したことにより,6分間歩行距離延長にも効果が認められた。
【理学療法学研究としての意義】HALを用いた歩行プログラムで得られた歩行改善の要因をより詳細に評価していくことで,HALにおける治療効果の特性と,その機序が明らかとなる。今後HALを臨床応用する際に,より患者のニーズに即した治療の提案が可能となることが期待される。本症例から得られた結果を基に,より症例数を増やして歩容評価を進めていくことが,今後の課題である。
【方法】対象は脳出血発症後8ヵ月の右半身麻痺(Brunnstrom stage上肢・手指:III,下肢:IV)を呈した50歳女性である。日常生活は概ね自立し,歩行状態は杖とAFOを使用し屋外歩行可能であった(Functional Ambulation Categories:5)。運動習慣は,本プログラム参加以前より,週3日1回40分のリハビリを継続していた。本研究では,HALを装着した状態での歩行プログラムを,週に2回(1回あたり準備・休憩を含めて90分),8週間(全16回)行った。プログラムでは必要に応じ,免荷式歩行器などの補助具を併用した。評価項目は,三次元動作解析システム(英VICON社製MX,T40Sカメラ16台)を用いて,歩行速度(m/sec),歩幅比(右/左),立脚・遊脚時間比(右/左),両脚支持時間(sec)を算出した。また,重心動揺計(ANIMA社製,TWIN GRAVICORDER GP-6000)を用いて,静止開眼・閉眼立位時の総軌跡長,外周面積,左右荷重比を測定した。さらに,3 m timed up and go test(sec,以下TUG),Berg balance scale(以下BBS),6分間歩行(m)を測定した。それぞれプログラム開始前(0週目)と終了後(8週目)に,HAL未装着の状態で測定した。
【倫理的配慮,説明と同意】本研究は筑波大学附属病院倫理委員会の承認を得て,内閣府最先端研究開発支援プログラムの支援により行われた。対象者には事前に医師による診察と本臨床試験の内容を説明し,同意を得て実施した。
【結果】歩行速度はプログラム前0.32 m/secからプログラム後0.40 m/secへと改善を認めた。歩幅比は1.62から1.39,立脚時間比は1.31から1.08,遊脚時間比は1.98から1.15へと改善を認めた。両脚支持時間は右前が0.40 secから0.23 sec,左前が0.53 secから0.43 secへと短縮した。重心動揺計による総軌跡長・外周面積は著明な変化は認めなかったが,左右荷重比は開眼時0.51から0.78,閉眼時が0.44から0.67へと改善した。TUGは24.03 secから23.00 secと短縮し,BBSはプログラム前後とも53点で変化なく,6分間歩行距離は128.5 mから148.7 mに延長した。
【考察】本症例では先行研究(Kubotaら,2013,Kawamotoら,2013)と同様に,歩行速度の改善を認めた。歩容の比較では,歩幅比,立脚時間比,遊脚時間比ともに,左右比が1に近づく改善がみられた。このことより,歩行中の歩容における左右対称性が向上したと考えられる。静止立位時の左右荷重比も,開眼・閉眼時ともに1に近づく改善を認め,患肢である右脚支持の割合が増加した。この右脚の支持性向上が,左右対称性向上につながったと推察される。また,左右ともに両脚支持時間が短縮したことも,同様の機序によるものと考えられた。プログラム後の歩行における左右対称性の向上から,左脚への依存軽減と右脚の利用促進が得られ,その結果,左脚の負担減少と歩行効率が改善し,両脚支持時間短縮と歩行速度改善効果が得られたと考えられた。本症例はプログラム前より比較的高いバランス機能を有しており,バランスの評価指標である総軌跡長,外周面積,TUG,BBSにおける変化は少なかった。しかし,歩行速度・歩行効率が改善したことにより,6分間歩行距離延長にも効果が認められた。
【理学療法学研究としての意義】HALを用いた歩行プログラムで得られた歩行改善の要因をより詳細に評価していくことで,HALにおける治療効果の特性と,その機序が明らかとなる。今後HALを臨床応用する際に,より患者のニーズに即した治療の提案が可能となることが期待される。本症例から得られた結果を基に,より症例数を増やして歩容評価を進めていくことが,今後の課題である。