第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 口述 » 神経理学療法 口述

脳損傷理学療法4

Fri. May 30, 2014 2:25 PM - 3:15 PM 第13会場 (5F 503)

座長:保苅吉秀(順天堂大学医学部附属順天堂医院リハビリテーション室)

神経 口述

[0332] 回復期脳卒中片麻痺者に対する装着型ロボットスーツによるトレーニング効果の検討

吉川憲一1, 水上昌文2,3, 佐野歩1, 古関一則1,3, 小貫葉子1, 前沢孝之1, 海藤正陽1, 坂上由香1,3, 浅川育世2, 岩本浩二2, 永田博司4, 大瀬寛高4, 居村茂幸2,3 (1.茨城県立医療大学付属病院理学療法科, 2.茨城県立医療大学理学療法学科, 3.茨城県立医療大学大学院保健医療科学研究科, 4.茨城県立医療大学付属病院診療部)

Keywords:ロボット, 歩行練習, 脳卒中

【はじめに,目的】
近年,動作支援ロボットを用いた歩行練習が注目され始めており,効果が期待されている。CYBERDYNE株式会社で開発されたロボットスーツHAL福祉用(以下HAL)は筋電位,足底荷重分布,関節角度情報を基に,アクチュエータによって関節トルクをアシストする装着型の動作支援機器である。HALを脳卒中片麻痺者に適用した研究は,慢性期に関してはその有効性を示唆するものが散見されるが,回復期における効果を証明したものはない。本研究はHALのリハビリテーション機器としてのエビデンス確立のための探索的研究と位置づけ,回復期の脳卒中片麻痺患者に対する歩行練習の効果を検討することを目的とした。
【方法】
対象者の適用基準は,脳出血又は脳梗塞の初回発症であり,介助歩行が可能である者とした。除外基準は,指示理解が困難な意識障害,重度の高次脳機能障害,重度の下肢関節拘縮,その他理学療法の実施に高いリスクを有する者とした。2013年3月~10月に上記の基準を満たした7例に対して介入を実施した。性別は全て男性,年齢は45~74歳,平均64±8.8歳,発症から介入開始の日数は25~78日,平均47.7±15.5日,右片麻痺が2例,左片麻痺が5例であった。
HALでの歩行練習は,通常の理学療法3単位に加え,週4回,4週間実施し,介入者は通常の診療担当者(担当PT)と別にした。1回の練習は,休憩を除く積算歩行時間の総計を最大30分以内とし,快適歩行速度にて実施した。疲労の訴えや理学療法中止基準に基づく所見を認めた場合は終了とした。練習毎にHALのアシストトルクの大きさ等を最適値に調整した。更に,歩行補助具は免荷機能付歩行器(Cyberdyne,ALL IN ONE)を主に転倒防止目的で使用した。
評価項目は,2分間歩行テスト(2MT),10m最大歩行テスト(10mT),Fugl-Meyer評価法の下肢スコア合計(F-M),左右対称比とした。2MTは,快適歩行速度で実施し,歩行距離を計測した。10mTでは歩行率,歩幅も算出した。これらは介入期間の直前及び直後に,担当PTが実施した。左右対称比は,快適歩行時に矢状面から撮影した動画(25fps)より1歩行周期を100%とする左右単脚支持率を算出し,左右の大きい値を分母とする比を求めた。尚,左右対称比は撮影が可能で,介入時から接触介助歩行が可能であった4例とした。また,介入期間内に通常の理学療法診療内で認められた身体機能や歩容変化の記述的評価を実施した。
介入の効果は各指標の基本統計量および記述的評価により検討した。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は本学倫理委員会の承認を得,対象者は院内ポスター掲示にて公募し,研究の説明の後に書面にて同意を得た後に実施した。
【結果】
各評価指標の介入前後での比較では,2MTは介入前が35.9±21.7m,介入後が63.6±20.6mと全例で著増し,10mTの最大歩行速度は23.6±37.3m/分から37.3±14.7 m/分と同様に全例で著増を認めた。歩行率は70.4±26.5歩/分から84.2±20.2歩/分と1例を除いて改善を認めた。歩幅は0.3±0.1mから0.4±0.1m,F-Mは19.0±6.2点から21.7±4.4点と1例を除いて改善を認めた。歩行中の左右対称性の比は0.57±0.08から0.73±0.11と1例を除いて改善を認めた。
担当PTの記述的評価では,6例が麻痺側下肢の支持性改善を,4例が左右対称性の改善を,3例が遊脚動作の改善を,2例は麻痺側への認知が改善(注意障害に対する効果)を認めたとの結果を得た。
【考察】
介入前後で,各項目で一定の改善を認めた。先行研究では,慢性期脳卒中患者に対するHALでの歩行練習による歩行速度の改善が報告されている。更に,脊髄損傷不全麻痺者を対象にした先行研究では,HALでの歩行練習が結果として適切な左右の重心移動練習となっていた可能性があることを報告している。左右対称比や記述的評価の結果は,脳卒中患者でもHALでの練習が左右対称性の改善効果を有する可能性を示した。身体機能の変化が著しい回復期において,適切な重心移動を獲得し,歩行パターンの正常化を図れる可能性があるという点は,HALでの歩行練習の大きな利点となり得る。
今回は探索的研究として対照群を設けずに実施したため,HALによる直接の効果は明らかではないが,10mTにて4週間で平均63%の改善率が得られた事,有害事象を認めなかった事,歩容の改善が得られた事を確認出来た点は,今後の比較対照試験に進む上での大きな一歩であったと考える。
【理学療法学研究としての意義】
HALの理学療法機器としての有効性の検証は,HALのような新技術の普及に向けて必須であり,今回得られた示唆は,新たな理学療法体系を切り開くための第一歩である。