[0336] 人の動作はイメージ通りにできるのか?
Keywords:正確性, イメージ, リーチング動作
【はじめに,目的】
日常生活における動作では,目的となる対象物に対して常に視線を固定していることは少なく,次の動作のために視線を移動させている。つまり,動作が完結する際には,予測(=イメージ)された動作を行っている。それでは,人はイメージした動作を,どの程度正確に実行できているのだろうか。動作に求められる要因として,目標とする場所に対して動作を遂行することができる正確性(正確度:accuracy)と,その動作を繰り返し遂行することができる再現性(精度:precision)が挙げられる。そこで本研究では,目標地点に対する動作をイメージした上で,視覚情報を遮断し,リーチング動作をおこない,動作の正確性および再現性を明らかにすることとした。
【方法】
被験者は上肢に運動器疾患のない右利きの健常成人10名とした。目標地点の設定は,椅子座位姿勢でターゲットを体幹部より前方に徐々に離していき,身体を動かさず,手をのばすだけでターゲットに届くと思われる距離を申告させ,その距離を測定した。この際,被験者には実際の動作をおこなわせず,イメージでの最長距離とした。本実験では,イメージにおける最長距離の80%をターゲット距離とした。また,ターゲットの高さは,水平器(KDSオートライン:ムラテックKDS株式会社製)を用いて,各被験者の椅子座位姿勢における胸骨上部の高さと一致させた。ターゲットの位置は,被験者の前額面に垂直な線から左右45°に設定した。リーチング課題は,閉眼状態とし,右手掌面を右大腿部に置いた状態から,左右それぞれのターゲットに対して30回ずつ,計60回の試行をランダムに実施した。課題条件として,各試行後に結果を確認せず,閉眼状態を維持したままスタートポジションに右手を戻すフィードバックなし(No Feedback)条件(N条件)と,結果を確認してからスタートポジションに戻すフィードバックあり(Feedback)条件(F条件)の2条件とした。各被験者はN条件から実施した後,F条件を実施した。N・F条件ともに,各試行開始前にターゲット位置を確認させ,被験者が確認できたと判断してから実施した。リーチング動作は,3次元動作解析装置(Motion Analysis社製)を用いてターゲット位置の座標,リーチング到達地点の座標を解析した。リーチング到達地点の座標は右手示指の内側・外側につけた2つのマーカーの座標を算出し,その平均値とした。また,本実験では,各被験者においてターゲット距離が異なるため,リーチング到達地点からターゲットまでの距離を算出し,ターゲット距離で除す値(正規化距離:%)を算出した。統計学的処理には,統計ソフトウェアSPSS statistics 21(日本IBM社製)を用い,各条件の差の検出を対応のあるt検定(Bonferroni補正)を用いておこなった。
【倫理的配慮,説明と同意】
すべての被験者に対し,口頭にて本研究の主旨を十分に説明し同意を得た。
【結果】
各試行における正確性は,F条件:8.2±2.9%,N条件12.3±3.3%であり,F条件で有意に低値を示した(P<0.01)。また再現性は,F条件:2.9±1.0%,N条件:3.3±0.6%であり,各条件間で有意な差は認められなかった。
【考察】
ターゲットの位置を動作の直前まで目視し,確認していたにもかかわらず,イメージした動作を実行することはできなかった。これはF条件・N条件の間に有意差が認められなかったことから,動作結果のフィードバックの有無にも影響されなかった。これらのことから,イメージされた動作は実行の段階で,一定の動作のばらつきを生じさせる可能性が示唆された。日常生活において頻繁に繰り返されているリーチング動作ではあるが,正確さを意識して行うことは少なく,正確な動作を意識的に行うことがイメージ動作との一致につながると考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
本研究の結果は身体運動に関する基礎研究として,イメージ動作と実行される動作の間に生じる不一致を明らかにしたことは,理学療法研究としても非常に意義深いと考える。今後は簡便に実施することができる動作能力検査の指標として活用できる可能性がある。
日常生活における動作では,目的となる対象物に対して常に視線を固定していることは少なく,次の動作のために視線を移動させている。つまり,動作が完結する際には,予測(=イメージ)された動作を行っている。それでは,人はイメージした動作を,どの程度正確に実行できているのだろうか。動作に求められる要因として,目標とする場所に対して動作を遂行することができる正確性(正確度:accuracy)と,その動作を繰り返し遂行することができる再現性(精度:precision)が挙げられる。そこで本研究では,目標地点に対する動作をイメージした上で,視覚情報を遮断し,リーチング動作をおこない,動作の正確性および再現性を明らかにすることとした。
【方法】
被験者は上肢に運動器疾患のない右利きの健常成人10名とした。目標地点の設定は,椅子座位姿勢でターゲットを体幹部より前方に徐々に離していき,身体を動かさず,手をのばすだけでターゲットに届くと思われる距離を申告させ,その距離を測定した。この際,被験者には実際の動作をおこなわせず,イメージでの最長距離とした。本実験では,イメージにおける最長距離の80%をターゲット距離とした。また,ターゲットの高さは,水平器(KDSオートライン:ムラテックKDS株式会社製)を用いて,各被験者の椅子座位姿勢における胸骨上部の高さと一致させた。ターゲットの位置は,被験者の前額面に垂直な線から左右45°に設定した。リーチング課題は,閉眼状態とし,右手掌面を右大腿部に置いた状態から,左右それぞれのターゲットに対して30回ずつ,計60回の試行をランダムに実施した。課題条件として,各試行後に結果を確認せず,閉眼状態を維持したままスタートポジションに右手を戻すフィードバックなし(No Feedback)条件(N条件)と,結果を確認してからスタートポジションに戻すフィードバックあり(Feedback)条件(F条件)の2条件とした。各被験者はN条件から実施した後,F条件を実施した。N・F条件ともに,各試行開始前にターゲット位置を確認させ,被験者が確認できたと判断してから実施した。リーチング動作は,3次元動作解析装置(Motion Analysis社製)を用いてターゲット位置の座標,リーチング到達地点の座標を解析した。リーチング到達地点の座標は右手示指の内側・外側につけた2つのマーカーの座標を算出し,その平均値とした。また,本実験では,各被験者においてターゲット距離が異なるため,リーチング到達地点からターゲットまでの距離を算出し,ターゲット距離で除す値(正規化距離:%)を算出した。統計学的処理には,統計ソフトウェアSPSS statistics 21(日本IBM社製)を用い,各条件の差の検出を対応のあるt検定(Bonferroni補正)を用いておこなった。
【倫理的配慮,説明と同意】
すべての被験者に対し,口頭にて本研究の主旨を十分に説明し同意を得た。
【結果】
各試行における正確性は,F条件:8.2±2.9%,N条件12.3±3.3%であり,F条件で有意に低値を示した(P<0.01)。また再現性は,F条件:2.9±1.0%,N条件:3.3±0.6%であり,各条件間で有意な差は認められなかった。
【考察】
ターゲットの位置を動作の直前まで目視し,確認していたにもかかわらず,イメージした動作を実行することはできなかった。これはF条件・N条件の間に有意差が認められなかったことから,動作結果のフィードバックの有無にも影響されなかった。これらのことから,イメージされた動作は実行の段階で,一定の動作のばらつきを生じさせる可能性が示唆された。日常生活において頻繁に繰り返されているリーチング動作ではあるが,正確さを意識して行うことは少なく,正確な動作を意識的に行うことがイメージ動作との一致につながると考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
本研究の結果は身体運動に関する基礎研究として,イメージ動作と実行される動作の間に生じる不一致を明らかにしたことは,理学療法研究としても非常に意義深いと考える。今後は簡便に実施することができる動作能力検査の指標として活用できる可能性がある。