[0340] 足底への冷却および触圧覚刺激が歩行における立脚期のpre-activationに及ぼす影響
キーワード:Pre-activation, 歩行, 冷却刺激
【はじめに,目的】
歩行動作において,立脚相の準備段階の筋活動(以下,pre-activation)を記録することにより,踵接地後に荷重するための準備として主にどのような筋が必要なのかを知ることができる。そして我々はその活動が,ヒトの立位姿勢や歩行の調節に必要とされる体性感覚の影響によってどのように変化するのかを検討することで,歩行動作を分析するための基礎資料にしたいと考えている。本研究では,足底の感覚を刺激することによって立脚相の準備段階である下肢筋のpre-activationに及ぼす影響について検討することを目的とした。
【方法】
本研究の対象は,下肢に運動器疾患の既往がない健常男性10名(20.53±3.6歳)とした。本実験に入る前に,対象者には事前に以下のような感覚検査を行った。まず,人工芝のプレートで足底を2分間擦るように触圧覚刺激を加え(触圧覚刺激),次いで同部位に氷塊による30分間の冷却刺激を各々行った後に,10点法による触覚検査(踵・足底外側・母趾球)を実施した。本実験では足底への感覚刺激直後に歩行を実施する必要があったため,今回の感覚刺激がどのような結果をもたらすのかを事前に検討した。本実験では,対象者に前述した触圧覚刺激,冷却刺激を行った直後にトレッドミル上を6km/hの速度で歩行させた。なお,手順は通常歩行を測定した後,触圧覚刺激後,冷却刺激後の順で歩行を行い,通常歩行のときを10としたと足底感覚をVASでも評価した。歩行中には下肢筋より筋電図と矢状面の下肢関節角度を測定した。筋電図はテレメトリー型筋電計MQ8(キッセイコムテック社)を用いて,内側広筋斜頭,大腿直筋,大殿筋,外側ハムストリングス,内側ハムストリングス,前脛骨筋,腓腹筋内側頭から記録し,対象者の足底に貼付したフットスイッチからの同期信号をもとに踵接地前100msのRoot Mean Square(以後RMS)を算出し,これを本研究でのpre-activationとした。また下肢関節角度は,対象者の上前腸骨棘,大転子,膝関節外側裂隙,外果,第5中足骨頭の計5ヶ所にマーカーを貼付し,側方に設置したデジタルカメラで歩行動作を撮影した(60Hz)後,動作解析システム(Frame DIAS IV,DKH)を用いて股・膝・足関節の矢状面角度を算出した。通常歩行のときと比較して,触圧覚刺激,冷却刺激時のpre-activation,下肢関節角度を比較した。統計学的検討としてはDunnett検定を用い,その際の有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
対象者には実験の目的および概要,結果の公表の有無と形式,個人情報の取り扱いについて説明し,同意を得た。なお,本研究は関西医療大学倫理委員会の承認のもとで実施した。
【結果】
触圧覚刺激後の足底感覚は10点法において,踵部で7.1±4.1点,足底外側で7.6±5.4点,母趾球で6.2±4.2点と感覚低下を認めた。またVASも8.7±2.0cmと通常歩行時と比較して低下した。次いで冷却刺激後の足底感覚は10点法において踵部で1.1±4.9点,足底外側で2.1±3.9点,母趾球で2.1±2.0点であった。またVASでも3.5±1.9cmと低下を認めた。pre-activationについて,触圧覚刺激後にはいずれの筋においても有意な変化を認めなかったが,冷却刺激後の前脛骨筋のRMSが有意に減少した。その他の筋には有意差を認めなかった。また,冷却刺激後においてpre-activationと同時期の足関節底屈角度は有意に増大したが,その他には有意な変化を認めなかった。
【考察】
トレッドミル歩行ではあるが,今回,冷却刺激後の踵接地前100msの前脛骨筋の筋活動に有意な減少と,足関節底屈角度の増大を認めた。これは足底の触覚鈍麻により足底を床面に平行に接地することで接地面を増大させ,その後の立脚相の準備を行うことが考えられた。また統計学的に有意な差を認めなかったが,腓腹筋内側頭のRMSは増大する傾向にあり,立脚相での足底接地に備えて筋活動が早期から生じることも考えられた。触圧覚刺激によってはpre-activation,下肢関節角度に変化が認められなかったが,これは冷却刺激と比較して足底触覚鈍麻の程度が低かったことが考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
本研究より臨床場面において足底感覚鈍麻を認める患者に対して,前脛骨筋,下腿三頭筋の筋活動変化が足底感覚低下の影響で変化していることも考慮して評価する必要性を理解できた。
歩行動作において,立脚相の準備段階の筋活動(以下,pre-activation)を記録することにより,踵接地後に荷重するための準備として主にどのような筋が必要なのかを知ることができる。そして我々はその活動が,ヒトの立位姿勢や歩行の調節に必要とされる体性感覚の影響によってどのように変化するのかを検討することで,歩行動作を分析するための基礎資料にしたいと考えている。本研究では,足底の感覚を刺激することによって立脚相の準備段階である下肢筋のpre-activationに及ぼす影響について検討することを目的とした。
【方法】
本研究の対象は,下肢に運動器疾患の既往がない健常男性10名(20.53±3.6歳)とした。本実験に入る前に,対象者には事前に以下のような感覚検査を行った。まず,人工芝のプレートで足底を2分間擦るように触圧覚刺激を加え(触圧覚刺激),次いで同部位に氷塊による30分間の冷却刺激を各々行った後に,10点法による触覚検査(踵・足底外側・母趾球)を実施した。本実験では足底への感覚刺激直後に歩行を実施する必要があったため,今回の感覚刺激がどのような結果をもたらすのかを事前に検討した。本実験では,対象者に前述した触圧覚刺激,冷却刺激を行った直後にトレッドミル上を6km/hの速度で歩行させた。なお,手順は通常歩行を測定した後,触圧覚刺激後,冷却刺激後の順で歩行を行い,通常歩行のときを10としたと足底感覚をVASでも評価した。歩行中には下肢筋より筋電図と矢状面の下肢関節角度を測定した。筋電図はテレメトリー型筋電計MQ8(キッセイコムテック社)を用いて,内側広筋斜頭,大腿直筋,大殿筋,外側ハムストリングス,内側ハムストリングス,前脛骨筋,腓腹筋内側頭から記録し,対象者の足底に貼付したフットスイッチからの同期信号をもとに踵接地前100msのRoot Mean Square(以後RMS)を算出し,これを本研究でのpre-activationとした。また下肢関節角度は,対象者の上前腸骨棘,大転子,膝関節外側裂隙,外果,第5中足骨頭の計5ヶ所にマーカーを貼付し,側方に設置したデジタルカメラで歩行動作を撮影した(60Hz)後,動作解析システム(Frame DIAS IV,DKH)を用いて股・膝・足関節の矢状面角度を算出した。通常歩行のときと比較して,触圧覚刺激,冷却刺激時のpre-activation,下肢関節角度を比較した。統計学的検討としてはDunnett検定を用い,その際の有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
対象者には実験の目的および概要,結果の公表の有無と形式,個人情報の取り扱いについて説明し,同意を得た。なお,本研究は関西医療大学倫理委員会の承認のもとで実施した。
【結果】
触圧覚刺激後の足底感覚は10点法において,踵部で7.1±4.1点,足底外側で7.6±5.4点,母趾球で6.2±4.2点と感覚低下を認めた。またVASも8.7±2.0cmと通常歩行時と比較して低下した。次いで冷却刺激後の足底感覚は10点法において踵部で1.1±4.9点,足底外側で2.1±3.9点,母趾球で2.1±2.0点であった。またVASでも3.5±1.9cmと低下を認めた。pre-activationについて,触圧覚刺激後にはいずれの筋においても有意な変化を認めなかったが,冷却刺激後の前脛骨筋のRMSが有意に減少した。その他の筋には有意差を認めなかった。また,冷却刺激後においてpre-activationと同時期の足関節底屈角度は有意に増大したが,その他には有意な変化を認めなかった。
【考察】
トレッドミル歩行ではあるが,今回,冷却刺激後の踵接地前100msの前脛骨筋の筋活動に有意な減少と,足関節底屈角度の増大を認めた。これは足底の触覚鈍麻により足底を床面に平行に接地することで接地面を増大させ,その後の立脚相の準備を行うことが考えられた。また統計学的に有意な差を認めなかったが,腓腹筋内側頭のRMSは増大する傾向にあり,立脚相での足底接地に備えて筋活動が早期から生じることも考えられた。触圧覚刺激によってはpre-activation,下肢関節角度に変化が認められなかったが,これは冷却刺激と比較して足底触覚鈍麻の程度が低かったことが考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
本研究より臨床場面において足底感覚鈍麻を認める患者に対して,前脛骨筋,下腿三頭筋の筋活動変化が足底感覚低下の影響で変化していることも考慮して評価する必要性を理解できた。