第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 ポスター » 内部障害理学療法 ポスター

呼吸4

2014年5月30日(金) 14:25 〜 15:15 ポスター会場 (内部障害)

座長:石川朗(神戸大学大学院保健学研究科地域保健学領域)

内部障害 ポスター

[0345] 肺炎症例における在宅復帰要因と病前ADL再獲得に関する研究

山口賢一郎 (医療法人社団愛友会上尾中央総合病院)

キーワード:肺炎, 在宅復帰, 早期離床

【はじめに,目的】
本邦における平成24年人口動態統計において,肺炎は死亡原因の第3位と報告され,死亡総数に占める割合も9.9%と,非常に高い数値を示している。また,肺炎を罹患する95%を65歳以上が占めているとの報告もあることから,肺炎は在宅復帰後の活動性の低下に大きく関与する疾患の一つであると言える。理学療法分野においても,入院加療を要した肺炎症例や肺炎罹患後の日常生活動作(Activity of Daily Living:以下,ADL)能力低下症例に対し,病院・施設,または在宅にて関わる機会は多く,二次的な身体能力低下の改善に難渋する場面に多く遭遇する。その中で,肺炎症例における当院での取り組みとして「肺炎標準プログラム」があり,理学療法士間での介入の差をなくし,画一的に質の高いサービスを提供するための離床に向けた段階的プログラムの提示を行っている。本研究では,この肺炎標準プログラムに則って介入が行われた症例に対し,在宅復帰要因・病前ADL能力別の離床の特徴を明らかにし,より効果的な理学療法介入の一助とすることを目的とした。
【方法】
対象は,平成24年5月1日から平成25年9月15日までの間に当院内科病棟に入院加療を要し,離床・ADL向上を目的に理学療法介入があった市中肺炎症例93例(男性59例,年齢81.9±8.8歳)とした。離床までの経過を調査する目的から,入院前ADLが常時臥床状態である症例は除外した。臨床データは,診療録より後方視的に収集し,測定項目は,基本情報(年齢,性別,身長,体重,Body Mass Index:以下,BMI),Barthel Index(以下,BI)によるADL評価,Pneumonia Severity Index(以下,PSI)による肺炎の重症度(合併症の有無を含む),経過期間(安静臥床期間,離床期間(入院から離床獲得までの期間),ADL獲得期間(入院から病前ADLを再獲得するまでの期間),在院日数)とした。離床の定義は,Mundyらによる先行研究より「入院から連続して20分以上の車椅子乗車が可能となるまでの期間」とした。また,理学療法介入は,主治医が定める安静度・中止基準に準じて行われ,肺炎標準プログラムにより離床のプロトコールは統一が図られた。分析は,在宅復帰要因に関して,在宅からの入院となった症例のみを抽出して在宅復帰群と非在宅復帰群との群間比較を行った。また,病前ADL能力別の離床に関する検証に関しては,全対象を病前ADL能力に準じて,A群(車椅子座位),B群(トイレ動作自立),C群(屋内移動自立),D群(屋外を含む全ADL自立)の4つに群分けを行い,さらにそれぞれの群を病前ADL獲得群と非獲得群に分け,群間比較を行った。統計には,統計ソフトR2.8.1を使用し,2群間での群間比較(対応のないT検定,Mann-WhitneyのU検定,χ2独立性の検定)を実施した。いずれも有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は,研究計画や個人情報の取り扱いを含む倫理的配慮に関して,ヘルシンキ宣言に則った当院倫理委員会の承認を得て実施された。
【結果】
在宅復帰群と非在宅復帰群との比較では,年齢(80.2±8.2歳vs 88.3±6.4歳),退院時BI(70.0±32.2(中央値82.5)vs 21.5±33.8(中央値21.5)),認知症の合併率(28.0% vs 70.0%)において有意差が見られた(いずれもp<0.05)。また,病前ADL能力別のADL再獲得に関する検証では,B群とC群のADL獲得群・非獲得群の比較において,離床期間(B群:11.1±6.1日(中央値8.5日)vs 11.3±5.7日(中央値13日),C群:10.9±9.2日(中央値8日)vs 25.0±10.8日(中央値22日)に有意差が見られた(いずれもp<0.05)。
【考察】
本研究では,在宅復帰要因として年齢,退院時BI,認知症の合併において関連性が高い項目であることが示された。肺炎症例においては,入院を機に在宅生活の維持が困難となり,転帰先が変更となる症例を多く経験することから,上記の項目により在宅復帰困難症例を早期からスクリーニングし,介入を進めていくことの重要性が示唆された。しかし一方では,在宅支援には病前ADLが獲得できているにも関わらず,精神・認知機能の低下や被介護者を取り巻く環境に大きく左右される側面もあるため,家庭環境を含めたより詳細な検証が必要であると考えた。また,病前ADL能力別に見た離床の特徴として,早期離床とADL能力の再獲得には一部の群で関係性が示されたことから,今後はより症例数を増やし,離床やADL獲得までのカットオフ値の算出や病前ADL能力別に肺炎標準プログラムを細分化していくことが課題である。
【理学療法学研究としての意義】
肺炎症例に対する在宅復帰要因やADL再獲得に至る経過を検証することは,経過が遷延化することが予想される症例を早期からスクリーニングすることに寄与し,より必要性の高い症例に対して効果的な理学療法介入を実現する上で重要である。