[0357] 地域在住高齢者が転ばないための立位バランス
キーワード:地域在住高齢者, 転倒, 立位バランス
【はじめに,目的】Functional reach testは,高齢者の転倒予測に有用とされ,立位バランスの評価法として用いられている。しかし,FRTのみで転倒を予測するのは不十分との指摘もあることから,従来のFRTに修正を加えた閉眼にて行うFRT(functional reach test with eyes closed:EC-FRT)が考案された。EC-FRTは,Berg balance scaleやTimed up and go testとの関連からFRTよりもバランス能力をより反映するとされている。また,EC-FRTの信頼性は高く測定誤差は少ないことが確認されている。本研究は,健常高齢者を対象にEC-FRTの年代別測定値を調査し,加えてEC-FRTから転倒の有無を判別できるのかを検証することとした。
【方法】対象は,認知症予防事業に参加した65歳以上の地域在住高齢者101名(平均年齢76.6±6.0歳)とした。対象の取り込み基準は,要介護認定を受けていないこと,重度な認知症が認められないこと(MMSE20点以上)とした。測定項目はEC-FRT,FRT,過去1年間の転倒歴とした。統計処理は,EC-FRTをKruskal-Wallis検定にて年代別に比較した。多重比較法はBonfferoni検定の有意確率を補正し比較した。次に,転倒あり群と転倒なし群のEC-FRTをMann-Whitney検定にて比較した。転倒の有無を判別するためにROC曲線を求め,AUCから適合性を判定しカットオフ値を求めた。さらに,カットオフ値から求められる予測値と実測値から感度,特異度,正診率などを算出した。統計解析にはSPSS 21を用いた。
【倫理的配慮,説明と同意】対象者には,研究の趣旨と内容について十分に説明し,同意書にサインを得てから調査を開始した。研究の参加は自由意思であること,同意を撤回できること,参加しない場合でも不利益はないことを説明した。本研究はヘルシンキ宣言を順守して行われた。
【結果】EC-FRTは,65-69歳35.5(32.0-43.0)cm,70-74歳32.5(28.0-35.0)cm,75-79歳26.0(22.5-29.0)cm,80-84歳24.0(19.0-32.5)cm,85-89歳23.0(1.3-30.8)cmであった。高齢になるにつれてEC-FRTは有意に低下していた。また,EC-FRTは,転倒なし群30.5(27.0-34.0)cmよりも転倒あり群20.0(16.0-24.0)cmの方が有意に低値であった。EC-FRTから求めたROC曲線のAUCは,EC-FRT=0.908(0.848-0.969),FRT=0.856(0.772-0.939)であり,FRTよりもEC-FRTの方が転倒の判別能は良好であった。転倒を判別するEC-FRTのカットオフ値は25.5cmであった。カットオフ値の感度は83.9%,特異度85.7%,正診率85.1%,陽性適中率72.2%,陰性適中率92.3%であった。なお,EC-FRTが20.5cm以下だった13名すべてが転倒しており,33cm以上だった29名すべてに転倒は認められなかった。FRTのカットオフ値は26.5cmであった。カットオフ値の感度は77.4%,特異度80.0%,正診率79.2%,陽性適中率63.2%,陰性適中率88.8%であった。なお,FRTが20.0cm以下だった11名すべてが転倒しており,38cm以上だった12名すべてに転倒は認められなかった。
【考察】EC-FRTは年齢が増すにつれて低下することが確認された。また,転倒あり群のEC-FRTは,転倒なし群よりも低値であった。とくに,EC-FRTが25.5cm以下では転倒のリスクが高くなることが明らかとなった。陽性適中率とは,カットオフ値から「転倒あり」と判別された高齢者が実際に「転倒あり」であった割合を示す。一方,陰性的中率とは,カットオフ値から「転倒なし」と判別された高齢者が,実際に「転倒なし」であった割合を示す。結果から判断すると,EC-FRTは「転倒あり」を判別するよりも「転倒なし」を判別することの方が診断精度は高かった。また,FRTよりもEC-FRTの方が「転倒あり」「転倒なし」をより正確に判別することができていた。このことから,EC-FRTは「転倒なし」を判別する指標として有用である可能性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】EC-FRTは,地域在住高齢者が転ばないために必要な立位バランスの目標値を提示できる可能性が示された。また,トレーニングや具体的な目標値の設定などへの応用が期待できる。
【方法】対象は,認知症予防事業に参加した65歳以上の地域在住高齢者101名(平均年齢76.6±6.0歳)とした。対象の取り込み基準は,要介護認定を受けていないこと,重度な認知症が認められないこと(MMSE20点以上)とした。測定項目はEC-FRT,FRT,過去1年間の転倒歴とした。統計処理は,EC-FRTをKruskal-Wallis検定にて年代別に比較した。多重比較法はBonfferoni検定の有意確率を補正し比較した。次に,転倒あり群と転倒なし群のEC-FRTをMann-Whitney検定にて比較した。転倒の有無を判別するためにROC曲線を求め,AUCから適合性を判定しカットオフ値を求めた。さらに,カットオフ値から求められる予測値と実測値から感度,特異度,正診率などを算出した。統計解析にはSPSS 21を用いた。
【倫理的配慮,説明と同意】対象者には,研究の趣旨と内容について十分に説明し,同意書にサインを得てから調査を開始した。研究の参加は自由意思であること,同意を撤回できること,参加しない場合でも不利益はないことを説明した。本研究はヘルシンキ宣言を順守して行われた。
【結果】EC-FRTは,65-69歳35.5(32.0-43.0)cm,70-74歳32.5(28.0-35.0)cm,75-79歳26.0(22.5-29.0)cm,80-84歳24.0(19.0-32.5)cm,85-89歳23.0(1.3-30.8)cmであった。高齢になるにつれてEC-FRTは有意に低下していた。また,EC-FRTは,転倒なし群30.5(27.0-34.0)cmよりも転倒あり群20.0(16.0-24.0)cmの方が有意に低値であった。EC-FRTから求めたROC曲線のAUCは,EC-FRT=0.908(0.848-0.969),FRT=0.856(0.772-0.939)であり,FRTよりもEC-FRTの方が転倒の判別能は良好であった。転倒を判別するEC-FRTのカットオフ値は25.5cmであった。カットオフ値の感度は83.9%,特異度85.7%,正診率85.1%,陽性適中率72.2%,陰性適中率92.3%であった。なお,EC-FRTが20.5cm以下だった13名すべてが転倒しており,33cm以上だった29名すべてに転倒は認められなかった。FRTのカットオフ値は26.5cmであった。カットオフ値の感度は77.4%,特異度80.0%,正診率79.2%,陽性適中率63.2%,陰性適中率88.8%であった。なお,FRTが20.0cm以下だった11名すべてが転倒しており,38cm以上だった12名すべてに転倒は認められなかった。
【考察】EC-FRTは年齢が増すにつれて低下することが確認された。また,転倒あり群のEC-FRTは,転倒なし群よりも低値であった。とくに,EC-FRTが25.5cm以下では転倒のリスクが高くなることが明らかとなった。陽性適中率とは,カットオフ値から「転倒あり」と判別された高齢者が実際に「転倒あり」であった割合を示す。一方,陰性的中率とは,カットオフ値から「転倒なし」と判別された高齢者が,実際に「転倒なし」であった割合を示す。結果から判断すると,EC-FRTは「転倒あり」を判別するよりも「転倒なし」を判別することの方が診断精度は高かった。また,FRTよりもEC-FRTの方が「転倒あり」「転倒なし」をより正確に判別することができていた。このことから,EC-FRTは「転倒なし」を判別する指標として有用である可能性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】EC-FRTは,地域在住高齢者が転ばないために必要な立位バランスの目標値を提示できる可能性が示された。また,トレーニングや具体的な目標値の設定などへの応用が期待できる。