[0365] 動物の理学療法を志す臨床実習生に対する指導経験
キーワード:臨床実習, 指導方法, デイリーノート
【はじめに,目的】
日本理学療法士協会による分科学会,部門の設立にみられるように,理学療法士の職域は徐々に拡大・多様化してきている。そのような中,養成校入学時に学生が理学療法士を志す動機も多様化してきており,学校教育のみならず,臨床実習においての指導方法にも工夫が必要と思われる。今回,養成校へ入学し,動物に対する理学療法を志すも,ヒトの理学療法に興味を持てないまま臨床実習を迎えた実習生を指導する機会を得た。指導による実習生の変化をデイリーノートから振り返り,実施した指導の工夫について考察し,報告する。
【方法】
実習生は21歳,男性。養成校最終学年の長期実習I期目。養成校入学後,獣医である家族の影響で動物の理学療法に興味を持つものの,ヒトの理学療法に興味が持てず,学習意欲が上がらないまま臨床実習を迎えた。前回までの実習では,評価・治療の体験機会が少なく経験不足を自覚していた。当院の実習指導は3名で役割を分担し,経験年数の多い順に,デイリーノートや症例報告書を通じて総合的指導を実施するジェネラルアドバイザー,クリニカルクラークシップを実施するクリニカルクラークシップアドバイザー,実習生が担当する症例の評価やプログラム設定等の相談役となるケースアドバイザーとしている。午前はクリニカルクラークシップによる実践の時間とし,午後は担当症例の評価・治療を中心に臨床推論の指導を実施した。指導の要点として,デイリーノートは目先の修正ではなく,今後に繋がる肯定的な言葉をかけ続ける事を心掛け,ヒトの理学療法から動物の理学療法への繋がりを意識したフィードバックを実施した。また,実習の進行に応じて,日常の行動を受動的なものから徐々に能動的になるよう配慮した。実習終了後,デイリーノートの「反省点や今後の課題」の項目から思考の変化を抽出した。
【倫理的配慮,説明と同意】
本発表に際し,対象となる臨床実習生に目的,内容について説明し同意を得た。
【結果】
実習開始時は,経験不足による緊張から血圧測定や検査の実施も難渋した。人見知りもあり,能動的に動く意欲が低かった。開始後2週目までのデイリーノートでは,「自分が出来る事をする」「与えてもらっている事を頑張る」といった記載がみられたが,3週目より「自分で気づきたい」「色々な視点から考えたい」「自分から積極的に行動したい」といった記載へ変化がみられた。中間評価にて1日の予定調整を全て自主的に実施する事,指導担当以外のセラピストへ自分から申し込んで見学をする時間を作る事,関わる症例の情報収集やプログラムの変更等を自主的に行なう事を確認した。4週目からは「変化に気付けるようになってきた」「自分で考えられるようになってきた」といった自己肯定的な内容がみられた。最終週では,「学んだ事をリンクさせて視野を広げたい」「若年者と高齢者など人類の共通項をみていく事で,人間・動物の共通項へと繋げていく」という記載がみられた。実習終了時の感想では,「初めて自分から能動的に動きたいと感じた」との意見が聞かれた。実習生が要求される理学療法実施能力を獲得し,実習終了となった。
【考察】
学習意欲を高める為の要素として,報酬・目標・興味が挙げられる。本実習生においてはクリニカルクラークシップによる成功体験や肯定的なフィードバックを報酬とし,無事に実習を終え,動物理学療法の世界へ向かう事が目標となった。一方,興味の向上には内発的動機付けが必要であるが,今回は指導者としての立場から,外発的動機付けを与える事に加え,ヒトから動物への見通しを示していく事で今後のビジョンが明確となり,ヒトの理学療法に興味が持てるのではないかと考えた。また,限られた実習期間の中で,指導や理学療法士モデルとして思考や感情へ働きかけると共に,指導担当以外のセラピストや症例に対する関わり方といった行動の側面から徐々に能動的に変化させ,自己決定機会や責任感を与えた事も達成感へと繋がり,内発的動機付けを高める結果となったのではないかと思われた。
【理学療法学研究としての意義】
「理学療法士になる」という目的は実習生の共通項であるが,「理学療法士になって何をしたいか」は今後さらに多様化してくると思われる。臨床実習の目的は理学療法の実施が可能になることであるが,実習生の背景にある目標を指導者側が汲み取って対応する事で,臨床実習の果たす役割はより大きなものになると思われた。今回の指導経験をもとに,今後は実習開始時に実習生の目標や意欲の聞き取り,評価等を実施し,より具体的に実習指導の効果判定を積み重ねていく事で,理学療法学研究としての意義が高まると思われた。
日本理学療法士協会による分科学会,部門の設立にみられるように,理学療法士の職域は徐々に拡大・多様化してきている。そのような中,養成校入学時に学生が理学療法士を志す動機も多様化してきており,学校教育のみならず,臨床実習においての指導方法にも工夫が必要と思われる。今回,養成校へ入学し,動物に対する理学療法を志すも,ヒトの理学療法に興味を持てないまま臨床実習を迎えた実習生を指導する機会を得た。指導による実習生の変化をデイリーノートから振り返り,実施した指導の工夫について考察し,報告する。
【方法】
実習生は21歳,男性。養成校最終学年の長期実習I期目。養成校入学後,獣医である家族の影響で動物の理学療法に興味を持つものの,ヒトの理学療法に興味が持てず,学習意欲が上がらないまま臨床実習を迎えた。前回までの実習では,評価・治療の体験機会が少なく経験不足を自覚していた。当院の実習指導は3名で役割を分担し,経験年数の多い順に,デイリーノートや症例報告書を通じて総合的指導を実施するジェネラルアドバイザー,クリニカルクラークシップを実施するクリニカルクラークシップアドバイザー,実習生が担当する症例の評価やプログラム設定等の相談役となるケースアドバイザーとしている。午前はクリニカルクラークシップによる実践の時間とし,午後は担当症例の評価・治療を中心に臨床推論の指導を実施した。指導の要点として,デイリーノートは目先の修正ではなく,今後に繋がる肯定的な言葉をかけ続ける事を心掛け,ヒトの理学療法から動物の理学療法への繋がりを意識したフィードバックを実施した。また,実習の進行に応じて,日常の行動を受動的なものから徐々に能動的になるよう配慮した。実習終了後,デイリーノートの「反省点や今後の課題」の項目から思考の変化を抽出した。
【倫理的配慮,説明と同意】
本発表に際し,対象となる臨床実習生に目的,内容について説明し同意を得た。
【結果】
実習開始時は,経験不足による緊張から血圧測定や検査の実施も難渋した。人見知りもあり,能動的に動く意欲が低かった。開始後2週目までのデイリーノートでは,「自分が出来る事をする」「与えてもらっている事を頑張る」といった記載がみられたが,3週目より「自分で気づきたい」「色々な視点から考えたい」「自分から積極的に行動したい」といった記載へ変化がみられた。中間評価にて1日の予定調整を全て自主的に実施する事,指導担当以外のセラピストへ自分から申し込んで見学をする時間を作る事,関わる症例の情報収集やプログラムの変更等を自主的に行なう事を確認した。4週目からは「変化に気付けるようになってきた」「自分で考えられるようになってきた」といった自己肯定的な内容がみられた。最終週では,「学んだ事をリンクさせて視野を広げたい」「若年者と高齢者など人類の共通項をみていく事で,人間・動物の共通項へと繋げていく」という記載がみられた。実習終了時の感想では,「初めて自分から能動的に動きたいと感じた」との意見が聞かれた。実習生が要求される理学療法実施能力を獲得し,実習終了となった。
【考察】
学習意欲を高める為の要素として,報酬・目標・興味が挙げられる。本実習生においてはクリニカルクラークシップによる成功体験や肯定的なフィードバックを報酬とし,無事に実習を終え,動物理学療法の世界へ向かう事が目標となった。一方,興味の向上には内発的動機付けが必要であるが,今回は指導者としての立場から,外発的動機付けを与える事に加え,ヒトから動物への見通しを示していく事で今後のビジョンが明確となり,ヒトの理学療法に興味が持てるのではないかと考えた。また,限られた実習期間の中で,指導や理学療法士モデルとして思考や感情へ働きかけると共に,指導担当以外のセラピストや症例に対する関わり方といった行動の側面から徐々に能動的に変化させ,自己決定機会や責任感を与えた事も達成感へと繋がり,内発的動機付けを高める結果となったのではないかと思われた。
【理学療法学研究としての意義】
「理学療法士になる」という目的は実習生の共通項であるが,「理学療法士になって何をしたいか」は今後さらに多様化してくると思われる。臨床実習の目的は理学療法の実施が可能になることであるが,実習生の背景にある目標を指導者側が汲み取って対応する事で,臨床実習の果たす役割はより大きなものになると思われた。今回の指導経験をもとに,今後は実習開始時に実習生の目標や意欲の聞き取り,評価等を実施し,より具体的に実習指導の効果判定を積み重ねていく事で,理学療法学研究としての意義が高まると思われた。