[0369] 健常者および脊柱後弯者における脊柱屈曲モーメントの検討
Keywords:脊柱後弯, 体幹, モーメント
【はじめに,目的】
高齢化に伴い脊柱変形者も増加している。脊柱後弯変形は様々な病態を引き起こすが,特に日本人に多いとされる腰椎前弯の減少はADL障害を引き起こし,QOLが低下すると報告されている。脊柱変形は椎間板腔の狭小化や椎体圧迫骨折など脊柱前方要素の短縮の他に,体幹伸展筋群の筋力低下も一因として挙げられる。さらに体幹伸展筋の筋力増強が脊柱後弯や椎体圧迫骨折発生率を減少させるとした報告があり,筋力の影響は非常に大きい。これまでわれわれは,3次元体幹筋骨格モデルを作成し,前屈時における脊柱モーメントや体幹筋張力の変化,スクワット動作時の下肢を含めた解析など報告してきた。今回,脊柱変形者で同様の解析を行った。本研究の目的は3次元体幹筋骨格モデルを用いて,健常者および後弯変形高齢者における脊柱屈曲モーメントを検討することである。
【方法】
3次元体幹筋骨格モデルの作成
健常な成人男性(31歳,身長1.74m,体重78.5kg)を対象にCT,MRIを撮像した。3次元骨格モデルは,Materialise社製MIMICSを用いてCT/DICOMデータから骨形状を抽出し作成した。筋骨格モデルは,豊田中央研究所製EICASを使用し3次元抽出した骨格を基に作成した。MRI断層画像より各筋の走行を再現した。モデル構築に使用した筋は,腹直筋,内外腹斜筋,腰方形筋,大腰筋,棘間筋,横突間筋,回旋筋,多裂筋,腰腸肋筋,胸腸肋筋,胸最長筋,胸棘筋,胸半棘筋である。各筋の断面積はMRIより算出し,腹圧は外力として設定した。また,各椎体間の可動性はモーメントに影響を及ぼすため,レントゲン写真で可動性を測定し,関節最終可動域で抵抗がかかるように設定した。
動作分析
構築した筋骨格モデルに立位時の状態を反映させるため,3次元動作解析装置VICON MXを使用し,静的立位姿勢を計測した。対象は健常成人7名(平均身長173.4 cm,平均体重68.9 kg)および高齢脊柱後弯者1例(73歳女性,身長150cm,体重54kg,変形タイプは全後弯,骨折既往や骨粗鬆症治療歴および転倒歴なし)とした。反射マーカーは直径6mmを使用し,脊柱と骨盤および四肢に合計72個のマーカーを貼付した。計測した座標位置を3次元体幹筋骨格モデルに反映させ,各椎体における脊柱屈曲モーメントを算出した。計測条件は健常者群で直立立位姿勢と脊柱起立筋群を脱力させた立位の2条件とし,高齢脊柱後弯例は直立姿勢のみとした。VICON MXから得られた各マーカーの座標位置を作成した体幹筋骨格モデルに反映させた。モデルから各条件における脊柱屈曲モーメントを算出した。健常者における2条件の立位はMann-whitney検定を用いて比較した。有意水準は5%未満とし,統計処理はSPSS ver.20を使用した。また,健常者から得られたデータを使用し,先行研究で石川らが作成した脊柱シミュレーションモデルを用いて脱力立位と直立位における第8胸椎の応力を解析した。応力解析はVisual Nastran 4Dを使用した。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は世界医師会によるヘルシンキ宣言に則り行った。全ての被験者に対し十分に趣旨を理解して頂き,研究に同意を得た。また整形外科の医師によりCT,MRI,レントゲンを撮像した。
【結果】
各椎間における屈曲モーメントは,脱力した立位(106.0±12.5 Nm/Kg・ht・10-3)より直立位(73.6±10.4 Nm/Kg・ht・10-3)で有意に減少した(p=0.046)。特に脊柱屈曲モーメントは直立位でT8レベル周囲をピークとした放物線を描き,ほぼ脊柱の生理的弯曲に合致していた。高齢後弯変形者の屈曲モーメントはT11/12を中心にピーク(142.0±5.5 Nm/Kg・ht・10-3)を示し,L4/5において減少した。これは,後弯変形症例のレントゲン像から得た脊柱後弯の頂椎とほぼ一致した。また,健常者のデータから得られた応力解析では直立姿勢より脱力した立位で第8胸椎の椎体にかかる応力が増加する結果となった。応力集中は特に椎体前縁で著明に確認された。
【考察】
脊柱アライメントは筋力の与える影響が大きく,先行研究で脊柱シミュレーションモデルから体幹伸展筋力を低下させると脊柱後弯が増強することを報告した。今回の結果より脱力など前屈角度で脊柱屈曲モーメント量が増加し,さらに全後弯など頂椎位置の変位で最大屈曲モーメント位置も同様に変位した。以上より,脊柱後弯の程度や頂椎の位置により必要とされる筋の部位も異なり,症例に応じた個別的な筋力強化方法の立案が必要と考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
後弯により脊柱屈曲モーメントが増強するため,筋疲労による腰背部痛発生の可能性がある。従って,症例に応じた筋力増強プログラムの立案が重要と考えられる。
高齢化に伴い脊柱変形者も増加している。脊柱後弯変形は様々な病態を引き起こすが,特に日本人に多いとされる腰椎前弯の減少はADL障害を引き起こし,QOLが低下すると報告されている。脊柱変形は椎間板腔の狭小化や椎体圧迫骨折など脊柱前方要素の短縮の他に,体幹伸展筋群の筋力低下も一因として挙げられる。さらに体幹伸展筋の筋力増強が脊柱後弯や椎体圧迫骨折発生率を減少させるとした報告があり,筋力の影響は非常に大きい。これまでわれわれは,3次元体幹筋骨格モデルを作成し,前屈時における脊柱モーメントや体幹筋張力の変化,スクワット動作時の下肢を含めた解析など報告してきた。今回,脊柱変形者で同様の解析を行った。本研究の目的は3次元体幹筋骨格モデルを用いて,健常者および後弯変形高齢者における脊柱屈曲モーメントを検討することである。
【方法】
3次元体幹筋骨格モデルの作成
健常な成人男性(31歳,身長1.74m,体重78.5kg)を対象にCT,MRIを撮像した。3次元骨格モデルは,Materialise社製MIMICSを用いてCT/DICOMデータから骨形状を抽出し作成した。筋骨格モデルは,豊田中央研究所製EICASを使用し3次元抽出した骨格を基に作成した。MRI断層画像より各筋の走行を再現した。モデル構築に使用した筋は,腹直筋,内外腹斜筋,腰方形筋,大腰筋,棘間筋,横突間筋,回旋筋,多裂筋,腰腸肋筋,胸腸肋筋,胸最長筋,胸棘筋,胸半棘筋である。各筋の断面積はMRIより算出し,腹圧は外力として設定した。また,各椎体間の可動性はモーメントに影響を及ぼすため,レントゲン写真で可動性を測定し,関節最終可動域で抵抗がかかるように設定した。
動作分析
構築した筋骨格モデルに立位時の状態を反映させるため,3次元動作解析装置VICON MXを使用し,静的立位姿勢を計測した。対象は健常成人7名(平均身長173.4 cm,平均体重68.9 kg)および高齢脊柱後弯者1例(73歳女性,身長150cm,体重54kg,変形タイプは全後弯,骨折既往や骨粗鬆症治療歴および転倒歴なし)とした。反射マーカーは直径6mmを使用し,脊柱と骨盤および四肢に合計72個のマーカーを貼付した。計測した座標位置を3次元体幹筋骨格モデルに反映させ,各椎体における脊柱屈曲モーメントを算出した。計測条件は健常者群で直立立位姿勢と脊柱起立筋群を脱力させた立位の2条件とし,高齢脊柱後弯例は直立姿勢のみとした。VICON MXから得られた各マーカーの座標位置を作成した体幹筋骨格モデルに反映させた。モデルから各条件における脊柱屈曲モーメントを算出した。健常者における2条件の立位はMann-whitney検定を用いて比較した。有意水準は5%未満とし,統計処理はSPSS ver.20を使用した。また,健常者から得られたデータを使用し,先行研究で石川らが作成した脊柱シミュレーションモデルを用いて脱力立位と直立位における第8胸椎の応力を解析した。応力解析はVisual Nastran 4Dを使用した。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は世界医師会によるヘルシンキ宣言に則り行った。全ての被験者に対し十分に趣旨を理解して頂き,研究に同意を得た。また整形外科の医師によりCT,MRI,レントゲンを撮像した。
【結果】
各椎間における屈曲モーメントは,脱力した立位(106.0±12.5 Nm/Kg・ht・10-3)より直立位(73.6±10.4 Nm/Kg・ht・10-3)で有意に減少した(p=0.046)。特に脊柱屈曲モーメントは直立位でT8レベル周囲をピークとした放物線を描き,ほぼ脊柱の生理的弯曲に合致していた。高齢後弯変形者の屈曲モーメントはT11/12を中心にピーク(142.0±5.5 Nm/Kg・ht・10-3)を示し,L4/5において減少した。これは,後弯変形症例のレントゲン像から得た脊柱後弯の頂椎とほぼ一致した。また,健常者のデータから得られた応力解析では直立姿勢より脱力した立位で第8胸椎の椎体にかかる応力が増加する結果となった。応力集中は特に椎体前縁で著明に確認された。
【考察】
脊柱アライメントは筋力の与える影響が大きく,先行研究で脊柱シミュレーションモデルから体幹伸展筋力を低下させると脊柱後弯が増強することを報告した。今回の結果より脱力など前屈角度で脊柱屈曲モーメント量が増加し,さらに全後弯など頂椎位置の変位で最大屈曲モーメント位置も同様に変位した。以上より,脊柱後弯の程度や頂椎の位置により必要とされる筋の部位も異なり,症例に応じた個別的な筋力強化方法の立案が必要と考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
後弯により脊柱屈曲モーメントが増強するため,筋疲労による腰背部痛発生の可能性がある。従って,症例に応じた筋力増強プログラムの立案が重要と考えられる。