第49回日本理学療法学術大会

講演情報

発表演題 ポスター » 運動器理学療法 ポスター

骨・関節7

2014年5月30日(金) 14:25 〜 15:15 ポスター会場 (運動器)

座長:隈元庸夫(埼玉県立大学保健医療福祉学部理学療法学科)

運動器 ポスター

[0371] 脊柱アライメントの変化が下肢の運動力学的変化に及ぼす影響

曽田直樹1,2, 植木努1, 藤橋雄一郎1, 青木隆明2 (1.平成医療短期大学リハビリテーション学科理学療法専攻, 2.岐阜大学大学院医学系研究科医科学専攻病態制御学整形外科学)

キーワード:三次元解析, 脊柱アライメント, 装具歩行

【はじめに,目的】
脊柱後彎変形は,正常な脊柱アライメントをもつ高齢者と比較して転倒のリスクが高く,屋外での活動範囲が制限される。そのためQOLの低下や活動量の減少が生じ,さらなる運動機能の低下を招くという悪循環を引き起こす可能性がある。脊柱後彎変形による歩行の研究では,変形のない場合と比較し歩幅の減少や歩行速度の低下,膝関節が屈曲位をとるなど運動学的な観点より観察した報告がされている。しかし運動力学的な観点より観察した報告はほとんど見られず,脊柱後彎変形による歩行の推進力や衝撃吸収能力,エネルギー効率への影響は明らかになっていない。その為それらを分析することによってより効率の良い歩行を獲得させるための指標となる可能性がある。また先行研究では対象が高齢者であり脊柱変形以外の機能的な問題も影響を及ぼしている可能性が考えられ,変形によってのみ生じる影響を明らかにすることは困難であるとされてきた。歩行能力向上は活動範囲の増大やQOLの向上などにつながることからもその分析は理学療法をすすめる上で不可欠な課題である。そこで本研究では,健常成人に対して脊柱後彎矯正装具を用い,脊柱後彎変形による歩行を再現し,正常歩行との違いについて運動学的及び運動力学的観点から分析することで脊柱後彎変形が歩行に及ぼす影響を調査することを目的とした。
【方法】
対象は健常成人9名(平均年齢23歳,平均身長175.3cm,平均体重65.5kg)とした。脊柱後彎矯正装具は,義肢装具士に作成を依頼し,3点で固定することで腰椎伸展が制限されるように矯正した。後彎角度は約15°とした。測定は,歩行路3mを設け,3台の床反力計及び6台の赤外線カメラで構成された三次元動作解析装置を使用した。赤外線反射マーカーは,VICON社のPlug in gait full bodyモデルに準じて計35個貼付した。歩行測定は,装具歩行を測定した後,通常歩行を測定した。装具歩行及び通常歩行は,それぞれ数回試行し,安定した3試行分のデータを測定に用いた。なお先行研究より脊柱後彎変形の歩行では通常歩行に比べ歩行速度が低下することから,解析時に歩行速度を調整するため,通常歩行では自由歩行に加えて遅い速度での歩行を同時に測定した。解析項目は歩行速度と運動学的項目として矢状面上の各下肢関節角度のピーク値を求めた。運動力学的項目は,矢状面上の各下肢関節での関節パワーのピーク値を求め体重で正規化した。また,身体重心の上下・左右の移動量を算出した。さらに,床反力データは立脚中期で前後2相に分け,立脚前期を制動力,立脚後期を推進力として,鉛直及び前後成分のピーク値を求め体重で正規化したものを用いた。統計学的処理には,対応のあるt検定を用い,有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
全ての対象者に対し本研究の趣旨及び方法を十分に説明し,書面にて参加の同意を得たうえでヘルシンキ宣言を遵守しながら実施した。本研究は本大学の倫理委員会の承認を得て実施した。
【結果】
歩行速度は通常歩行1.03m/s,装具歩行0.85m/sであり,両歩行間に有意な差を認めた。歩行速度を調整するため,通常歩行では自由歩行及び遅い速度での歩行から装具歩行の歩行速度に近い歩行を選択して解析に用いた。速度調整後,通常歩行での歩行速度は0.84m/sとなり,両条件間の歩行速度に有意な差がなくなった状態で,各項目を算出した。装具歩行において運動学的項目では,膝関節屈曲及び足関節背屈角度が有意に高い値を示した。また膝関節伸展角度は有意に低い値を示した。運動力学的項目では,装具歩行において足関節底屈の正の関節パワーが高い値を示した。また重心の上下移動量において低い値を示した。その他の結果は両歩行間に有意な差は認められなかった。
【考察】
本研究で示された装具歩行における歩行速度の低下及び運動学的項目の結果は,先行研究と同様の傾向であり,装具歩行が高齢者の後彎歩行と同様の環境であることが示唆される。そしてこの歩行速度や関節角度への影響は脊柱アライメントの変形の代償的な動きを反映したものと考えられる。また運動力学的な分析では,立脚後期に発揮される足関節底屈の正の関節パワーは,足の振り出しや推進力に影響するが,歩行速度に差がなかったにもかかわらず,その値が大きかったことは通常歩行ほど推進力に貢献できていないことや,他の推進力を代償していることが推測され,重心の上下移動量が少なかったことからも力学的に不利な環境であることが示唆される。
【理学療法学研究としての意義】
高齢になると歩行能力低下が生じるが,脊柱の変形では,さらにその能力を低下させることが推測され,力学的に不利なストラテジーの選択を強いられている可能性がある。そのため足関節パワーに注目することで歩行能力向上に貢献できる可能性がある。