第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 ポスター » 運動器理学療法 ポスター

骨・関節7

2014年5月30日(金) 14:25 〜 15:15 ポスター会場 (運動器)

座長:隈元庸夫(埼玉県立大学保健医療福祉学部理学療法学科)

運動器 ポスター

[0372] 慢性非特異的腰痛症例における痛みと2点識別覚の変化

梶原沙央里1, 西上智彦2, 壬生彰1, 山本昇吾1, 岸下修三1, 松﨑浩1, 田辺曉人1 (1.田辺整形外科上本町クリニック, 2.甲南女子大学看護リハビリテーション学部)

キーワード:慢性非特異的腰痛, 疼痛, 二点識別覚

【はじめに,目的】
これまでに,慢性非特異的腰痛症例において主に筋や筋膜などの末梢組織器官に対してストレッチや筋力増強運動などの運動療法が行われてきたが十分な効果が得られないことも多い。近年,慢性に強い痛みが生じており,治療に難渋する複合性局所疼痛症候群(CRPS)症例において,身体イメージの異常や2点識別覚の閾値の増加といった中枢神経系の機能異常が報告されている。我々は第48回本学会において慢性非特異的腰痛症例においても,2点識別覚の閾値の増加が認められることを報告し,中枢神経系の変化が生じている可能性を示したが,腰背部痛と2点識別覚との関連を明らかにするまでには至らなかった。そこで,本研究の目的は慢性非特異的腰痛症例において,初期評価と3ヶ月後評価において腰背部痛と2点識別覚の変化を検討し,腰背部痛と2点識別覚との関係を明らかにすることである。
【方法】
対象は45歳以上80歳以下で腰背部痛が6ヵ月以上持続する男性4名女性8名の12名(平均年齢71.8±6.3歳)とした。腰背部痛群の除外基準は脊椎疾患の診断をうけている,または疑わしい者,神経根性疼痛を有する者,脊椎に対する外科的手術の既往がある者,腰部の著明な変形がある者とした。評価は初期及び初期評価後3ヶ月以上経過した時点の計2回行った。評価項目は腰背部の痛みの強度と2点識別覚とした。腰背部痛の強度は「痛みなし」を0,「これ以上耐えることのできない痛み」を10としたNumeric Rating Scale(NRS)にて評価した。2点識別覚はMobergの方法に準拠して行った。測定肢位は腹臥位にて,測定部位は疼痛がある部位のレベルを測定した。方法はキャリパーを脊柱に対して垂直にあて,キャリパーの中心は疼痛部位の中心とした。10 mmから始め,5 mmずつ間隔を広げていき,最初に明確に2点と答えた点を記録した。その後,100 mmから5 mmずつ間隔を減らしていき,1点と答えた点を記録した。それぞれ2回測定し,その平均値を2点識別覚の閾値として採用した。なお,介入はストレッチ,筋力増強運動といった通常の運動療法を中心に行った。統計はSPSS11.0Jを用いて行った。腰背部のNRS及び2点識別覚について初期評価と3ヶ月後の差を対応のあるt検定を用いてそれぞれ比較した。なお,有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は甲南女子大学倫理委員会の承認を得て実施した。事前に研究目的と方法を十分に説明し,同意が得られた者のみを対象とした。
【結果】
腰背部痛のNRSは初期評価時は38.0±18.3,3ヶ月後は16.4±18.4であり,有意な差が認められた(p<0.05)。2点識別覚は初期評価時が71.7±14.0 mm,3ヶ月後は54.7±11.3 mmであり,有意な差が認められた(p<0.05)。
【考察】
CRPS症例において,2点識別覚は痛みや一次体性感覚野の受容野の大きさと関連することが明らかとなっており,重要な評価の一つである。本研究において,初期評価時より3ヶ月後に腰背部痛及び2点識別覚が改善していたことから,腰背部痛と2点識別覚との関連が示唆された。CRPS症例において,一次体性感覚野の受容野が縮小しており,薬物療法や理学療法によって痛みが改善すると,一次体性感覚野の受容野が健側と同程度に改善することが報告されている。慢性非特異的腰痛症においても,一次体性感覚野の受容野は縮小していることが報告されており,2点識別覚の閾値の増加はこの一次体性感覚野の縮小を反映していると考えられる。さらに先行研究と同様に理学療法によって一次体性感覚野の受容野が改善し,2点識別覚の閾値が減少したと考えられる。
【理学療法研究としての意義】
本研究より,慢性非特異性腰痛症例における腰背部痛と2点識別覚の関係性が認められ,慢性非特異的腰痛の病態に一次体性感覚野を中心とした中枢神経系の機能異常が関与しているという知見を高めた点。