[0373] 腰部脊柱管狭窄症症例に対するShuttle Walking Testの試み
キーワード:腰部脊柱管狭窄症, シャトルウォーキングテスト, 歩行
【はじめに,目的】
腰部脊柱管狭窄症(以下LCS)症例の臨床症状の主なものとして,歩行能力の低下が挙げられる。LCSの歩行評価としては,6分間歩行テスト(以下6MWT)やトレッドミルを使用した方法等が挙げられている。6MWTは「できるだけ長く歩いてください」といった歩行の指示で検査が開始されるが,評価結果は本人の意欲にも左右される。またNarguesらは6MWTにおいて歩行速度が異なることで評価結果に違いが生じると述べている。Shuttle Walking Test(以下SWT)は慢性呼吸器疾患患者を主対象として考案された簡便な運動負荷試験である。SWTは歩行能力の要素となる「速度」と「距離」の要素を含んでおり,ステージごとに歩行速度が定められているため,歩行距離と同時に歩行速度を評価することができる。我々はこのように歩行速度の条件が設定されることで他の疾患に対しても歩行能力を正確に評価できるのではないかと考える。そこで今回LCS症例を対象に歩行評価としてSWTを実施し,従来使用されている6MWTと比較・調査を行った。
【方法】
当院整形外科にLCSの診断の下,手術目的で入院した17症例を対象とした。内訳は男性9名,女性8名で,平均年齢は72.2±6.4歳(56~81歳)であった。歩行状態は独歩または杖歩行が可能な症例とし,呼吸器疾患および下肢関節に手術の既往がある症例は除外した。歩行評価として術前・術後1週目・術後2週目の時期に6MWTとSWTを同日に評価し,歩行距離と歩行速度の推移を調査した。統計に関しては各時期における6MWTとSWTの関連をPearsonの相関係数を用いた。また,6MWTとSWTの歩行距離の経過に関しては一元配置分散分析を用いて分析した。統計解析には統計解析用ソフトSPSS 19.0.0を用いて危険率5%未満を有意水準とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
当院の倫理委員会の承認を得て行われ,対象者の同意を得て実施した。
【結果】
6MWTの歩行距離は術前)285.5±129.8m,術後1週)337.1±113.2m,術後2週)403.2±93.5mであった。SWTの歩行距離は術前)212.4±119.1m,術後1週)218.8±152.0m,術後2週)282.4±125.8mであった。SWT終了の原因は,「速度に間に合わない」という理由であった。歩行距離に関しては全体の90%の症例がSWTよりも6MWTのほうで長かった。各時期における相関係数は術前)r=0.805,術後1週)r=0.855 術後2週)r=0.903でいずれの時期において強い相関を認めた。歩行速度に関しては6MWTでは29%,SWTでは41%において術後1週で一時的に低下し,術後2週に上昇する傾向がみられた。また全体の72%の症例が6MWTよりもSWTのほうで歩行速度が速かった。歩行能力の回復においては,6MWTでは術前から術後2週目の間で有意差を認めた(P<0.01)。一方,SWTにおいては術前から術後2週目の間で有意差はみられなかった。
【考察】
LCSに対する歩行評価として,直線往復歩行・曲線往復歩行・トレッドミル歩行・6MWT等が報告されている。高齢患者ではトレッドミルによる検査は恐怖心のために困難である,LCS患者(平均74.7歳)の82.4%の患者がトレッドミルによる検査を最後まで実施できなかったとの報告があり,対象者の年齢を考慮するとトレッドミルを用いた評価は困難である。SWTは毎分ごとに歩行速度が増加し,そのことにより歩行条件が一定となり被検者に課題が与えられる。Prattらは,SWTはトレッドミルによる検査などに比べて特殊な器具がいらず,高齢者にも行いやすく腰部脊柱管狭窄症患者の運動能力評価に再現性があったと述べており,6MWTに比べ再現性は得られやすいと考える。今回の調査では各時期において強い相関を認めたが,術前から術後2週目までの経過に関しては6MWTでは有意差を認め,SWTでは有意差を認めなかった。SWTの歩行終了の理由は「速度に間に合わない」ためということが多く,SWTが歩行速度の要素を含んでいることで,術後の疼痛や術後早期という不安感等の影響で条件に合った歩行速度まで到達できなかったためと考える。また,歩行距離に関しては6MWT,歩行速度に関してはSWTが高い数値を示した。歩行速度を条件とすることは,歩行距離においては不利な点となった。しかし,歩行距離と歩行速度を含んだ歩行評価としては双方に相関関係もあり有用と考える。評価の実施場所を考慮すると6MWTの30mに対してSWTの10mは場所の確保には利点である。何をもって歩行能力の改善経過を観察するかを考慮することでSWTはLCSの歩行評価として活用できる可能性がある。
【理学療法学研究としての意義】
LCSに対する歩行評価としては従来6MWTが用いられてきた。今回SWTと6MWTを用いた歩行能力の評価を行い,異なる特徴が得られた。術前後の各時期においてSWTと6MWTの間に相関関係もみられたことから,LCSの歩行評価として活用できることが示唆された。
腰部脊柱管狭窄症(以下LCS)症例の臨床症状の主なものとして,歩行能力の低下が挙げられる。LCSの歩行評価としては,6分間歩行テスト(以下6MWT)やトレッドミルを使用した方法等が挙げられている。6MWTは「できるだけ長く歩いてください」といった歩行の指示で検査が開始されるが,評価結果は本人の意欲にも左右される。またNarguesらは6MWTにおいて歩行速度が異なることで評価結果に違いが生じると述べている。Shuttle Walking Test(以下SWT)は慢性呼吸器疾患患者を主対象として考案された簡便な運動負荷試験である。SWTは歩行能力の要素となる「速度」と「距離」の要素を含んでおり,ステージごとに歩行速度が定められているため,歩行距離と同時に歩行速度を評価することができる。我々はこのように歩行速度の条件が設定されることで他の疾患に対しても歩行能力を正確に評価できるのではないかと考える。そこで今回LCS症例を対象に歩行評価としてSWTを実施し,従来使用されている6MWTと比較・調査を行った。
【方法】
当院整形外科にLCSの診断の下,手術目的で入院した17症例を対象とした。内訳は男性9名,女性8名で,平均年齢は72.2±6.4歳(56~81歳)であった。歩行状態は独歩または杖歩行が可能な症例とし,呼吸器疾患および下肢関節に手術の既往がある症例は除外した。歩行評価として術前・術後1週目・術後2週目の時期に6MWTとSWTを同日に評価し,歩行距離と歩行速度の推移を調査した。統計に関しては各時期における6MWTとSWTの関連をPearsonの相関係数を用いた。また,6MWTとSWTの歩行距離の経過に関しては一元配置分散分析を用いて分析した。統計解析には統計解析用ソフトSPSS 19.0.0を用いて危険率5%未満を有意水準とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
当院の倫理委員会の承認を得て行われ,対象者の同意を得て実施した。
【結果】
6MWTの歩行距離は術前)285.5±129.8m,術後1週)337.1±113.2m,術後2週)403.2±93.5mであった。SWTの歩行距離は術前)212.4±119.1m,術後1週)218.8±152.0m,術後2週)282.4±125.8mであった。SWT終了の原因は,「速度に間に合わない」という理由であった。歩行距離に関しては全体の90%の症例がSWTよりも6MWTのほうで長かった。各時期における相関係数は術前)r=0.805,術後1週)r=0.855 術後2週)r=0.903でいずれの時期において強い相関を認めた。歩行速度に関しては6MWTでは29%,SWTでは41%において術後1週で一時的に低下し,術後2週に上昇する傾向がみられた。また全体の72%の症例が6MWTよりもSWTのほうで歩行速度が速かった。歩行能力の回復においては,6MWTでは術前から術後2週目の間で有意差を認めた(P<0.01)。一方,SWTにおいては術前から術後2週目の間で有意差はみられなかった。
【考察】
LCSに対する歩行評価として,直線往復歩行・曲線往復歩行・トレッドミル歩行・6MWT等が報告されている。高齢患者ではトレッドミルによる検査は恐怖心のために困難である,LCS患者(平均74.7歳)の82.4%の患者がトレッドミルによる検査を最後まで実施できなかったとの報告があり,対象者の年齢を考慮するとトレッドミルを用いた評価は困難である。SWTは毎分ごとに歩行速度が増加し,そのことにより歩行条件が一定となり被検者に課題が与えられる。Prattらは,SWTはトレッドミルによる検査などに比べて特殊な器具がいらず,高齢者にも行いやすく腰部脊柱管狭窄症患者の運動能力評価に再現性があったと述べており,6MWTに比べ再現性は得られやすいと考える。今回の調査では各時期において強い相関を認めたが,術前から術後2週目までの経過に関しては6MWTでは有意差を認め,SWTでは有意差を認めなかった。SWTの歩行終了の理由は「速度に間に合わない」ためということが多く,SWTが歩行速度の要素を含んでいることで,術後の疼痛や術後早期という不安感等の影響で条件に合った歩行速度まで到達できなかったためと考える。また,歩行距離に関しては6MWT,歩行速度に関してはSWTが高い数値を示した。歩行速度を条件とすることは,歩行距離においては不利な点となった。しかし,歩行距離と歩行速度を含んだ歩行評価としては双方に相関関係もあり有用と考える。評価の実施場所を考慮すると6MWTの30mに対してSWTの10mは場所の確保には利点である。何をもって歩行能力の改善経過を観察するかを考慮することでSWTはLCSの歩行評価として活用できる可能性がある。
【理学療法学研究としての意義】
LCSに対する歩行評価としては従来6MWTが用いられてきた。今回SWTと6MWTを用いた歩行能力の評価を行い,異なる特徴が得られた。術前後の各時期においてSWTと6MWTの間に相関関係もみられたことから,LCSの歩行評価として活用できることが示唆された。